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第6話

「階下でお酒を飲んでいたら、小野さんがあなたに駆け寄ってきて、私を切り刻めってもらうと。どうするのか見に来たの」

御堂汐音が平然と入ってくる。


「……」


ボックス席の一同は複雑な表情を浮かべ、誰も声を出せない。


在座のほとんどは御堂司の友人で、司が妻を溺愛する姿も、一年前の修羅場も目撃していた。


新たな恋人と元妻の対立という状況で、どちらを庇うか判断がつかない。


その思考が巡る間もなく、御堂はだらりと笑って、少し含みのある口調で「小野はまだ若いから、いろいろ分からないの。冗談だよ。御堂先生は命を救うお仕事をなさってるんだから、子供相手に本気になることないさ」と言った。


小野奈々は得意げに鼻を鳴らした。


一同は悟った。


汐音は過去形となったと。


「御堂さん、せっかくだから座って楽しんでいきなよ。俺からのお詫びだ」と御堂が続ける。


新たな恋人の肩代わりで元妻に詫び?一同の表情がさらに怪しくなる。


早坂澪は肺が沸騰しそうだった!御堂汐音を無理やり座らせた。


「いいわね!何して遊ぶ?サイコロ?ポーカー?ルーレット?ただ飲むだけじゃつまらないよ!」


中に渡辺という男がいた。


御堂と汐音を交互に見て、汐音を残したのは辱めるためだと確信する。


「新鮮なゲームなんてどうです?『イエス・オンリー・ゲーム』。ルールは単純、質問に『はい』しか言えない。できなければ罰として三杯を飲む。一人三問まで。御堂さん、いかがでしょう?」渡辺は取り入る好機と見て進言した。


御堂は眠そうにまぶたを伏せ「やろう」


「では御堂さんから」渡辺が身を乗り出す。


「あなたが御堂家に嫁げたのは、御堂涼子様のご指名あってこそだと聞きましたが?」


微妙な沈黙が流れる。


小野奈々が口を押さえて笑い、数人が興味津々だ。


藤原凛は止めようとしたが、御堂の表情が読めず動かなかった。


「はい」御堂汐音は背筋を伸ばした。


「この二年で御堂財閥の株価は140%上昇、富豪ランキングも急上昇中。あなたが御堂さんにすがりつくように付きまとい、お酒の席まで監視するのは、富と地位が惜しいからですよね?」


「はい」


「ご両親の死後、御堂家の財産を親戚に横取りされて。御堂先生は今じゃこのキャバクラの水商売以下だと聞いてますが?」


早坂澪が猛然と立ち上がろうとしたが、御堂汐音が手首を押さえた。


「はい」汐音は渡辺の嘲笑の眼差しを受け、むしろ口元をほころばせて言った。


早坂澪はこの屈辱に耐えられない!御堂を見やるが、彼は相変わらずだらりとしていて、陰影に表情が溶け込んでいる。


こんな夫捨ててもいいじゃん。


「御堂様、御堂先生は遊び心がありますね!」渡辺は得意げに言った


御堂はズボンの灰をはらい、無言だ。


小野奈々は彼の近くにいたが、不気味な殺気を感じて笑えなくなった……


「次は私の番ね」御堂汐音の声は水のように澄む。


「渡辺さん、昨年ラスベガスのカジノで二千万円溶かして、横領で穴埋めしたそうですね?」


渡辺の顔色が一変「てめぇ……」


「『はい』しか言えないルールですよ」御堂汐音は微笑む。


「それとも罰の三杯で、負けを認めますか?」


「…はい」

負けは即退場を意味する!渡辺は歯を食いしばった。


「あなたが養ってた芸能専門学校の女生徒、妊娠中絶後に即ブロックして、ネットで晒されて。御社、数件の大口契約を失いましたね?」


「でたらめを!」渡辺が激怒して立ち上がる。


「ルールだ」御堂司が冷たく言った。


「はい……」渡辺は硬直し、顔が紅潮する。


「その件を収めるため龍神組の若頭に頼んだら、若頭衆道趣味で、あなたは身を売った挙句、肛門科に搬送されたとか?」


ドッと笑いが起こる!


渡辺は屈辱に逆上した「黙れクソが!」酒瓶を掴んで御堂汐音に叩きつけようとする!


突然の出来事に誰も反応できない!


御堂司が素早く足を払い出し、テーブルを蹴飛ばす!ガラッと音を立ててテーブルが割れ、渡辺は胸元を蹴られ壁に叩きつけられ、ズリ落ちた!


一同は愕然とした!


御堂はゆっくりと長い脚を引き、ソファに戻る。


「誰がてめぇと親友だ?よくも俺の名に泥を塗るな。俺の面前で手を出すとは、身の程をわきまえろ。這って出て行け」と間延びした口調で言う。


渡辺は苦悶の呻きをあげる。藤原が目配せすると、二人が彼を引きずり出した。


これで都心どころか、東京での生きる道は絶たれた。


張り詰めた沈黙の中、「あの愚図め!気絶しそうなくらい腹立つかと思えば、時々涎が出るほどカッコイイんだから!」早坂澪は御堂汐音の背後に隠れ、悔しさと憧れが入り混じって言った。


これぐらい何でもない。彼はかつて四人の男を相手に戦い、私を抱えて帰ったこともあったのよと汐音は心の中で思った。


誰も口を開けなかった。


小野奈々は隅に縮こまっている。


「続けよう。今度は俺とだ」御堂は何事もなかったように煙草に火をつけ、煙越しに御堂汐音を凝視する。


「御堂先生、質問をどうぞ」


御堂汐音は喉が渇いていた。


卓上の酒は派手な色を揃えているが、彼女は整った白い液体の入ったグラスを取り、一口含んだ。


ほんのり甘く、強くない。


御堂司は瞬き一つせず彼女を見つめる。


彼女の背筋は伸びており、賑やかな場に厳かな空気さえ漂わせていた。


「あなたが私に結婚を懇願したんですよね?」御堂汐音が突然口を開く。


一同は驚く。


早坂澪は快哉を叫びながら杯を空にした!


「はい」御堂は低く笑い、軽く言った。


「離婚を拒んだのは、私に未練があるからですね?」御堂汐音は続ける。


さきほど渡辺は彼女が強引に結婚し富に目が眩んだと嘲笑った。


今こそ御堂司の口で言わせる。


彼が望んだこと、彼が離れられないこと。


たとえゲームの中でも。


御堂の口元の笑みがさらに深まり、「はい」とうなずいた。


小野奈々は足を踏み鳴らし、御堂汐音の卑劣な自己欺瞞を軽蔑した。


「あなたがアメリカにいたこの一年、もう浮気をしていたんですよね?」


と御堂汐音の三つ目の質問だ。


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