不二子は少し間を置き、まるで裁きを下すような高圧的な口調で言い放った。
「もともと、おばあちゃんのことを考慮して、少しは面子を立ててあげようと思っていたの。せめて手切れ金くらい渡して追い出すつもりだった。でも今となっては……」
不二子の目が細められ、鋭い光が宿る。
「うんざりよ。一銭も払わないだけじゃなく、きっちり責任を取ってもらうわ!」
玲子は本当に怖くなった。
追い出されるのは構わない。しかし、責任を取らされるのは絶対に困る。
「たかが髪飾りでしょ?そんな大したものじゃないわ、弁償すればいいんでしょ!」
玲子にとっては、壊れた鳳凰などそれほどの価値はない。
不二子は玲子の目に浮かぶ軽蔑の色を見逃さなかった。
その生まれつき魅力的な顔には一切の温度がなく、冷たい嘲笑と、かすかな残酷さが見え隠れしている。
彼女は腕を組み、赤い唇から冷たく数字を告げた。
「百万円。」
「えっ!」
人垣のあちこちから息を呑む音が漏れた。
この鳳凰の市場価値は、せいぜい数十万円がいいところだ。
不二子の言い値は明らかに法外で、玲子を困らせ、辱めるためのものだった。
「百万円ですって?!」
玲子は思わず顔を上げ、声を裏返らせた。
目には信じられない恐怖と絶望が浮かぶ。
「ありえない!この鳳凰がそんな値打ちなわけない!」
「普通なら、そうでしょうね。」
不二子は冷たく笑った。
「でもこの鳳凰の価値は、市場価格で測れるものじゃないの。それは祭りの面子であり、伝統の誇りなのよ。あなたが壊したのだから、それ相応の代償を払ってもらうわ。」
彼女は一息置いて、玲子の血の気が引いた顔をじっくりと眺めた。
「払えないの?じゃあ決まり通り、警察を呼ぶわよ。賠償、もしくは何年か中で反省してもらうしかないわね。」
「やめて!待って!」
玲子は追い詰められた獣のように、声を尖らせた。
彼女は唇を強く噛み、恐怖とプレッシャーで体が震えていた。
何度か深呼吸し、苦しい選択をしている様子で、ついに泣きそうな声で懇願した。
「不二子さん、お願いです、少しだけでも減らしてもらえませんか?本当に、そんな大金は持っていません、おばあちゃんが……」
「減らせですって?」
不二子は大きな冗談でも聞いたかのように、さらに口元を歪めた。
「値切るつもり?こんな神聖な品を、値段交渉できるとでも思ってるの?」
「三十万!三十万円なら今すぐ払えます!お願いです、許してください!もう二度としません!」
不二子は一瞥もせず、手を上げて人を呼ぼうとした。
警備員がこちらへ向かってくるのを見て、玲子は本当に怯えきった。
「エンジェルナンバー3」でこれだけ長く働いてきて、不二子のやり方はよく知っている。彼女は容赦がない。お客にも、従業員にも、一切の情けはない。
一度でも不二子の逆鱗に触れたら、情けをかけてくれるなんてありえない。
井上の例が、その証拠だった……
「八十、八十万円!これが私の全財産です!」
その額に、場内は再び不気味な静寂に包まれた。
八十万円!?
不二子の目に一瞬、驚きの色が走った。
まさか玲子がそれに近い金額を出せるとは予想していなかった。
本当は玲子を徹底的に追い詰めて、完全に社会的に潰すつもりだった。
八十万円——彼女が要求した額には及ばないが、玲子の普段の泣き言からはとても想像できない大金だ。
人混みの中で、陽葵の目が、ほんのりと疑念に輝いた。
玲子が八十万?その二つの言葉はどうしても結びつかない。
玲子はいつもおばあちゃんの医療費が高額だと泣いていた。飲み物一杯すら躊躇し、同僚の集まりにも参加しない。
この前、病院に見舞いに来た時も、おばあちゃんの医療費が払えないと泣きつかれ、五十万円を貸したばかりだ。
なのに今、八十万も出せるなんて……
陽葵の隣に立つ嵐は、意味ありげに口元を歪め、玲子に視線を送り、床に散らばった鳳凰の破片を一瞥した。
その目は鋭く、何かを見抜いたようでもあり、ただ面白い芝居を眺めているだけのようでもあった。
不二子は一瞬の驚愕の後、すぐに冷徹な表情を取り戻した。
玲子を完全に潰せなかったことに少し不満はあったが、八十万円でも十分、玲子に大きな打撃を与え、面目を失わせるには足りていた。
彼女は冷たく鼻を鳴らし、承諾の意を示した。
「振込?カード?」
玲子は力が抜けたように、震える手でボロボロの鞄からしわくちゃのキャッシュカードを取り出し、スマートフォンを操作して、不二子に振込完了の画面を見せた。
その間、手は震えっぱなしで、スマホを落としそうだった。
不二子は画面の入金通知を見ても、顔色一つ変えなかった。
彼女は玲子を軽蔑するように一瞥し、もう一度見るのも汚らわしいとでも言いたげだった。
そして、入り口の警備員に顎で合図し、冷徹に告げた。
「金は受け取った。さっさとこんな厄介者、外に放り出して!もう二度とここを汚させないで!」
二人の屈強な警備員がすぐにやってきて、玲子の細い腕を左右から無造作につかんだ。
「放して!自分で出て行くわ!もうお金は払ったのよ!これ以上責任はないでしょ!」
玲子は抵抗し、屈辱に震えた声で叫んだが、無駄だった。
警備員たちは何も聞こえないかのように、運ぶように玲子を無理やり出口へ引きずっていった。
玲子はみじめで、髪は乱れ、靴も片方脱げていた。
玲子が入口から完全に引きずり出されると、押し殺していたざわめきが一気に爆発した。
「八十万!?玲子、そんなお金どこから?」
「信じられない!いつも家が貧乏で食べる物にも困ってるって言ってたのに。おばあちゃんの治療費もないって……」
「そうだよ!前に家賃が払えないって五千円貸したけど、まだ返してもらってない!」
「私もだよ!急用だって五万円貸した!」
「私も!七千円!」
「私は八万円!」
「……」
皆が次々に言い合い、玲子がほぼその場の大半の人から金を借りていたことが明らかになった。
今まで皆は情けや同情で気に留めていなかったが、八十万という巨額の賠償がまるで石を投げ込んだ湖のように、静けさを吹き飛ばした。
自分たちが騙され、弄ばれたという怒りが、瞬く間に広がっていった。
「私たちを騙してたのね!」
「私たちのお金であの鳳凰の賠償をしたの!?」
「だめだ、絶対に金を返してもらう!」
「そうだ!取り立てに行こう!」
誰かが声を上げると、怒りに燃えた人々が一斉に出口へ殺到した。
不二子の冷たい視線も、床の鳳凰の破片も誰も気にせず、怒涛のように玲子を追って外へと突き進んでいった。