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第31話

汐音がまた飲み物を手に取った。


「買いあさりに来たのかい?」突然司が口を開いた。

「?」


汐音はきょとんとした表情で彼を見た。


司はソファの肘掛けにひじをつき、顎を支えて汐音を見つめている。


個室の暖かい光が、愛に溢れた司の目に落ち、優しげな錯覚を添えていた。


「これで三杯目だ、金を払うのは私だからか、こんなにもたくさん飲んたのは」


「……」


さっきの料理が味が濃すぎたせいだ。


それにここのドリンクはグラスの半分しか入っておらず、二口で飲み干してしまう。


それに、娘のために誕生日パーティーを盛大に開く司に比べれば、自分がジュースを何杯か飲んだところで大したことではない。


「飲んだ分は私が支払う」と汐音は淡々と言った。


「さっきの話は冗談だとわからないのか」


「私がこういうつまらない人間だよ、冗談か本音か分からないよ」


「ジュースじゃなくて、火薬を飲んでるんじゃないのか?」


「仕事を二日早めて切り上げて、飛行機から降りた途端に信之丞さんに連れてこられたんだ。信之丞と明里は大学の同窓で、パーティーの準備も信之丞が行っていた。俺は事前に知らされていなかった」司はみかんを半分に割り、片方を差し出した。


「後ろめたさがあるから説明するんでしょ?御堂様がいつ頭を下げるようになったの?」汐音は受け取らず、自分の手でナッツをむき始めた。


「お前が不機嫌そうだったからだ。甘いだろ?さっき味見して気に入ったから、もう一箱御堂邸に送らせた」


司はみかんの筋をきれいに取り除くと、そのまま果肉を汐音の口に押し込んだ。


みかんの果肉はふっくらとしてジューシーで、確かにドリンクより喉を潤した。


汐音は自分でみかんを取った。


「今むいてやってるだぞ?」司は眉を上げた。


「あなたの手が何に触れたかわからないもの」


司は笑い飛ばし、そのみかんを自分の口に放り込んだ。


パーティーは進行し、贈り物の披露が始まった。


三井信之丞が真っ先に金色に輝くネックレスを取り出した。


「金だ。11.12グラムで愛子にぴったりだろう?誠意は伝わるか?」


「学生の頃からあなたはアイデアマンだったわね。心愛の代わりに受け取っておくよ。信之丞さんが結婚する時は、こっちもいいプレゼントを用意するわ」明里は口元を手で覆って軽く笑った。


「これが心愛の最初のブランド品ってわけか?」別の男が四つ葉のクローバーのブレスレットを見せた。


「御堂様がとっくに娘にいっぱい送っただろう!釈迦に説法だっての!」一同は哄笑した。


「お前、何かわかるの?本当のことのように言いやがって」

司はだるそうに目を上げた。


男は苦笑いし、それが冗談なのか警告なのか見当がつかなかった。


ボンボンたちの贈り物は実に様々で、表面上は子供へのご機嫌取りだが、実は司への取り入りだ。


この熱心さは、司が明里親子をいかに大切にしているかを如実に物語っていた。


司が電話に出るため、テラスへ出ていった。


その際、ガラスの扉を閉めた。


ちょうどその時、誰かが大きなピンクと紫のバラの花束を届けた。


明里は驚喜して立ち上がった。


「『オーシャンブルー』ですって?」


「そうとも!前に御堂様があなたに贈ったら、あなたが彼の胸に飛び込んだのを見たのから、すごく印象に残った。この花はなかなか手に入れるのは難しくて、五軒も店を回ってようやく手に入れたんだよ」


「花言葉は『死ぬまで変わらぬ愛』よ!御堂様、今回の愛情が露骨すぎます!」


女の子達が囃し立てた。


「冗談を言わないで、汐音さんもいらっしゃるんだから」

明里は顔を赤らめながら汐音を一瞥した。


汐音はそのバラを見た。淡い紫に染められた花びらが波のように重なり、確かに幾分かは上品だった。


彼女はそのままミニトマトを食べ続けた。


ここのフルーツ盛り合わせは確かに美味しかった。


テラスにいた司が振り返ると、汐音が一心不乱に果物をかじっている姿に、思わず口元が緩んだ。


この女の前世は熱帯雨林の小猿だったに違いない。


果物を見たらいつまでも食べ続けられるんだう。


「御堂様があなたに笑いかけてる!もしかして花を贈ったのは御堂様?」女の子達が興奮して言った。


汐音がすりガラス越しに見ると、確かに男のすらりとした姿は個室の方を向いていた。


「司が見ているのは心愛よ」明里は甘えたように言った。

司が電話を終えて戻ってくると、すぐに贈り物について詰め寄られた。


「忘れてた。用意してない」司は即座に言った。


明里の笑みがわずかにこわばった。


「御堂様はきっとサプライズを隠しているんですよ!」一同が取り繕った。


「もしかすると子供には見せられない贈り物かもね~」佐藤が意味ありげな口調で言った。


「何をでたらめを言ってるんだ!」藤原凛が鋭く叱った。


汐音は藤原凛が自分の顔を立てようとしているとわかっていた。


しかし司がここに足を踏み入れた瞬間から、とっくに面目は失っていた。


自分を欺く必要がどこにある?


「司が来てくれたこと自体が、私たちへの最高の贈り物です」明里が柔らかい声で仲裁した。


「次は私の番かな?」汐音が突然口を開いた。


汐音はカバンから一万円札を二枚取り出し、テーブルに置いた。


数々のブランド品の中でひときわ目立っている。


「汐音さん、お気持ちだけで十分だ」明里は慌てて辞退した。


「気に入らないなら、司の贈り物の半分は私が出したと思ってください」夫婦の共有財産だ。


司が使う金にも自分の分け前がある。


一同が視線を交わした。


この正妻の一言で、領分が明確に示されたのだ。


「本当に用意してなかったんだ。この二万円、半分の一万円は俺の分だ。お前のおかげでただ食いにならずに済んだ」と司は軽く笑った。


汐音は信じなかった。


実の娘の誕生日を忘れるわけがない。


ただ自分の前で芝居を打っているだけだ。


「そんなにおいしいのか?りすみたいにかじって」司もミニトマトをつまんだ。


汐音は相手にするのも面倒だった。


自分で食べてみればわかるだろうに。


「心愛、ケーキを切ろうね。一切れ目は汐音さんにあげようね。あなたの命の恩人なんだから」明里は二人のやり取りを見て娘を抱き上げた。


「汐音さんが執刀されたんですか!?それじゃあ回復も順調なはずですね、さすが心臓外科の第一人者!」一同は感嘆した。

口では追従しているが、心の中では考えていた。


御堂様は手管がお見事だ。


正妻が愛人の娘を治療し、明里こそ真の勝者だと。


心愛がぶどうのような大きな瞳で汐音を見つめる。


「術後の食事はあっさりしたものを。ケーキのような高糖質の食べ物は控えめに」主治医として、汐音は注意した。


「愛、聞こえた?一番大きいのを汐音さんにあげようね?」明里は笑いながら言った。


明里は娘を導き、ケーキを持たせて汐音へと向かわせた。


「まだうまく持てないので、やめたほうがいいよ」司が眉をひそめた。


その言葉が終わらないうちに、心愛はケーキを丸ごと汐音のスカートにドサッと叩きつけた!

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