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第15話

「恵美、私と彼は合わないわ。」


「どうして?」

松下恵美が軽く聞き返す。

「灰崎と友達だからってこと?そんなの気にしなくていいよ。正直に、うちの弟の見た目は好みじゃないの?」


松下春木は、いわゆる世間一般が言う美男子ではなかった。

顔立ちは鋭く、初対面の人にはどこか陰のある印象を与えるタイプだ。


けれど、しばらく見ていると、男らしさが滲み出ていて、不思議と安心できる雰囲気も持っている。


でも、それは陽葵には関係のないことだった。


「蒼空がどう思うかはどうでもいいの。ただ、今は……そういう気分じゃないの。」


蒼空が部屋に入ってきて、ちょうどその言葉を耳にした。


やっぱり、一条陽葵は陰で自分の悪口を言っている!


怒りにまかせて、彼は電話を奪い取った。


気持ちを抑え、できるだけ穏やかに話す。


「恵美さん、灰崎です。」


その声を聞いて、恵美は眉をひそめた。


あの日、陽葵がどんな目にあったのかを知ってから、彼女は灰崎に対して非常に良くない印象を持っていた。


「灰崎さん、何かご用ですか?」


「率直に言わせていただきますが、恵美さんのその行動は控えた方がいいと思います。」


松下恵美はクスリと笑う。


「灰崎さん、あなたはどんな立場で私にそんなことを言うの?陽葵とあなたはもう関係ないでしょ。彼女は自由なんだから、私が誰を紹介しようと勝手じゃない?」


恵美の言うことはすべて事実だった。だからこそ、蒼空の胸にはグサリと刺さる。


蒼空は、そこに座っている陽葵を見つめた。彼女は微動だにせず、蒼空の方を一切見ようともしない。


スポットライトを浴びている時の彼女は、あまりにも輝いていて、蒼空の記憶にある「自分のことばかり気にして、よく眉をひそめては何かを要求してくる」陽葵とはまるで別人だった。


もう陽葵から離れたはずなのに、彼女が自分に無関心でそっけなくなると、なぜか腹が立つ。


「俺は思うんだ。陽葵は、春木には似合わない!」


松下春木:「……(こんな時に俺の味方してくるのか!)」


陽葵は怒りを込めて蒼空を睨みつけた。


蒼空は勝ち誇ったように、さらに口を滑らせる。

「春木は素晴らしい人間だ。もっとふさわしい相手がいるべきだ。離婚歴があって、中絶もした女じゃなくて。」


松下恵美は冷たく笑う。

「灰崎さん、私は友達を悪く言う人間が大嫌いなんです。今度、カイルに御社との取引を見直すよう話してみますね。」


恵美は本気で怒っていた。

最終決定権はなくても、彼女が一言助言すれば、カイルの灰崎グループへの印象を悪くすることくらい簡単だった。


蒼空は青ざめた。さっきの発言は、陽葵に嫌な思いをさせたくてわざと言ったものだ。


どうして彼女は離婚しても幸せそうにしているんだ。どうして春木のような家柄のいい男性を紹介され、恵美とまで友達になれるんだ。


でも、言ってしまった後で少しだけ後悔もした。


けれど男としてのプライドがある。陽葵の前で情けない姿は晒せない。


蒼空が黙り込むと、恵美は冷笑を一つ残した。


「陽葵に代わって。」


陽葵は最初から会話を聞いていたので、恵美に呼ばれると自分から電話を受け取った。


その時、偶然指先が蒼空の指に触れてしまい、蒼空はまるで感電したかのようにビクッとした。思わず陽葵の動きに目がいく。


もしかして、わざと触ったのか?


きっとそうだ。付き合っていた頃も、彼女は時々わざと偶然を装って触れてきた。今、彼女が自分を見ようとしないのは、その証拠だ。


彼女はきっと後ろめたいのだ。


やはり、最近の彼女の態度は全部演技に違いない。


蒼空の中では、陽葵が自分を愛していないはずがなかった。


「恵美、本当にありがとう。でも今は、恋愛のことを考える気分じゃないの。」


恵美は大きくため息をついた。


新しい恋が古い恋を忘れる一番の方法だ。恵美は、陽葵が一人で悩んでしまわないよう、誰か気軽に話せる相手でもいればと思っていた。たとえそれが遊びでも、気分転換でもよかった。


でも、陽葵が望まないなら無理に勧めるつもりもない。


「分かった。必要な時は、いつでもうちの弟に声かけて!」


その一言に、陽葵は思わず笑ってしまった。


春木も大きなため息をつく。


蒼空は春木をちらりと見て、何を考えているのか分からない表情を浮かべた。


陽葵が二度目のステージを終えた頃には、すっかり夜も更けていた。


着替えを済ませ、エンジェルナンバー3の店を出ると、夜風も蒸し暑さを残している。


この時間にはバスも終わっているので、道端でタクシーを拾って帰宅した。


家で身支度を済ませ、一息ついた頃、朝に成宮さんに買っておいたお礼の品が目に入った。


彼はもう帰ってきているのだろうか。


隣の部屋をノックしてみたが、やはり応答はない。


朝に見かけたキキョウの花も、元気なくうなだれていて、主人を待ち続けているのがどこか寂しそうだった。


陽葵は花を活け直し、元気を取り戻してほしいと願った。


明日、成宮さんがエンジェル・ナンバー3に来るなら、その時にお礼を渡せるかもしれない。


夜、彼女はカップラーメンを食べた。


料理は得意ではない。

以前、蒼空のために作っても、あまり上手くできなかった。


もともと料理のセンスがないのか、卵焼きすら生だったり、逆に火を通しすぎたりしてしまう。


そのうち、もう自分の作るものは食べたくないと思い、すっかりやめてしまった。


鎮痛剤の最後の効き目が切れる前、ベッドに寝転びながら、なんとなくSNSを開いた。

SNSは、以前配信をしていた時に、運営から「日常や歌の動画をアップしてPRしたら?」と勧められて作ったものだった。


最初の頃は、仮面をつけて歌う動画を少し投稿し、そこそこファンもついたが、灰崎グループが軌道に乗ってからは配信もほとんどやめ、アカウントも放置していた。


久しぶりに覗いてみると、最近もまだ「新しい動画は?」とコメントしてくれている人がいた。


思い立って、元気のないキキョウの花の写真を撮り、投稿してみた。


「あなたの主人はどこへ行ったのだろう……」


しおれたキキョウの花は、うつむいて蕾も力なく、見るからに寂しげだった。


これまで投稿していたのは歌の動画ばかりで、風景写真はほとんどなかった。


しかも長い間更新がなかったせいで、急に投稿が現れたのを見て、以前のファンたちはまるで幽霊でも見たかのように驚いた。


二尾の狐は、まるで突然現れたような存在だった。ある日ネットに現れて、たった一本の歌動画でたくさんの人の心をつかんだ。


誰も彼女の素顔を知らず、素性も分からない。


みんな歌動画を追って彼女の配信ルームに集まり、歌声に魅了されてファンになり、日々配信やSNSで彼女と交流していた。


もちろん、同業者が便乗してくることもあった。

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