玲子は警備員に乱暴に店の外の冷たい階段に放り出され、全身が痛みでうずくまっていた。起き上がる間もなく、押し寄せる人波に取り囲まれる。
「玲子!金返せ!」
「私の五万円、返してよ!」
「私の二万円も!先月返すって言ったでしょ!」
「金返せ、この詐欺師!」
「……」
無数の手が玲子の前に突き出され、耳元で叫ぶ声が渦巻く。
軽蔑の視線が針のように突き刺さり、まるで汚れたゴミのように扱われる。
玲子は階段の上で膝を抱え、頭を深くうずめて、風に吹かれる枯葉のように震えていた。
屈辱の感情が冷たい波のように押し寄せ、一瞬で彼女を飲み込む。
自尊心は剥ぎ取られ、地面に投げつけられ、好き放題に踏みにじられる。
「い、今は本当にお金がないの!」
玲子は顔に涙と埃をつけて顔を上げ、か細く絶望的な声を絞り出す。
「全部、不二子さんに弁償したの。お願い、もう少しだけ待って。必ず返すから、絶対に返すから!」
「待てだって?誰が信じるか!」
「そうよ!今日はっきりさせてもらう!」
「金がない?じゃあ借用書を書け、今すぐだ!」
「そうだ!借用書!誰にいくら借りて、いつ返すのか、ちゃんと書け!」
「書け!早く書け!」
誰かが玲子を乱暴に突き飛ばし、誰かが紙とペンを無理やり手渡す。
玲子は仕方なく顔を上げる。
目の前に並ぶ、金で歪んだ顔
――かつて彼女に金を貸した時の同情の眼差しは、今や冷たさと嫌悪しか残っていない。
玲子の心は徐々に沈み、哀れな懇願は消え、凍りついたような静けさに変わっていく。
震える手でペンを取り、くしゃくしゃになった紙に、一つひとつゆっくりと名前と金額を書き込む。
その一つひとつの名前も数字も、玲子の心に深く刻まれていく。
屈辱――終わりなき屈辱――これは不二子が、陽葵が、そして彼らが与えたものだ!
最後の借用書が無理やり玲子の手に押し付けられ、サインと拇印を求められたとき、玲子の震えは止まった。
墨と埃に汚れた手で、彼女はためらうことなく鮮やかな印を押す。
そして、玲子はゆっくりと顔を上げる。
かつて澄み切っていたその瞳には、今や見る者の心をざわつかせる炎が宿っていた。
玲子は一人ひとり、彼女を責め立てる顔をじっと見つめる。
その眼差しには、もはや卑屈さも恐怖もなく、深い憎悪と呪いのような怨念だけが宿る。
彼女は一言一言を絞り出すように、かすれた声で、しかしはっきりと告げた。
「借用書、書いたわ。」
覚えておきなさい。今日、あなたたちが私に味あわせた屈辱を、この松本玲子、いつか必ず――倍にして返すと、心に誓う!
その言葉を残し、玲子は目の前を塞ぐ人々を突き飛ばし、片方の靴を落としたまま、裸足で夜の闇へと駆け出していった。
その細い背中は、あっという間に闇の中に消えていく。
人々は顔を見合わせ、どこか不安げな表情を浮かべた。
こうして、一つの騒動は幕を閉じた。
廊下に張り詰めていた空気も、一気に緩む。
ただ、騒ぎの余韻と気まずさだけが残っていた。
嵐は陽葵の隣に立ち、その大きな体で自然と彼女を守るような姿勢を取っていた。
彩子は人混みの外に立ち、腕を組み、いつの間にか笑顔を消していた。
美しい猫のような瞳は、今、嵐が陽葵を庇う姿をじっと見つめている。
複雑な思い――悔しさ、苛立ち、そしてわずかな嫉妬が入り混じる。
彩子は悔しそうに足を踏み鳴らし、自分だけに聞こえる声で、歯ぎしりしながらつぶやいた。
「ちくしょう、また嵐にやられた!」
あと少しで全部うまくいくはずだったのに、この機会に陽葵に恩を売って一緒に住もうと思っていたのに、嵐が出てきて全部持っていかれた。なんて腹立たしい…!
陽葵は壁にもたれ、顔色はまだ青ざめている。
左手は無意識に分厚いギプスで固定された右腕を庇っていた。
さっき玲子にぶつけられた痛みがまだ残っているのか、ギプスの下から鈍い痛みが走り、眉がぎゅっと寄せられる。
「もういい、陽葵。」
不二子は彼女の前に立ち、額ににじむ汗を見て、きっぱりと告げる。
「今夜のステージは出なくていいわ。怪我が悪化したら回復が遅れるだけ、無理は禁物。」
陽葵は何か言いかけたが、腕の痛みで口をつぐみ、静かにうなずいた。
嵐はすぐに一歩前に出て、低いが決して拒否できない声で言う。
「俺が病院に付き添う。」
彼の視線は陽葵のギプスを庇う手に向けられ、表情が暗くなる。
「うん、ありがとう。」
陽葵は小さな声で礼を言い、休憩室へ自分のバッグを取りに行こうとした。
不二子は他の人たちに解散を指示し、ステージの準備や後片付けに向かわせる。
人がいなくなり、通路には不二子、嵐、そして彩子だけが残った。
彩子は今やむき出しの敵意で嵐を睨みつけている。
まるで彼に穴をあけるほど鋭い視線で、根が生えたようにその場を動こうとしない。
不二子は彩子と嵐の関係をよく知っているが、今さら隠す気もない。
彼女は休憩室へ消えた陽葵の背中を見送り、それから嵐に向き直り、口元に意味深な笑みを浮かべて言った。
「ねえ、いつの間に店でそんな見事な網を張ったの?私にも教えてくれなかったのね?」
彼女が指しているのは、陽葵のまつ毛一本まで映せる監視カメラのことだ。
さっき玲子が「ここには監視カメラなんてない」と言ったのは確かに本当だった。
ここはクラブなので、表に出せないことも多く、監視カメラは主にホール周辺にしか設置されていない。
少しでも隠れた場所には、カメラがなかった。
嵐が映像を持ち出したとき、不二子も驚いたが、玲子に問い詰められた時には、何事もなかったように嵐をかばった。
嵐はずっと陽葵が消えていった方向を見つめ、無言のまま、不二子の問いかけに応じようとしなかった。
「ふん!」
彩子が鼻で大きく息をつき、腕をさらに強く組み直す。
お嬢様としてのプライドと、ようやく誰かが嵐の本性に気づいたという高揚と興奮が混ざった声で言う。
「話すだけ無駄よ。この人は根っからの変人なんだから。ひどい独占欲と執着心の持ち主よ。何をやるにも、絶対に誰にも話さないんだから。」