テレビを眺めつつ硬直している私に、同僚が声をかけた。
「小鹿野さん? どうしたの?」
私は我に返り、「あっいえ、なんかすごいことになってるみたいですね」とごにょごにょ濁した。
「そうなんだよねー! Xも大騒ぎだよ!実況してる人もいるよ!」
同僚は興奮して言った。これは、テレビよりいろいろ知ってるかもしれない。
情報が欲しい。まあSNS産じゃ、デマもあるかもしれないけど……。
「どんなことになってるんですか?」
「なんかねえ、何も無いところにいきなり突風が吹いて、光ったあとに外人っぽい人が何人も現れて、それで言葉がすごく不思議なんだって!」
「不思議?どんな風に?」
「なんかねえ、英語っぽくてでも違う言葉なのに、言ってることが全部わかるんだって!」
碧水石の効果だ。碧水石は、人が言葉に乗せて伝えたい意味を直接脳にお届けする効果を持つ。身につけていると、一種のテレパスになれるのだ。
ただ、効果は対面限定である。私はサマセット国に魔力による画面通話を普及させたが、碧水石は画面通話では効果をなさなかった。
ということは、多分テレビでも言葉はわからない……いや、私なら多少はわかるかな。7年も過ごしたし。
私は同僚に聞いた。
「現れた人たち、何しに来たんでしょうね?」
「勇者探してるっていうのと、あと女らしくなりたいって人がいたって言ってるツイート見た」
おそらく男装の子、クラレンドだ。確かに彼女なら、こっちに来る理由はあるけど……。
他の同僚が「勇者? 世界救ってくれってこと?」と話に入ってきた。同僚が答えた。
「ううん、なんか、別の世界から来た人たちで、あっちの世界で勇者だったこっちの世界の人探してるって」
だいぶ直球の情報が来たな……現地の人なら言葉通じるだろうし、現地実況してる人がいるなこれは。
上司が休憩室に入ってきて、言った。
「こっちには影響ないみたいだから、午後の仕事もちゃんとしてよね!」
……そう、私はピペット土方。新しいエネルギー源、原発に変わりうる温暖化も救いうるエネルギー源をもたらすような人たちとは、住む場所が違う。
だから、何も言わず、名乗らず、ひっそりとこの生活を続けようと思っていた。
けれど、そうは問屋が卸さなかったのだった。