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第13話 苗を守ろう

「すくすくそだてよー」

「わふう~」


 僕は苗の葉っぱを優しく撫でて、ガルガルは鼻の先でツンツンした。


「ノ、ノエル」

「どした? ママ」


 なぜかママは少し焦っている様子だ。


「疲れてないか? 頭が痛いとかないか?」

「ないけども?」


 いたって元気である。


「まことか?」

「まこと、まこと。でも……お腹がすいた気がする」

「がうがう!」


 ガルガルもお腹が空いたらしい。


「そ、そうか。ならば、ご飯を食べよう。肉を焼こうではないか」

「いつもなら、まだごはんの時間じゃないけどな?」

「がう~がう」


 ガルガルはお腹が空いたかなら仕方ないといいながら、よだれを垂らしていた。

 もう、焼いたお肉の味を想像しているに違いない。


「でも、どうして、こんなにお腹がすいたんだろ」


 お肉を焼いて食べて、うまい実を食べて、すぐに聖樹の観察に出かけたのだ。

 少し長い間気配をけしてはいたが、いつもならまだお腹は空いてない時間だ。


 巣に戻ると、ガルガルが瞬間冷凍させた魔猪の肉をママが魔法で切り取ってくれる。


「焼くのはまかせろ!」

「まてまて。我がやる。ノエルは大人しくしておくがよい」

「えー、焼くのはのえるのがうまいのに」「がうがう」


 ガルガルもそうだそうだと言っている。


「それでもだ。寝床で大人しくしておくのだ」

「わかったー」


 僕が寝床で横になるとガルガルが隣に来たのでぎゅっとする。

 相変わらずもふもふで犬っぽい良い匂いがする。


 ママは肉を焼きながら、静かに語り始めた。


「ノエル。よく聞くがよい」

「なに~? もふもふもふ」「がうがうがう」


 僕はガルガルと遊びながら、返事をする。

 猫の生活魔法強化をつかえば、体の大きなガルガルと力比べだってできるのだ。


「そもそも、聖樹の苗は長い時間をかけて育成するものだ」

「そっかー。がうがう!」「わうわう!」


 力比べをしているうちに興奮してきた僕とガルガルは立ち上がる。

 ガルガルは前足を僕の頭の上に乗せて押してくるので、僕はガルガルの顎を下から押す。


「ほあああ!」

「がう?」

 ガルガルの体重をいなしてひっくり返すと、お腹に張り付いて、もふもふする。


「にゃにゃ~(兄の力をおもいしれ!)」

「わふわっふわふ」


 ガルガルはお腹をもふもふされるのが好きなのだ。

 嬉しそうに尻尾を勢いよく振っている。


「それでも、魔力を渡した人族は疲労困憊で……気絶した者もいたほどなのだ」

「それはすごいな? がうがうーがう」「ぴぃ~」


 僕にお腹をもふもふされたガルガルは甘えて鼻を鳴らす。


「ノエルの魔力は多い。多いが、あれほど急激に成長させて魔力が枯渇しないわけがない」

「ふむ? がうがう」「がーうがう」


 今度はガルガルがその巨体を使って、僕の体をひっくり返した。

 僕も負けじとひっくり返すので、ゴロゴロと転がる。


「魔力が枯渇すれば、激しい頭痛や吐き気などに見舞われ、体の抵抗力も落ち……」

「ふむふむ? ……がうがうがう」「わうわうがうがう」


 だんだん、遊びが楽しくなってきて、どんどん興奮してきた。


 興奮したらガルガルはおしっこを漏らす。

 だが、僕はおしっこの代わりに魔獣語が漏れてしまうのだった。


 僕もガルガルも子供なので仕方ないと思う。


「こら! ノエル! ガルガル! 興奮するでない! 大人しくするのだ」

「がうが……ごめん」「わふわふ……ぁぅ」

「よいか? 我はノエルがなぜ元気に暴れられるのか理解できぬ」

「ふむ~?」

「しばらくは、安静にして経過をみたほうが……」

「なるほど? にゃ~」


 興奮したガルガルが少し漏らしていたので、清浄の魔法を使う。


「だからノエル! 魔法を使うでない」

「あい。つい」

「ガルガルも! 清浄ぐらい自分で使えるようになるがよい」


 そういいながら、ママはガルガルを清浄の魔法できれいにしてくれる。

 ガルガルは生活魔法が苦手なのだ。


 ママに叱られたので、僕とガルガルは大人しく肉が焼けるのを待った。


「食べるが良い」

「ありがと!」「がーうがう」


 ママは、僕に三百グラムぐらいのステーキを、ガルガルには二キロぐらいの塊を焼いてくれた。


「やっぱり、ママが焼いた肉はうまいな? かくべつなあじがする」「がうがう」

「ノエルが焼いた方がうまかろう?」

「うーん。でもおいしい」

「わふ~……わう?」


 お肉を食べていると、ガルガルが急に走りだした。


「どした? ガルガル」


 ガルガルは矢のような速さで聖樹の苗まで走っていく。


「あっ、魔物だ」

「ガウッ!」


 小さなカブトムシぐらいの魔物が聖樹の苗に近づいてきていたのだ。

 その魔物をガルガルは前足でブチッと潰す。


 潰した魔物をパクリと食べてから、ガルガルは苗の匂いを嗅いで無事を確かめる。


「さすがガルガルだ。たよりになるな」

「見事であったぞ。我もノエルも気づかなかったのに、よく気づいたな」

「わふっわふっ」


 僕は戻ってきたガルガルを撫でまくり、ママはガルガルをベロベロ舐めた。


「ガルガル。これからいっしょに苗をまもっていこうな?」

「わふ~」


 僕とガルガルは苗を守っていこうと、決意を新たにしたのだった。

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