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第18話 彼のサイズは彼女が決める

ようやく19時になり、田中マネージャーがほっとした表情で帰り支度を始めた。

水原千雪も肩の力を抜き、すぐさま森川航に電話をかけた。


「千雪」

電話口からは、嬉しそうな彼の声が聞こえてきた。


水原千雪は申し訳なさを感じながら聞いた。「こっちは終わったよ。今どこにいるの?」

「まだショッピングモールの図書館にいるよ」

「え、午後ずっと?」

「うん。君を待ってた」

「待ってるなんて、ばかみたい。先に帰ればよかったのに、そんなに長い時間…」

「千雪を待てるなら、どれだけでも待つよ」


一瞬の沈黙。何気ないその言葉が千雪の胸にじんわり響き、少しだけ胸が詰まるような思いがした。


「すぐ行くね」


図書館の入り口まで駆けつけると、森川航の姿が見えた。彼女に気づいた瞬間、彼の顔がぱっと明るくなり、その期待に満ちた眼差しがまっすぐ向けられた。

そんな純粋な喜びが、千雪の心に重くのしかかる。本当に、私に会えただけでそんなに嬉しいの?


「ご飯、食べた?」

「まだ」

「じゃあ、一緒に食べよう」


二人はモールで一番評判の良いレストランに向かった。森川航の端正な顔立ちに、店員もつい見とれてしまう。その隣にいる華やかな千雪にも、自然と視線が集まる。


個室は予約していなかったので、窓際の席を選んだ。森川航がメニューを渡してくれる。「千雪、何が食べたい?」

「おまかせするよ、なんでも大丈夫」

彼はすぐにメニューを受け取り、手際よく料理を選んだ。料理がテーブルに並ぶと、どれも千雪の好物ばかりだった。


「なんで私の好きなもの知ってるの?」

「千雪も好きだったんだ?これ、全部僕の好きな料理なんだ」

そんな偶然ってある?千雪の心に小さな疑問がよぎる。確かに、彼とは以前から知り合いじゃなかったはずなのに。


食事の後、二人は三階のメンズフロアへ。森川航は普段オーダーメイドしか着ないが、千雪が選ぶ服は特別な意味がある。

「この店、君に合いそう」と千雪はいくつかのデザインを手に取り、店員に森川航のサイズを伝えた。

服を受け取った森川航が小さく言う。「千雪、着替え用に2セットもあれば十分だよ」

「服が少ないんでしょ?とりあえず試してみて、また何着か選ぶから」

「そんなにたくさん、悪いよ」と、どこか気まずそうな声。


そんな彼の素直な様子に、千雪はふっと優しい気持ちになる。「あなたのためなんだから、気にしないで」友人が話していた“百万円コース”に比べれば、この三万円の月額なんて全然大したことない。


森川航が試着室に入っている間に、千雪はさらに何着か選んだ。彼が着替えて出てくると、その高身長に洗練されたスタイルが映えて、どんなシンプルな服も見違えるほど。

美しさに惑わされるとはこのこと。思わず隣のラックを指さした。「これも全部、試してみて!」

様々なスタイルを着こなす森川航の姿に、千雪はついに“彼氏をコーディネートする楽しさ”を実感する。この素直で格好いい年下男子には、いくらでもお金をかけたくなる。


以前、高島健一にはこんな気持ちになったことはなかった。やっぱり、見た目は正義だ。


一通り試着が終わると、千雪は迷わず全部まとめ買い。カードで支払い、配送先を桜庭に指定した。

さらに2軒回って、20着以上を購入。ここでようやく森川航が「千雪、もう十分だよ」と止めに入る。

千雪は我に返り、つい調子に乗りすぎた自分を反省した。


続いて靴も5足購入。日用品も買い揃え、そろそろ帰ろうかというところで、森川航が急に千雪の腕を引いた。


「千雪」

「なに?」

「まだ、これが残ってる」と、彼が示したのはすぐ横の下着専門店。


水原千雪が顔を上げると、そこには黒いボクサーパンツを身につけた男性モデルの広告が。頭の中が一気に真っ白になる。

気づけば森川航に連れられ、気がついたら男性用下着売り場のど真ん中。女性店員が明るく声をかけてきた。


千雪は…人生で初めてこんな店に入り、恥ずかしさで顔も耳も真っ赤。足元がしびれるほどだった。

店員が素材やデザインの違いを説明してくれるが、千雪の頭は真っ白で、内容は全然入ってこない。今すぐこの場から消えてしまいたい気分だった。


説明が終わると、店員がにっこりと森川航に尋ねた。「いかがですか?」

森川航はそっと千雪の腰に手を回し、彼女を一歩前に出した。「決めるのは千雪だから」

千雪は頭から湯気が出そうになった。「な、なんで私が決めるの?」

「千雪に見てもらうために着るんだから、君が満足しないと意味がないよ」


顔が熱くなりすぎて、目玉焼きが焼けそう。「自分で着るんでしょ、私には関係ないでしょ!」

「着るのは僕だけど、脱がせるのは千雪だから」と、どこか含みのある声でそう答えた。


「……!!!」なんて奴!


店員は「わかりますよ」と言いたげな表情。「恥ずかしがらなくて大丈夫ですよ。彼氏の下着を選ぶ女性、多いんです」

「彼氏じゃありません!」千雪は思わず否定した。


「失礼しました」と店員はすぐに笑顔で言い直す。「じゃあ、ご主人様ですね!お二人、本当にお似合いです」


美男美女カップルはやっぱり目を引く。


「ご主人様なら、遠慮しなくて大丈夫ですよ。このボクサーパンツはコットン素材で通気性抜群、体にフィットして安定感もあり、履き心地も抜群。ご主人様にぜひ何枚かお試しください。きっともっと好きになりますよ!」


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