目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第43話 入学当初 ④

 キースは木の陰に潜んでいたが、敵がポイントに到達した瞬間、思い切り手に持っていたワイヤーを引っ張った。

 彼らの足元にワイヤーが張られ、引っかかり転ぶ。

 すかさずキースが煙幕を投げつけた。

「ゲホッ!」

「なにこれ……煙幕?」

「風魔術で消し飛ばせよ!」

 転んだ魔術師が呪文を唱え始めた瞬間。

 上に張り巡らしたワイヤーを掌で握り、スピードをつけて滑りやってきたキースに一撃を喰らった。


『小隊名【威風堂々】、一名戦闘不能になりました』


「「「なっ!?」」」

 VR演習を監視しひそかに指示を出していた教官も含め、全員が驚いた。

「どうやって!?」

「そんなことはいい! 敵を……」

 言い終える前にキースが声の主に拳を奮う。


『小隊名【威風堂々】、一名戦闘不能になりました』

『小隊名【威風堂々】、一名戦闘不能になりました』


 あっという間に三名倒される。

 残った斥候の生徒は、転んで手をついた格好のまま、固まっていた。

 一瞬の出来事だ。

 何が起こったのかすらわからない。


 どうしていいかわからず、そしていつ倒されるのかという恐怖で固まっていたとき、監督教官から指示が飛んだ。

『音を出すな! どうやってかは知らんが、ソイツはすさまじい速度でやってきて、今、お前の真後ろにいる! 煙幕で見えない以上、音で判断しているはずだ! ソイツが動いたら合図をするから、横に飛べ! そして反撃しろ!』

 斥候は口を手で押さえ、コクコクとうなずいた。

 心臓は飛び出しそうに鳴り響いている。鼓動が相手に聞こえるんじゃないかと気が気でなかった。


 風が吹き、煙幕が流れる。

 教官からの合図は無かったが、煙幕が流れたら自分の場所は一発でバレてしまう。

 斥候の生徒は振り返りざまナイフで突き――

「え!?」

 そこには誰もいない。


 背中にドン! とすさまじい衝撃があり、自分の身体の中が爆発したような感覚から戦闘不能になったのがわかった。

 振り仰ぐと、そこには秀麗な顔の男子生徒が自分を見下ろしていて、その頭上にはワイヤーが張られていた。


『小隊名【威風堂々】、一名戦闘不能になりました。これにて小隊名【威風堂々】は全隊員戦闘不能となりました』


 アナウンスが流れたのを確認すると、キースはすぐに踵を返す。

『ナンバー29、D6での戦闘終了。E5に向かう……いや、俺の方が早いな。F5へ向かう』

『ナンバー19、たぶん間に合わないわ。F6で叩くしかない』

 キースとジェシカが焦った声で話す。

『こちらナンバー00。こちらで敵を始末する。たぶん、リバーが間に合う』

 クロウが落ち着いた声で二人に告げた。

『オラァッ!』

 リバーがA1ポイントに到着し、大砲を砦に撃ちまくった。


 ――大砲があることは皆知っている。知らなかったのは知らされていないクロウたちのみだ。

 だが、使われたことはない。

 なぜなら、魔術で大砲を無効化出来てしまうからだ。

 大砲自体に爆発魔術をかければ、撃った途端に暴発して周りを巻き込み自爆する。

 ゆえに使おうとも思わなかった代物だが、迎撃システムが無効化されている無人の砦に撃ちまくるとなれば、話は別だ。

 砦を敵に押さえられれば、その小隊は全滅となる。だから、A1の第1小隊は泡を喰って引き返した。

「アイツら正気かよ!?」

「無人じゃなかったらどうする気だったんだよ!?」

「とにかく、引き返さなきゃ! 大砲が爆発魔術の射程距離に入るまで走って!」


 敵の教官は机を拳で叩く。

「くそっ! あの非常識連中め!」

 そして、慌てて使えなくしていた砦の自動迎撃システムを解除した。

『自動迎撃システムが解除された。ナンバー09、離脱しろ。大砲の爆破後、砦に侵入し制圧してくれ』

『ラジャー!』

 リバーは大砲をそのまま砦に突っ込ませるように細工をすると、すぐさま飛び出した。

 十秒ほど経ち、砦の自動迎撃システムが発動され、大砲に爆発魔術が撃ち出された。

 大砲は砦の外壁にぶつかり、そして爆発する。

『よっしゃ! 爆発完了! これからちょっくら制圧してくるぜ!』

 リバーは軽やかに迎撃魔術を避けつつ、壊れた外壁から侵入した。


 F1からやってきた小隊は、キースとジェシカよりも早く砦に到着した。

 だが、彼らは砦の迎撃システムが解除されたことを知らない。

 慌てた監督教官が解除し、そのすぐあとで到着したのだ。

 彼らが射程距離に入った途端。

 ドンッ!

 魔術が撃ち出され、先頭を走っていた生徒が撃ち抜かれた。


『小隊名【アンノウン撲滅隊】、一名戦闘不能になりました』


 驚いた【アンノウン撲滅隊】のメンバーが思わず立ち止まった。

「…………どういうこと?」

 凍りついていると、焦った監督教官の怒鳴り声が響いた。

『【一区組】の砦が攻撃されている! 自動迎撃システムを解除した!』

「「「えぇっ!?」」」

【アンノウン撲滅隊】のメンバーが悲鳴を上げた。

「ちょっと待って下さい! それじゃ私たちがやられてしまいます!」

「うちは魔術師なしのメンバーなんですよ! 砦の迎撃魔術から身を守ることは出来ないんです!」

『だが、【一区組】の砦はすでに連中の一人が侵入している! 今また封印して――』

 ドンッ!

 再び魔術が撃ち出され、また一人生徒が撃ち抜かれた。


『小隊名【アンノウン撲滅隊】、一名戦闘不能になりました』


 監督教官は悩んだ。

 ただでさえ自動迎撃システムを封印していたのはまずいことだ。ただし、知らぬ存ぜぬで押し通せはする。【一区組】の砦が大砲で攻撃された途端に解除したのも、迎撃システムが発動していないのに気がついたから、という言い訳も出来る。だが……さすがに【アンノウン撲滅隊】が不利になった途端にまた封印したとなっては確実にこちらで操作していることがバレる。

 しかし、このままだと【アンノウン撲滅隊】は全滅。残りは【一区組】だが――。


『小隊名【一区組】の砦が制圧されました。これにより、小隊名【一区組】は全隊員戦闘不能となりました』


 遅かった――。

 監督教官は瞑目し、目を開けると鬼の形相で再び砦の自動迎撃システムを封印した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?