私がクロウを慕う理由。友達に裏切られ陥れられて二度と信用しないし友達も作らないと思っていたのに、クロウだけは信頼している理由。そして、クロウにくっついてめんどうを見て、かばう理由。
それは、私がクロウに命を救われたからだった。
部隊ナンバー99は、傭兵の集まりだ。
なまぬるさなどなく、自分が生き残るため、同じメンバーを見捨てることだってある。
見捨てる見捨てないは自由。
最初にそう説明されている。
私は、それで別に構わないと思った。
他人への信頼を両足と共に失ったのだ。もう人を信じないしガンガン見捨てていく、と、そう思っていた。
あのときまでは。
それはまだキースのいない頃。ある任務で、私はその快足を活かして建物に毒ガスをセットし逃げる途中だった。
足場が崩れたのだ。私は落ち、そしてそこに瓦礫が降り注いだ。
おまけに、毒ガスが充満し始めていた。
私の足はリバーと違い、速度は出るが、さほど高くは飛べない。
助けがない限り、生還は絶望的な状況だった。
「……油断したな」
そう自嘲した。レベッカにあれほど「足に慣れてきたころが一番油断しやすく死にやすい」と言われていて、まんまとそのとおりになった。
速度を出すためにデイパックを手放したのも痛かった。ガスマスク等はぜんぶその中に入っていた。
バカだ。あれほど言われていたのに何をやっているんだろう。無茶をしたっていいことなんかひとつもなかったのに。
ガスで喉や肺が痛くなってきて、「あぁ、このまま死ぬんだな」と思ったとき。
「……ここにいた」
瓦礫の割れ目から、ガスマスクをしたクロウが顔を出した。
私は驚いた。一番来る確率の低いクロウがやってきたからだ。
クロウは動くのがあまり得意ではないと聞かされていたのに。
実際、いつもアッシュに守られていたのに。
呆然としながらクロウの差し出してきた手を握ると、思いのほか強い力で引っ張り上げられた。
そして、クロウはいきなりガスマスクを外すと、私に被せる。
「クロウ!?」
「つけろ。ジェシカの有機機械化は足のみだろう。私はどこが生身かわからないほどだから、つけなくても平気だ」
……その言葉は本当かどうかわからない。クロウが気を遣って言ってくれたのかもしれないし、本当に大丈夫なのかもしれない。
わからないけど、
「つけろ」
再度クロウに促され、うなずいて装着した。
埃とガスが充満しマスクなしでは歩けないような中、クロウは危なげない足取りで私の手を引っ張り進む。
しばらく歩くと、ガスマスクをつけたアッシュが現れた。
アッシュは、私の救助ではなくクロウの行方を探した結果、ここにやってきたのだろう。そして、クロウと私を見て、急にいなくなったクロウが何をしたかったのかがわかったようだった。
大股でクロウに近付くと、結界と浄化の呪文を唱える。
「……気休め程度だけど、やらないよかマシだろ」
そのあと、私を見て尋ねた。
「怪我は?」
「ない、と思う。今は感じてないだけかもだけど」
「そうか。なら、痛みがあったらすぐ言え。背負って歩く」
私はうなずいた。
さらにしばらく歩くと、リバーが現れた。
……正直、リバーは自分を探さないと思っていたので意外だった。
リバーは喧嘩っ早いがバカではないのだ。助かる可能性の低い人間を助けようとするようなバカなことはやらない。そう思っていたので驚いた。
リバーはクロウがマスクをしていないことに驚いたようだった。
「……ったく、お前って意外とバカなんだよな」
そう言って、クロウに持ってきたマスクを被せた。
バカなのはクロウじゃなくてリバーじゃないかと思った。
恐らく、間に合わなかったはずだ。私が見つかったときはすでに死体だ、被せたって意味は無い。
…………だけど、それでも被せたいと思ってくれたのなら、いいやつだ。
そうして無事に生還した。
今回のことについて、レベッカは何も言わなかった。全員何かしら叱られると思ったのに、なぜだろう。
「……どうしてレベッカは怒らないんですか? 私が注意されていたことを聞かずに無茶をしたのも、クロウが私を助けに来たのも、アッシュやリバーも助けに来たのも全部レベッカの注意から外れたことをやったのに。……私のせいでクロウを危険な目に遭わせてしまったのに」
私が聞いたら、レベッカは肩をすくめた。
「あたしたちは傭兵だ。好きに生きて何が悪い? 助けたいなら助けりゃいい。任務の障害となるなら、あたしがどっちをとるか判断するが、それだって好きに選んでいい。あたしはこの部隊で生き残るための算段を教えるけど、あくまでも行動は自分の意思だよ。命令を聞きたくなけりゃ聞かなきゃいいし、それを気にくわないって思ってぶっ飛ばすのもあたしの自由だ」
私はホッとした。
「……クロウが怒られるんじゃないかと思ったから」
つぶやいたら、レベッカがかすかに顔を歪めて視線を逸らした。そんな弱気なレベッカのしぐさに私は目をみはる。
「……あの子があんたを助けたいと思ったなら、そうさせてやるよ。そんな感情があるなんて、思ってもみなかったけど……」
私も思ってもみなかった。
自分のガスマスクを外し、渡すほどに私を助けたいと思ってくれるなんて……と、そこまで考えたら急に泣けてきた。
泣きだした私を、レベッカはやさしく撫でる。
「あの子はあたしのせいであんなんになっちまったけど、態度に出ないだけであんたやまわりの連中のことを大切に思ってるらしいから、あんたもあの子のことを思ってくれるなら、もうちょい気をつけてくれるとありがたいね。……あの子の身体は特殊だ。あれほど動けるのにふだんは動かないのもわからない。毒ガスが本当に無効なのかもわからない。だから、気をつけてやってほしい」
私は泣きながらうなずいた。