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第4話 猫を誘う法則

「そんなはずないわ!」美穂は思わず声を上げた。「東京の森川財閥の御曹司が、どうして神奈川の大学なんかに来るの?海外に行かないにしても、せめて東大でしょ!」

「本当なんだって!」慶太は声をひそめる。「どうやら彼の想い人が神奈川にいるらしくて、わざわざ来たらしいよ。でも森川家がしっかり守ってるから、名前も顔も全然分からないんだ。もし分かったら、家を売ってでも探し出すのに!」

美穂の心臓はドキドキと鳴り止まない。なんてこと…あんなに身分の高い人が、たった一人のために華やかな東京を離れて、神奈川に来るなんて…なんてロマンチックなの!

もし…もしその森川の御曹司が、自分のことを好きだったら——

そんな考えが浮かび上がったとたん、美穂の胸は高鳴り、抑えきれなくなった。会ったこともない女性に、どうしようもなく嫉妬してしまう!

「森川の御曹司は絶対に神奈川にいる!このチャンス、絶対に逃すな!」

「うん!お父さん、任せて!」美穂の瞳に野心が灯る。彼女は自分の才能で森川の御曹司を振り向かせてみせる!


取締役室を出て、美穂は豪華な監督室に戻った。高価な家具に囲まれ、彼女の目に一瞬強い嫉妬の色がよぎるが、すぐに満足感に変わった。啓宏は千雪のために、こんなにお金をかけてきた……なぜ生まれつき全てを持っている人がいるのだろう?

でも、今は全部自分のものだ!


美穂はスマートフォンを取り出し、高島健一に電話をかけた。「健一、私、昇進したの!」

健一は優しく返す。「美穂、本当にすごいね。お祝いに何が欲しい?」

美穂はにやりと微笑む。「そうね……」


黒いマイバッハが「スピードフィールドクラブ」の前に止まり、健一と美穂が車を降りる。

美穂は健一の腕に甘えるように絡みつく。「健一、本当にあの限定マセラティをくれるの?」

「うん。このクラブのオーナーは世界中の限定高級車のパイプがあるんだ。三ヶ月前に注文しておいたんだけど、本当は千雪の誕生日プレゼントにするつもりだったんだ。」

美穂は少し唇を噛む。「でも、それ千雪にあげるための……」

「とりあえず君にプレゼントするよ。半年後……どうせ使わなくなるし、その頃に返せばいいさ。」健一は当然のように言う。

美穂は甘く微笑んだ。「健一、本当に優しいね。」

彼女が恥じらいながら寄り添うと、健一は思わずキスをした。


「おや、あれは高島健一じゃないか?昨日水原家のお嬢さんを振ったばかりなのに、今日はもう新しい女を連れて堂々としてるのか?」休憩スペースで景が眉を上げる。

隣で冷たい空気を感じて振り向くと、航が氷のような眼差しでじっと見つめていた。「どうした、航?」

スマートフォンにメッセージが届き、景はハッとする。「健一が限定マセラティを受け取りに来たらしい。たぶん新しい彼女にあげるんだろうな。千雪が知ったら、どれだけ嫌な気持ちになるか……」

航の目が一瞬、暗くなった。


景はため息をつく。「千雪は本当に可哀想だよ。啓宏がいなくなってから、すっかり不遇のお姫様だ……」

「彼女がやすやすと人に利用されるとでも?」航は草むらに目を向ける。「彼女は啓宏が自ら育て上げた後継者だよ。」

景は首をかしげる。「でも、桜庭グループはあのダメ親父のものだろ?」

航がじっと草むらを見ているのに気付いて、景は尋ねた。「何を見てるんだ?」

「猫だ。」

「猫?」景も見てみると、確かに汚れた野良猫がいた。「俺の友達がサバンナキャット飼ってるけど、欲しい?」

「いらない。」航の目に一瞬影が差す。「俺は、野生味があって噛みつくような小さな野良猫が好きなんだ。」

「……」

「あの野良猫?捕まえてこようか?」

「ダメだ。」航の声は低い。「傷ついた小さな野良猫は、近づけば近づくほど警戒する。」

「裏切られたことのある野良猫を家に迎えたいなら、強引に行くんじゃなくて、じっと待つしかない……」指で机をトントンと叩く。「優秀なハンターは、時に獲物の顔をして現れるものさ。」

景は首をひねる。猫一匹捕まえるのに、こんな駆け引きが必要なのか?

「じゃあ、いつまで待つんだ?」

「彼女が自分から近づいてくるまで。」

「もし逃げたら?」

「逃げられないよ。」航はお菓子をつまんで草むらに投げた。


野良猫は驚いて身を引いたが、しばらくして勢いよく飛び出し、お菓子をくわえて逃げていく。

航の口元がわずかにほころぶ。「ほら、餌を投げれば、ちゃんと食いついてくるさ。」

景:「……」袋に入れて連れてきた方が早いだろ!


景は立ち上がる。「じゃあ、健一に車を渡してくる。」

航の目が鋭くなる。「お前が手に入る世界最高級の限定車——全部押さえろ。」

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