これまで全力で感情を表に出さないよう努めてきたが、さすがに今回は無理だった。
「な、ななな何のことでしょう、センさんは男性のはずでは?」
声が震えるのを感じる。チャチャちゃんも目を丸くしてる。
ジークレフは言った。
「性別以外の特徴が一致しすぎている。規格外な魔力も検知した。それに、よく考えたらセンは男とも限らないことに気づいた」
頭が回る人怖い!
私は命乞いをするような思いで言った。
「こ、このことはここだけの話にしてもらえませんか」
「そのつもりで、お前だけ借りてきた。何を考えて隠れていたんだ?」
私は、大きくため息をついた。なんかもう、感情を表に出さない理由がなくなって、表情が崩れるのを感じる。もう『セン』を出してもいいのか……。
私は、セン時代の口調、あまり取り繕わない話し方になってしまった。
「いや、あの、特に腹に一物あるわけじゃないですけど……サマセットに名乗り出るのは無理ですよ。あんな国で、男の体に女の魂が入ってたって言ったらどんなことになるか」
トランスジェンダーも同性愛者も気狂い扱い矯正扱いの国でそんな事言いたくない! ついでに同性愛者なのもバレたくない! 日本でもほとんどの人にバラしてないけど!
チャチャちゃんがジークレフと私を交互に見て言った。
「でも、あの、小鹿野さんはもうクラレンドさん達と仲良しなんでしょう?なら言っても……」
私は眉根を寄せた。
「クラレンドたちは、センっていう「男」を探しに来てるんですよ。私は女なので、名乗り出たくありません」
チャチャちゃんがなぜこの場にいるかというと、おそらくジークレフの『教育』なんだろう。チャチャちゃんは出自サマセット、教育は魔国。魔国とサマセットの温厚な外交に、ピッタリの人材だから。
ジークレフが私に声をかけた。
「魔国はその辺り寛容だぞ、来ないか?」
私は面食らった。
「えっ、これ引き抜きでもあるんです?」
「お前の魔力は利用価値があるし、ムルーターの呪いをなんとかしなければならない」
「呪い、あるの確定なんですか」
「ほぼ確定になった」
ジークレフは天を仰いだ。
「お前、ムルーターを仕留める際、「縛り」を作ったらしいな。「縛り」通りならムルーターは記憶を持ったまま、お前が知る女の腹から生まれてくるとか」
「あー、それですか……」
縛り、それは契約とも似た魔法の技術。「〇〇しない限りは▲▲できる」「◆◆の代わりに●●となる」みたいなやつ。縛りがきついほど効果が上がる。
で、私はムルーターを仕留める時、縛りを作った。
「お前を殺す代わり、お前が私の世界で私を見つけられたら、お前は記憶を持ったまま、私が指定した女の腹から生まれる」
と言うやつ。
私は言った。
「まあ、女の腹には一人アテがあったので……」
「お前自身か」
頭のいい人は話が早いなあ。
「まあ万が一の時、他の人に迷惑かけられないので」
「ふむ。お前の魔力なら、ムルーターがサマセットにかけようとしている呪いは打ち払えるが、そうするとムルーターが「セン」を見つけやすくなってしまうのか」
あ、サマセットに呪いかけてるのは確定なのか。私個人じゃないんだ。
「まあ、産みたくありませんねえ、あんな男尊女卑のおっさん」
ムルーターの野望、男尊女卑が強いサマセットで自分の思い通りの男尊女卑の国を作ることだった。女奴隷集めてハーレム作るつもりだったし、配下に女奴隷あてがうつもりでもあったしなあ。
ジークレフは頷いた。
「……話は分かった。お前がセンだということは他言しない。ただ、呪いを祓うための魔力は使ってもらう」
「まあ、魔力持ちとバレるのは想定内ではありますが……」
「お前はあくまで、小鹿野千春だ。そして、偶然にも規格外の魔力を持っていると判明する。それでいいな」
「はい」
「呪いの詳細がわかったらまた伝える。チャチャの故郷を呪わせるわけに行かないからな」
この人、チャチャちゃんに骨抜きなんだよな。妹か娘くらいに思ってるよ。
私は答えた。
「今お話した内容は、「ムルーターがサマセットを呪っているとほぼ確定となった」「私の魔力なら祓える可能性がある」ということにしておいてよろしいでしょうか?」
「それでいい。私もまたクラレンドたちと顔を合わせる」
そう言うことで、話はまとまった。