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第44話 入学当初 ⑤

『ちょっとナンバー09、制圧が早い!』

『マジかよ!? つーかお前、遅くねーか!?』

『しょうがないでしょバレるとまずいって言うんだから!』

 リバーとジェシカが怒鳴り合った。

『――しかし、また使えなくするだろうか? そんなことをしたら明らかにえこひいきしているとバレないか?』

 キースがいぶかしむと、クロウが答えた。

『バレてもいいと思っているのだろうな。使えなくなった』

『『『えぇっ!?』』』

 三人が驚きの声を上げる。

 クロウは肩をすくめた。

『まぁ、問題はない。相手が不正を堂々と行うのなら、こちらも多少の不正は見逃してもらえるというものだ』

『…………その理屈がアッシュに通用するかどうかだよな』

『『同感』』

 リバーの言葉にキースとジェシカが同意する。

 クロウは無表情で咳払いをした。

『とにかく、足止めは考えてある。ナンバー19かナンバー29、どちらでもいいので砦に急いでくれ』

『『イエスマム!』』

 キースとジェシカは顔を引き締め、さらに急いだ。


 残った【アンノウン撲滅隊】の二名、ライプとソフィーは砦に侵入した。

「一人残ってるのって、あの小さい子でしょ?」

「魔術師だろうな。クソ……うちの小隊は機動力重視で四人で叩くスタイルなのに……。しかも、よりによって魔術耐性の高い二人がやられるなんて!」

 くやしがるが、どうしようもない。

 この小隊は型に嵌まれば強いが、欠けると脆い。

 だが、もうこの二人しか残っていないのだ。

 教官が映し出す砦のマップを見ながら最短のルートを走る。

 ……と、ソフィーの視界の縁に、影が走った。

「待って今!」

 二人はすぐに物陰に入るが、ライプが尋ねてきた。

「どうした?」

「……そこを何かが横切った」

「……マジか?」

 じっと様子をうかがっていると、監督教官の怒鳴り声が響いた。

『何をじっとしているんだ! そんなところには何もいない! それよりも連中がすごい勢いで戻ってきている! とっとと砦を押さえろ!』


 監督教官は気にくわない連中の鼻を明かしてやりたいと思い、今回の演習の担当教官とその生徒たちにひそかに話を持っていき裏から手を回していたのだが、どうにかして全滅する前に連中を潰したいと考えている。

 彼らの動きに手を貸したというのならまだ言い訳が立ったが、監督教官自らが指示をした結果、ことごとく裏目に出て小隊を全滅させているのだ。面目が丸潰れである。

 その八つ当たりをされているのが生徒にもわかり、ムッとし反発する気持ちが起きた。

「……だって、魔術師ですよ? 細工出来るでしょう?」

『だから、いないと言ってるんだ! とっとと進め!』

「「…………」」

 しぶしぶ二人は立ち上がり、歩き出す。


 途端にガタ! という音が鳴り、荷物が倒れてくる。

「きゃあっ!」「うわぁっ!」

 荷物が雪崩のように降り注ぎ、下敷きにはならずに済んだが二人は分断されてしまった。

『どうした!?』

「……教官は何も無いと言っていましたが、荷物が急に倒れてきて、分断されました」

 二人はふて腐れたように言った。

「……ライプ、私を置いて先に行って。私は横切ったり倒したりしているモノの正体を突き止め、引きつけておく」

「わかった」

 ライプが走り出した。


 走ってすぐに、ソフィーの言っていたことがわかった。

 何かが視界を横切る。

 慌てて物陰に身を隠し、様子をうかがい、出ようとしたら荷物が倒れてきたり何かが転がってきたりする。

 しかし、なんだかわからない。そして、途中から、ぱったりと監督教官の怒鳴り声が聞こえなくなった。

 不気味に思いつつも進み、制御室――ここのコンソールを破壊もしくは自身が制御者となれば制圧完了――のところまでやってきた。


 深呼吸をしてから扉を開け突入すると、小さい少女が一人立っていた。

「よくやってきたな。もう少し時間稼ぎ出来るかと思ったのだが、やや見通しが甘かったようだ」

 人形のような子だな。ライプは武器を構えつつそう思った。

「さて。私は戦闘が不得手だ。見るからにそうなのだが、まんまと見た目どおりだ。だが、それなりの抵抗はさせてもらう」

 ライプはいぶかしんだ。

「――君は、魔術師じゃないのか?」

 クロウが軽く目をみはった。無表情だが驚いたようだ。

「――なるほど。それはいいな。その〝設定〟にしよう」

 なんの話だ? 彼はとまどいつつも床を蹴って彼女を斬りつけようとする。


 寸前。

 電撃が走った。

「ギャッ!」

 ライプは倒れ込む。

「電撃魔術だ。これは電撃魔術だ!」

 クロウは誰かに言い聞かせるように大声で繰り返し唱える。

「そしてこれは――召喚魔術だ」

 そう言うと、物陰から何かが飛び出してきた。

 それは――かわいらしい二匹の小型動物だった。

 ライプは呆気にとられた。

 今までおびえていたのって、コレ? ……マジかよ!?

 恥ずかしさが怒りに変わり、ライプは素早く立ち上がると、クロウに再び斬りかかる。

「いいところまでいったのに、残念だったな」

 クロウがライプを見ながら無表情に言う。


 あぁ、まったくだよね。かわいそうに。これで僕の勝ちだ!


 ライプは剣を振り下ろした――つもりなのに、彼女は斬られず。

 そのままライプの視界は傾きながら彼女の足下まで落ちていった。

 自分の頭が床に跳ねたとき、音もなく首を刎ねられていたのにようやく気がついた。

 ――彼女のセリフは、僕が首を刎ねられたことを指していたのか――。


『小隊名【アンノウン撲滅隊】、一名戦闘不能になりました』

『小隊名【アンノウン撲滅隊】、一名戦闘不能になりました。これにて小隊名【アンノウン撲滅隊】は全隊員戦闘不能となりました』

『戦闘終了。小隊名【ナンバー99】以外の小隊が戦闘不能になったため、小隊名【ナンバー99】の勝利となります』

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