「こちらのトランクスも人気ですよ。竹繊維で作られていて、柔らかくて通気性も抜群。肌触りも滑らかで、天然の抗菌効果もあります。そしてこの三角デザインは、しっかりとしたサポート感があって、とても好評なんです。」
サ、サポート感……?
水原千雪の脳裏に勝手なイメージが浮かび、頬が一気に熱くなった。まるで頭まで湯気が立ち上るようだった。
店員は空気を読むことなく、さらに饒舌に説明を続け、森川航に茶化すように声をかける。「イケメンさん、ご主人様は本当に恥ずかしがり屋ですね。」
森川はまるで鋼のメンタル。全く動じず、丁寧に受け答えしている。
千雪はもうこの場から消えてしまいたかった。
「千雪、どっちがいいと思う?」
お願い、黙っててよ!千雪は恥ずかしさと怒りでいっぱいだった。「なんでもいい!」
「じゃあ、この三角のにする?」
「いいよ!」早く買って、さっさと出よう!
「でも、ボクはボクサータイプも悪くないと思うんだけど。」
なんでそんなに迷うのよ!千雪は歯を食いしばった。「じゃあ、ボクサーで!」
「千雪は、ボクがボクサー穿くの見るの好きなの?」
千雪は切羽詰まって、思わず言い返す。「むしろ、穿かない方が好きよ!」つまり、もう買わないで早く出ていこうってこと!
言い終わってから、自分が何を口走ったのかに気づく。
どーーーん
今度は顔どころか、全身が茹でダコのように熱くなった。
森川は眉を上げて、にやりと笑いながら言った。「そういうのが好きなんだ?じゃあ、家では穿かないでいようか?」
千雪は顔を両手で覆い、一目散に店を飛び出した。
外の冷たい空気に当たって、ようやく顔の熱が少し引いた。
今までこんなに恥ずかしい思いをしたことなんてない!首元のシャツを引っ張って、なんとか呼吸を整える。
やっと落ち着いてきた頃、後ろから足音が聞こえた。
「千雪。」
千雪は平静を装って振り返った。まるで何事もなかったかのように。でも、森川が下着の入った袋を手にして立っていた。
千雪「……」
さっき冷めたはずの熱がまたぶり返してくる!
「店員さんに配送頼めばよかったのに。」声が少し震える。
「たかが下着数枚だし、軽いから自分で持つよ。」
確かに重くはないけど、その袋がまるで“恥ずかしさの象徴”みたいじゃない!森川は絶対、わざとやってるに違いない。
「他に買うものは?早くして。」もうこのショッピングモールにはしばらく近寄りたくないと心に誓った。
次は寝具売り場へ。森川はもう一度千雪をからかおうとしたが、彼女の顔がまだ赤いままなのを見て、さすがにやめておいた。千雪が好きな淡いイエローのシーツを選び、クリーニング後、桜庭に届けてもらうことにした。
スーパーでの買い物中は、千雪が先に歩き、森川がカートを押してついていく。マグカップを選んでいると、隣の若い夫婦の会話が耳に入った。「ねえ、ペアカップ買おうよ。かわいいし。」「うん、いいね。」
千雪は一瞬手を止めて、自分の手元にあるピンクとブルーのペアカップを見下ろした。カップには小さなキャラクター同士がキスしている。そしてカートの中には、歯ブラシもタオルもコップも、すべてペア仕様。まるで新居を整えているみたいで、どう見ても“契約関係”には見えない。
「千雪、どうしたの?」森川が声をかける。
「別に。」千雪はそっとペアカップを棚に戻し、同じ形のシンプルなマグを二つ選んだ。
森川の目がふと暗くなった。
桜庭に戻ったのは、もうすぐ夜の11時。買った服がリビングに山積みになっていた。
森川は水を一杯入れてテーブルに置き、「千雪、ちょっと座って休んでて。片付けは僕がやるから。」
「いいよ、」千雪はバッグを手に取り、「もう遅いし、帰るね。」
森川は一瞬動きを止めて、顔を上げた。「帰るって?」
「うん、明日仕事だし。」
「……ここ、泊まらないの?」声が少し硬くなる。
「もちろん泊まらないよ。」千雪は眉を上げて言い放つ。「この部屋はあなたのために買ったの。私が来たい時に来るだけ。」まさか、同棲だとでも思ってた?
森川はようやく彼女の意図を理解し、表情が徐々に冷たくなった。
千雪は察して、やっぱり誤解してたか、と心の中でため息をついた。「じゃあね、早く休んで。」ドアの方へ向かう。
ドアノブに手をかけたその瞬間、背後から急ぎ足の音がして、腰を強く抱きしめられた。次の瞬間、ドアに押し付けられ、熱いキスが降り注ぐ。
「んっ……」千雪は抵抗して、彼の肩を叩いた。
だが、森川はまるで怒ったオオカミのように、彼女が逃げれば逃げるほど強く抱きしめた。大きな手が太ももをなぞり、千雪は全身が震えて力が抜けた。
森川は夢中でキスしながら、巧みに彼女を翻弄した。まだ二度目なのに、どうすれば彼女がすぐに溺れてしまうか、すっかり知り尽くしている。
ようやく唇を離す頃には、千雪はもう彼の腕の中でぐったりとしていて、頬は上気し、息も絶え絶えだった。
森川は耳元に顔を寄せ、小さな耳たぶを軽く噛み、熱い息で囁く。「本当に帰るの?今日のサービスは前払いだったんだよ……ちゃんと検収しなくていいの?」
千雪は妖しいほど整った顔を見つめ、喉がごくりと動いた。まったく、この人は罪な男だ。
バッグが「ぽとり」と床に落ちる。そのまま彼の首に腕を回し、千雪は自分からキスを返した。
「帰らない。」
お金を払って養ってるんだから、好きなときに好きなだけ――何を遠慮する必要があるの?
森川は口元に微笑を浮かべると、さらに深くキスを重ね、彼女を抱き上げてソファへと運んだ――。