そして、彼女は素早く傍らの捨てられたカラフルなリボンの山から、目立たない藍色のヘアバンドを取り、ぎゅっと手のひらに握りしめた。
廊下の反対側から聞こえてきたのは、聞き慣れた足音だった。
澄んだ音色の中に、かすかな疲れがにじんでいる。
陽葵が自主練を終えて戻ってきたのだ。
玲子は陽葵の通り道に立ち、足音に背を向けて体を固くし、わずかに前のめりになった。まるで大きな悲しみを背負っているかのように、肩が小刻みに震え始め、さっきまで皆に慰められていた、あの弱々しい玲子の姿そのままだった。
手にした簪の箱を握る指は力が入りすぎて白くなり、もう一方の手では藍色の布切れをしっかりと握りしめている。
陽葵の足音がどんどん近づき、玲子の背後を通り過ぎようとした、まさにその瞬間――
「きゃああああっ!!」
耳をつんざくような、凄まじい悲鳴が突然廊下の静寂を切り裂いた!
玲子は見えない大きな力に押されたかのように前につんのめり、両腕を大げさに前方へ振り出した!
簪が入った硬いケースが玲子の手から離れ、空中に短い弧を描いて、固い床に激しく叩きつけられた!
「ガンッ、ガシャーン!」
ケースが割れる大きな音と、金属同士の鋭い衝突音、砕ける音が重なり合う。
無数の眩しい金色の破片がケースから飛び出し、床一面に散乱した。
首の折れた鳳凰は衝撃で裂け、高貴な頭部が真っ二つに割れた。
華やかな尾羽も次々に折れ、冷たい床の上を転がり、まばゆい金色の瓦礫となって散らばった。
その轟音と床一面の金の光景に、時が一瞬、止まったかのようだった。
陽葵は思わず足を止め、顔の疲れが一瞬で凍りつき、凄まじい衝撃に表情が固まった。
瞳孔がきゅっと細まり、足元の惨状を凝視したまま、頭は真っ白になっている。
「陽、陽葵?!」
玲子は突然振り返り、顔から血の気が引き、死にそうなほど青ざめ、信じられないほどの恐怖に満ちていた。
彼女はよろめきながら後ずさり、背中を冷たい壁に激しくぶつけ、鈍い音を立てた。
玲子は手を上げ、枯葉のように震える指先で陽葵を指しながら、声も震えてまともに出せない。
「どうして、陽葵、なんで私にこんなことするの?!私が悪かったってわかってる!怒らせたってわかってるけど、でも、でもこんなふうに壊すことないじゃない!」
彼女の涙は堰を切ったように頬を伝い、極限の恐怖と訴えが混じり合っている。
「これ、一番大事な道具なのよ!陽葵!」
廊下の両側から、急ぎ足の音が一斉に響いた。
美咲、小百合、三葉、そして悲鳴に驚いた他の同僚たちが、続々と駆け寄ってきた。
狭い空間はあっという間に人で埋め尽くされた。
誰もが目の前の光景に息を呑み、驚きの声があちこちで上がった。
視線の先、冷たい床には、精霊の舞の魂を象徴する純金の鳳凰の簪が、見るも無残に粉々になっていた。
陽葵は立ち尽くし、顔は青ざめ、唇を開いたまま何も言えなかった。
大きく見開かれた目には、動揺と戸惑いが渦巻いている。
その視線は、涙と恐怖、訴えに満ちた玲子の顔に、釘付けになっていた。
そして玲子は、皆の視線が集まった瞬間、最後の力が抜けたように体を崩し、壁にぶつかることなく、最も近くにいた美咲の腕の中に柔らかく倒れ込んだ。
彼女は顔を美咲の肩に深く埋め、痩せた肩が大きく震え、押し殺したすすり泣きが途切れ途切れに漏れ出す。
その一音一音が絶望に染まった自己否定に満ちていた。
「うぅ、ごめんなさい、全部私が悪いの、私なんて役立たず。歌も下手で、陽葵をあんなに怒らせて、陽葵はきっと、きっとまだ私のこと怒ってる、絶対そう……」
彼女は美咲の服をしっかりと握りしめ、まるで唯一の頼み綱のようにしがみつき、涙が美咲の肩を濡らしていった。
「私なんて嫌われて当然だよ、陽葵がこんなに怒るのも、私のせい、ううう……」
玲子の低く続く泣き声は、場にいる皆の神経に絡みつくようだった。
同僚たちの視線は、散らばった破片から、言い訳もできないまま呆然と立つ陽葵の顔へ。
そして、美咲の腕の中で泣き崩れる玲子へと移っていく。
驚き、不信、そして無言の裁き。
リハーサルで陽葵が玲子を叱った場面。
休憩室で泣きながら自分を責めていた玲子、今目の前にある壊れた簪。
全ての証拠と玲子の訴えが、皆の脳裏で素早く繋がっていく。
疑いようのない結論。
陽葵が玲子をいじめている、と。
陽葵は皆の視線の中心で、まるで氷の牢獄に閉じ込められたようだった。
何か言おうとしても、喉は氷の破片で塞がれているようで、声が出なかった。
玲子が美咲の胸に顔を埋め、震える背中を見た瞬間、足元から頭まで冷たいものが駆け上がった。
その激しく震える肩越しに、美咲の服に頬を押し付けた玲子の唇が、ほんの一瞬だけ、かすかに上がったように見えた。それはまるで幻のように速かった。
冷たい悪寒が、陽葵の背筋を強く駆け抜けた。
陽葵は我に返り、喉を塞いでいた氷が、熱い怒りによって一気に吹き飛ばされた。
「私じゃない!」
声はかすれていたが、氷を砕くような鋭さがあった。
「玲子だよ!自分で落としたんだ!私に罪をなすりつけてる!」
その言葉は、静寂の水面に投げ込まれた石のように、波紋どころか、より深い沈黙を生み出した。
同僚たちの顔に残っていた同情は一瞬で凍りつき、さらに強い疑念に変わる。
空気は鉛のように重くなり、玲子のすすり泣きだけが静寂に響く。
「玲子が、あなたを陥れたって?」
美咲は腕の中の玲子を抱きしめたまま、信じられないという困惑を声ににじませた。
「どうして?玲子がそんなことする理由があるの?意味がわからないよ!」
彼女は腕の中で泣き崩れる玲子の顔を見下ろし、その真っ白な顔には純粋な苦しみしか見えず、陥れるなんて到底思えなかった。
「そうよね」
小百合も思わず口を挟む。
「玲子はさっきまで自分を責めてたし、歌が下手で先輩を怒らせたって……」
言葉は途切れたが、意味は明らかだった。
玲子はずっと自分を責めていたのに、急に加害者になるなんておかしい。
陽葵が言い訳しようとしても、全く説得力がなかった。
皆の陽葵を見る目は、先ほどまでのような親しみはなく、どこか冷たく拒絶と嫌悪が混じっていた。