嵐は床に散らばった物、陽葵の青ざめた顔、そして最後に玲子が抱えている箱に視線を止めた。
「親切だと?」
嵐の声は大きくはなかったが、不思議な圧力があり、その場のざわめきを一瞬で鎮めた。
嵐は再び玲子に目を向け、横にいたパーカー姿の男にわずかに首を傾ける。
男は合図を受けて口笛を吹いた。
彼は指先でタッチパッドを数回滑らせ、最後にエンターキーを軽く押す。
「さあさあ、みんな、よく見て!」
一同の視線が小さな画面に集中する。
画面に映し出されたのは、道具室の前に設置された監視カメラの映像だった。
角度は絶妙で、鮮明そのもの。
映像のタイムスタンプは十数分前。
リハーサルウェアを着た玲子が、こそこそと道具室の扉から顔を覗かせ、周囲を警戒するように見回していた。
廊下に誰もいないのを確かめると、玲子は素早く外に出て、手にはあの豪華な箱を抱えている。
まさに、あの鳳凰が収められていた箱だ。
玲子の目線は廊下の反対側にしっかりと向けられていた。
そこには、右手にギプスをした陽葵がゆっくりと歩いてくる。
玲子は箱を抱えたまま背を向け、あたかも何も気づいていないふりをする。そして、二人がすれ違う瞬間──
玲子の体が、ごくわずかだが正確な角度で陽葵にぶつかった!
「きゃっ!」
玲子の短い悲鳴とともに、抱えていた豪華な箱が手から離れた。
蓋が跳ね上がり、あの輝く鳳凰が、まるで翼を折られた神鳥のように絶望的な弧を描いて、冷たいコンクリートの床に叩きつけられた。
ガシャン!
その割れる音は、画面越しにも伝わってくるようだった。
だがさらに衝撃的だったのは、映像が玲子の顔をはっきりと捉えていたことだ。
ぶつかった瞬間、彼女の顔には、隠しきれない邪悪な満足と、計画が成功したことへの歪んだ笑みが浮かんでいた──
「……!」
あちこちから息を呑む音が響く。
すべての疑いも、すべての言い訳も、この映像の前では粉々になった。
真実は、誰の目にも明らかに突きつけられたのだ。
驚き、軽蔑、怒り……様々な視線が焼けつくように玲子に注がれる。
玲子は雷に打たれたように固まり、箱を抱えたままよろめいて二歩後退し、冷たい壁に激しく背中を打ちつけた。
箱の中の破片が、衝撃でジャラジャラと音を立てる。
玲子の頭の中は真っ白で、耳には轟音だけが響いていた。
終わった、すべてが終わった。
どうして、ここに監視カメラがあるなんて……!
「そんな……ありえない!」
玲子は叫び声を上げた。
恐怖と信じられない気持ちが入り混じり、その声はまるで首を絞められた鶏のように歪んでいた。
「ここには……監視カメラなんてないはずよ!捏造だわ!陽葵を庇って私を陥れるために映像を偽造したんでしょ!」
最後の望みにすがるように、玲子は腕を振り回した。
「ふっ。」
群衆の後ろから、冷たい嘲笑が響いた。
不二子は腕を組み、冷たい表情で、まるで狂ったような玲子を睨みつけた。
「監視カメラを設置するのに、いちいち皆に報告しなきゃいけないわけ?」
彼女は玲子の青ざめた顔を見下すようにして言う。
「特に、手癖も心も汚い人間になど?」
この一言で、玲子に対する情けは完全になくなった。
その場は騒然となった。
先ほどまで陽葵を疑っていた同僚たちは、今や後悔と怒りの表情で陽葵のもとへ駆け寄る。
「陽葵、ごめんね!さっきは疑ってしまって!」
「玲子、ひどすぎるよ!早く陽葵に謝りなさい!」
「まさか玲子がこんな人だったなんて……怖すぎる!」
非難の声が玲子を呑み込む。
玲子は壁に背をつけ、皆の怒りの視線、陽葵を囲んで慰める輪、嵐の冷たいまなざし、不二子の露骨な軽蔑、そして最後に、彩子のどこか楽しそうな微笑みを見つめた。
世界中に裏切られ攻撃されているような強烈な恨みが、玲子の理性を崩壊させた。
「謝る?なぜ私が謝らなきゃいけないのよ!」
玲子は突然体を起こし、顔の仮面が完全に剥がれ、残るのは歪んだ憎悪と怨念だけ。
声は鋭く、空気を裂くようだった。
彼女は箱を床に叩きつけ、すでに壊れた鳳凰をさらに踏みにじった。
「悪いのはあんたたちよ!みんなよ!みんなグルになって私をいじめて、排除して、何をやっても私が悪いことになるんだ!」
玲子は絶叫し、涙も鼻水もぐしゃぐしゃになっていたが、そこに美しさはなく、ただの醜悪と狂気があった。
「悪いのは世界のほう、私は無実の被害者よ!」
彼女の態度がありありと表れていた。
不二子の顔はさらに冷たくなり、凍りつくような表情になった。
玲子の歪んだ顔を見つめ、わずかに残っていた同情心すら完全に消えた。
「玲子。」
不二子の声はシベリアの風のように冷たい。
「あなたはクビよ。今すぐ荷物をまとめて、エンジェルナンバー3から出ていきなさい。」
「クビ?」
玲子は大笑いし、泣き顔よりも醜い笑みを浮かべ、やけくそになっていた。
「いいわよ!でもね、私は悪くない!でっち上げよ!クビにするなら、補償金を払ってもらうから!契約通り、理由もなく解雇したら補償金払え!一円も減らさずに!」
玲子は法外な金額を叫び、最後のあがきで金をせしめようとした。
不二子はそんな玲子を見て、もはや軽蔑すら浮かべず、ただ冷ややかに見下していた。
彼女はわずかに顎を上げ、玲子の足元で歪んだ木箱を指し示す。
「理由もなく?」
不二子は冷笑し、そのひとことひとことが氷のように冷たかった。
「その箱の中には、あなたが自分で壊した、価値ある特注の鳳凰の髪飾りが入っている。それが動かぬ証拠よ。証拠として十分よ。」