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第6話 狩人と獲物

薬が強烈に効き始め、水原千雪の全身から力が抜け、よろめきながらソファに寄りかかった。テーブルに手をつき、額を押さえて必死にめまいを振り払おうとする。


山本浩の目がいやらしく光る。「どうせ酒は素直に飲まないと思ったよ。薬はグラスの縁に塗っておいたんだ。肌についただけですぐに効く。どうだ、気分は?」


千雪は必死に体を支え、足元のおぼつかないまま浩を突き飛ばし、ふらつきながらトイレに駆け込んだ。そして星野澪の番号を慌ててダイヤルする。

だが、コールは鳴るものの誰も出ない。


浩が立ち上がり、千雪を追いかける。


バーの隅で森川航はグラスを静かに置いた。

「今なら、余計なことしてもいいよな。」その声は冷たく研ぎ澄まされている。「山本浩を潰して、神奈川から永久に追い出せ。」

佐藤景が息を呑んだ。「了解。」


千雪は冷たい壁に手をつき、荒い息を吐く。体内に熱が渦巻き、どうしようもない。そんな彼女の腕を、脂ぎった手がつかんだ。


「逃げるのか?」浩が不気味な笑みを浮かべる。「もう誰も助けてくれないぞ。」


「離して!」千雪は手を振り上げるが、簡単に押さえつけられる。


「お前に手を出したら、どうするってんだ――」


その言葉が終わるより早く、浩の体はまるで空の麻袋のように吹き飛ばされ、数メートル先でやっと止まった。


森川航が倒れそうな千雪をしっかり支え、「驚いた」ように声をかける。「千雪?どうして君がここに?」


千雪は本能的に彼の首に腕を絡ませ、妖艶な笑みを浮かべた。「ちょっと用があったけど……あなたを見たらどうでもよくなっちゃった。」


熱いキスが落とされ、彼女は手際よく備品室の鍵を回し、航をその中に押し込んだ。

…………


深夜、戦場は雅ホテルのスイートルームへと移る。


千雪は、自分がこの“狼”の体力を侮っていたことを痛感した――昨夜、彼は明らかに手加減していた。


薬を盛られたのは千雪の方だったが、結局、最後には彼女が降参し、泣きそうになりながら許しを乞う羽目になった。航のキスは獰猛で独占欲に溢れ、長年狙っていた獲物をついに食らい尽くすかのようだった。


最後には千雪も意識を手放した。


目を覚ますと、もうすでに午後だった。


眩しい日差しが差し込み、千雪は腕で顔を覆った。もう一方の腕は、森川航のたくましい腕にしっかりと抱き寄せられている。彼の脚も、まるで所有を誇示するように千雪を押さえつけていた。


どうしてまた一緒にベッドにいるのか――最初は高島健一への仕返し、二度目は思いがけず流れで。


後悔はしている。でも、正直、これほどまでに気持ちよかったのも事実。


千雪は隣の男をじっと見つめる。


目を閉じている森川のまつ毛が影を落とし、無造作な前髪が純朴で無垢な印象を与える――昨夜の激しさを微塵も感じさせない。


航が目を開ける。まだ少し寝ぼけた表情だ。


千雪は起き上がり、彼に服を投げる。「着て。」


自分も手早くワンピースを身にまとう。


航は服を受け取りながら、千雪の背中にある蝶の羽根のような肩甲骨や、昨夜の痕跡が残る腰に目を奪われていた。


千雪は髪をかき上げ、毛先が航の頬をくすぐる。「まだ着ないの?」


航はゆっくりと服を着始める。そのしなやかな筋肉の動きは、普通の大学生とは思えない。


千雪はベッドのヘッドボードに体を預け、気だるげに尋ねる。「名前は?」


「森川航。」深い瞳で答える。


「水原千雪。神奈川大学の学生?」昨夜、彼が授業について話していたのを思い出す。


「ああ。」


「バーで……バイトしてるの?」黄昏の街のホストは酒を売るだけだったはず。


航は口をつぐむ――実際は、千雪を探しに来ていたのだ。


千雪は軽く笑い、彼を安心させるように言う。「自分で稼ぐのは、恥ずかしいことじゃないよ。」


彼の沈黙を、若さゆえのプライドだと受け取った。


赤い唇をゆるく上げ、余裕のある表情で言った。「千雪が、あなたに稼ぐチャンスをあげようか?」


「どんなチャンスだ?」彼はじっと千雪を見つめ返す。

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