嵐は一瞬手を止めたが、すぐにさらに強く彼女を抱き寄せた。
唇が彼女の髪をかすめ、額の端に羽のように軽く触れる。
「今は俺がいる。」
その言葉は四度目の雷鳴にかき消された。
彼女は目を閉じ、雨音と鼓動が交じり合う暗闇の中で、嵐の薬指が再び自分に触れるのを数えながら、やがて深い眠りに落ちた。
朝の陽ざしがレースのカーテン越しに寝室を照らす頃、先に目を覚ましたのは嵐だった。
彼は腕の中でまだ眠っている陽葵を見て、
彼女はコアラのように手足をしっかり絡め、頬を彼の胸に押し当てて、穏やかな呼吸をしていた。
嵐はそっと動き、彼女を起こさずに起き上がろうとしたが、ふと自分のパジャマの前が濡れているのに気づいた。
眉をひそめ、指でその濃い色の布を摘んでみると、少し冷たかった。
「陽葵。」
嵐は声を潜めて、くすっと笑いながら呼びかけた。
「もしかして昨夜……」
陽葵はぼんやりと目を開け、その疑わしいシミを見た瞬間、完全に目が覚めた。
勢いよく起き上がり、乱れた髪を逆立て、まるで怒った猫のようだった。
「ち、違う!それは偶然よ!」
断固として言い張りながらも、耳が見る見る赤く染まっていく。
「私は……」
嵐はゆっくりと身体を起こし、わざとその濡れた部分を平らにして彼女に見せた。
「よく眠れたみたいだな。」
よだれまで垂らして。
「それは汗よ!」
陽葵は苦し紛れに枕を抱きかかえ、まるでそれで説得力が増すかのように言い張った。
「夏は汗をかきやすいんだから!」
「そうか。」
嵐は眉を上げ、もうそれ以上追及しなかった。
嵐はとうとう笑い出し、彼女の乱れた髪をくしゃくしゃと撫でた。
「俺の汗ってことにしよう。」
陽葵はぷいっと不満げにベッドを飛び降り、スリッパも履ききれずに慌てて部屋を飛び出した。
パジャマのズボンにつまずきそうになりながら。
嵐は彼女の逃げる背中を見送り、くしゃくしゃのパジャマをもう一度見下ろして、さらに笑みを深めた。
すぐにキッチンからは、いつもの三倍は大きな鍋や食器のぶつかる音が聞こえてきた。
誰かさんが、全く気まずさなんて感じていないことを証明しているようだった。
嵐はゆっくりと後を追い、ドア枠にもたれて、慌ててインスタント麺を用意する陽葵を見つめていた。
「なあ、」
突然嵐が声をかける。
「今度また雷が鳴ったら……」
陽葵は振り向きもせず、カップ麺の容器を机にガチャンと置いた。
「次はないから!」
「いや、」
嵐は彼女に近づき、顎を彼女の頭に乗せた。
「パジャマは何枚でもあるし、いくら濡れても構わないから。」
陽葵の耳は真っ赤になったが、今回は言い返さなかった。
立ち上る湯気をじっと見つめながら、口元にゆっくりと微笑みが浮かぶ。
そうだ。
「もうすぐお盆だね、嵐、実家帰るの?」
お盆は祖先を祀るだけでなく、家族が集まる大事な時期。嵐なら、実家に帰るはずだ。
嵐はうなずいた。お盆は大切な行事で、成宮家に帰らなければならなかった。
「陽葵は?お盆、どう過ごすの?」
陽葵は少し寂しそうだった。
自分の両親がどこにいるのかも、祖先が誰なのかも分からない。
毎年のお盆は、ずっとバイトで過ごしていた。
ここ二年ほどは、灰崎グループが安定したので外で働く必要もなく、灰崎の母と一緒に、灰崎家の祖先を祀っていた。
でも今は、離婚してしまった。
今年のお盆は、もう法事やお墓参りの準備をしなくていい。
しばらく、どう過ごせばいいのか分からなかった。
だけど、すぐに答えが見つかった。
陽葵がぼんやりと窓の外の雨を眺めていると、テーブルの上の携帯が震えた。
「もしもし、不二子さん?」
陽葵は電話に出て、少し驚いたような声を出した。
不二子さんから電話がかかってきたのは、これが初めてだった。
「陽葵、お盆の予定はある?」
電話の向こうで、不二子の落ち着いた声が響く。
「エンジェルナンバー3」が少し懐かしくなった。
早く元気になって、またステージで歌いたい。
陽葵は空白のカレンダーを見つめた。水道光熱費の支払いメモ以外、何の予定もなかった。
「まだ……」
「今年は特別なお盆祭りを開催するんだけど、人手が足りなくて。手伝ってくれない?」
「ぜひ!」
陽葵は思わず即答した。
離婚して初めてのお盆、行く場所もなく困っていたところだった。
予定が決まると、不二子は「近々戻ってきて、一緒にリハーサルをしよう」と言い、そのまま電話を切った。
同じころ、灰崎家の本宅の和室では、空気が張りつめていた。
お盆が近いので、灰崎は実家に戻り、母と法事の相談をしていたが、思いがけず結婚を迫られることになった。
「蒼空、もうすぐ三十歳なのよ。そろそろ跡継ぎのことを考えてもいい頃よ。」
灰崎美恵は一束の写真を息子の前に差し出した。
一枚一枚が名家の令嬢たちの詳細なプロフィールだった。
灰崎蒼空は頭を抱えた。
「母さん、今は結婚なんて考えたくないよ……」
灰崎美恵は澄んだ瞳でじっと蒼空を見つめ、圧力をかけてくる。
母はとても厳しい人で、蒼空は幼い頃から母の笑顔をほとんど見たことがなかった。
いつも「灰崎家の誇りと名誉」を口にし、努力と向上心を求め、堕落や享楽を許さなかった。
父が亡くなり、かつての栄光や誇りが踏みにじられても、母は失態を見せなかった。
むしろ蒼空に「灰崎家再興の責任と重み」を説き、努力と復讐を促した。
彼はそのすべてをやり遂げた。今度は跡継ぎを産めと言うのか……
蒼空は心底疲れていた。
「あなたのためなのよ。最近あなたの女性関係の写真や噂がネットで広まって、家の名誉に傷がついた。今一番いいのは、釣り合う家柄の縁談を進め、灰崎家の名声を挽回し、立派な跡取りを残すことよ。」
灰崎蒼空は写真に目もくれず、細い指で湯呑みの縁をなぞっていた。
「母さん、今はそういう話をする時じゃない。」
「じゃあ、いつならいいの?」
美恵の声は一気に鋭くなる。
「モデルとのスキャンダル写真がネットで騒がれて、広報部がなんとかしたけど、取締役会ではあなたのリーダーシップが疑問視されているのよ!」
蒼空のこめかみに青筋が浮かぶ。
あれほど注意していたのに、なぜあんな写真が撮られ、ネットに流出したのか。
成宮グループからの圧力も解決していないのに、今度はスキャンダル、さらに母親の強引な介入。
蒼空は最近ついていない、近いうちに神社へお参りに行こうと考えた。