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第41話 入学当初 ②

 これから、ナンバー99初のVR演習が行われる。

「くれぐれも言っておくけど、やり過ぎないようにね。演習ごときで手の内をさらさないように」

 と、不安顔のアッシュが、四人に繰り返し言い聞かせた。

 アッシュとしては、このVR演習が第一の山場だ。

 セントラルの一般学生がそもそも、傭兵として鍛えられた彼らに敵うわけがない。

 だが、【手加減】という文字を知らない彼らがどれだけやらかすかが非常に心配なのだ。

 アッシュはいざとなったら介入することに決めた。

 特に、クロウが無茶をしないか心配だからだ。


 今回のVR演習は、模擬戦闘だ。

 仮想アンノウンで戦う演習もあるが、今回の演習は小隊同士の模擬戦闘だった。一回の模擬戦で三小隊から四小隊ほどが戦う。


「自分以外全て敵、というのは面白いな。普通は対戦だろう?」

 と、キースがあごに手を当ててつぶやいた。

「そーお? つまりは『敵に囲まれてる』って考えればよくあったよ。全小隊、私たちを狙ってくるだろうし」

 キースの言葉をジェシカが冷静に指摘すると、リバーが笑う。

「全小隊をぶっ潰すってのはシンプルでいいじゃねーかよ。弱い味方は敵に回ってくれた方がありがてぇ、っつー話だ!」

 その言葉にキースとジェシカが笑った。


 そして三人がクロウを見た。

「――んで? 調子はどうだよ、隊長さんよ?」

 リバーが茶化すように尋ねると、クロウは無表情でうなずいた。

「いける」

 アッシュが途端に不安な顔で口を挟んだ。

「ちょっと待て。何が『いける』のよ? 何をやらかそうとしてるの?」

 四人は無視して、ヘッドギアを装着する。

「おい!?」

『――ヘッドギア装着を確認しました。VR演習場に入場します』

 アッシュが再度クロウたちに声をかけたが、すでに四人はVRにアクセスしてしまった。


 陣地らしき廃屋に転送された。

『戦闘開始まであと五分です』

 無機質な合成機械音声が聞こえた。

「では、私はここにいて情報を送る。健闘を祈る」

 クロウが三人に言った。


 ――クロウは、部隊ナンバー99のブレインだった。まさしく文字通り。

 自身は戦わないが、あらゆるブレインネットワークに入り込み、情報を集め、それを精査して隊員へ送る。

 以前はそこまで性能が良くなかったが、成長するにつれてどんどん精度が上がってきた。

 そして、レベッカが亡くなってからは飛躍的に成長し、たとえスタンドアロン環境だとしても、ネットワークは使えない状況だとしても情報を送ることが出来るようになった。


 三人はクロウを見て笑った。

 ジェシカがちょん、とクロウの額を小突いた。

「アッシュに怒られるよぉ? あんまりやり過ぎないようにね。だいたい、素人がうちらに敵うわけがないじゃん」

 クロウは小突かれたまま首を傾けていたが、ボソリとつぶやいた。

「――ここは今までいた地区とは勝手が違う」

 三人が固まる。

「ここの環境を学習し適応する一環だ。慣らしだが可能な限り学ぶつもりで、そのためここに籠もる」


 三人は即座に理解した。

「つまりはよ、お姫様を守らねーとアッシュに殺される、ってコトかよ」

 リバーが頭をかきながらぼやいた。

「そこはいつもどおりだが、クロウは今まで以上に自分の防衛がままならないってことか」

「――私、ここに残ろうか?」

 キースがつぶやき、ジェシカが不安そうに尋ねたが、クロウは首を振った。

「ここは慣らしだから、ジェシカも出陣してくれ。誰でもいいから出来るだけ遠く離れてほしい。VRでの物理距離などないはずだが、その確認もしたい」

「俺が行く。一番遠くの砦をぶっ壊してくるぜ! 任せとけや!」

 リバーが自身を親指で指した。

「私は、敵の殲滅を優先する」

「俺は二人よりもスピードが出ない。防衛ラインにとどまって来る敵を倒す方向でいく」

 ジェシカとキースも方針を固めた。


 クロウが拳を前に出す。

「では、今回も生き残ろう」

 三人は笑うと、拳をぶつけ合った。――それは、以前より繰り返し部隊ナンバー99で行ってきた合い言葉だった。

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