ナンバー99が学園に転入して数日後――。
アッシュは、小隊室に集まった四人を見渡し、心配そうに尋ねた。
「トラブルは起こしていないね?」
四人はそれぞれ心外そうにアッシュを見つめる。
「なんで俺たちがトラブルを起こす、っつーんだよ?」
リバーが聞き返すと、アッシュが呆れた顔をした。
「むしろこっちが聞きたいよ。ていうか、なんでそんなに堂々と聞き返すの? 今まで、野営中や休暇で町に降りたときに必ず誰かに喧嘩をふっかけてたキミが、なんで『トラブルを起こしてない?』って心配されて不思議そうに聞き返すのよ」
「あんなん、トラブルに入らね」「入るから」
リバーにかぶせてアッシュがツッコんだ。
ハァ、とアッシュはため息をついた後、クドクドと説教を始めた。
「いいか、いつまでもエリア時代と同じような調子でいけると思うな。環境もお前たち自身も刻々と変わる。だから、その環境に馴染むことを学べ! 今のお前たちは水の上にぷかぷか浮いている油なんだ! もう少し周りの環境に染まるってことを覚えろ! じゃないとこの先どうなるかわからないぞ」
アッシュの話を聞いたジェシカとキースは、ますます心外だという顔をした。
本人たちは染まっているつもりらしい。
染まる気など毛頭ないリバーは鼻で笑った。
「こっちの色に染まらせりゃいいだろーが」
「それが出来るならな。だが、それを行うにしても人心掌握と環境適応は必須だ。お前、一方的に押しつけても従わせるのは無理だってわかるだろう?」
すぐさま言い返され、リバーは鼻の頭にしわを寄せる。
「闘って勝ちゃいいだろーが。それとも、俺が負けるって言うのかよ?」
アッシュはリバーを厳しく見据える。
「この学園全員をか? 何百人いると思っているんだ。地の利もない。そもそも、力尽くで従うわけないだろう。逆で考えろ」
詰まったリバーはそっぽを向いた。
「問題ない。全員を始末できる」
唐突にクロウが言い出した。
全員、クロウを見つめる。
アッシュは、冷ややかな表情でクロウを見下ろした。
「で? ここの全員を始末したら、次はその親や関係者が出張ってくる。セントラル中の人間を殺し尽くして、お前はたった一人で生きていくのか? つーか、生きていくこと自体が無理だろうな。食料はどうする? セントラルは確かにオートメーションが進んでいる。だけどな、いっくらオートメーションだからって、人の手がまったく要らないなんてことはないんだよ。殺せば殺すほど殺戮は連鎖していく。復讐や脅威の標的にされる。そんな中で生きていけると本当に思っているのか?」
アッシュがそこまで言うと、クロウが考え込むように黙った。
しばらくしてからクロウがポンと手を叩いた。
「シミュレーションしたら、確かに困る事態になった」
「シミュレーションしないとわからないのかよ……」
アッシュは、盛大にため息をついた。
「ジェシカとキースが努力しているのはわかっている。だから、もう少し努力してくれ。リバーは……ま、喧嘩だけ気をつけましょう。お前って意外とこのメンツの中で一番馴染みやすいし。クロウは……。黙っていればいいかな。沈着冷静だから、相手にしなければいけるでしょ」
アッシュが希望的観測で説教すると、表情を改めた。
「何度も言うが、俺はレベッカにお前らを預けられた。だから出来るだけ安全な場所で長く生きられるようにお前らを訓練する。お前らは、ここで、集団生活を学び、環境に適応するって能力を身につけてから独り立ちしろ。以上! むやみにトラブルを起こすなよ!」
「「「はぁーい」」」
全員、テンション低く返事をした。