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第15話 領地に到着

 私の体力が回復しきれていないのと、ソフィアが加わった事で、領地への道のりは1日目より更にゆっくりになった。でも人数が増えたし、子供も加わってとても楽しい道のりになったわ……ソフィアは可愛いし、マリーは穏やかだし、ゼフは相変わらず無口なんだけど……子供のお願いに弱い事が判明した。


 ソフィアがオヤツに持ってきたパンを少しゼフにあげようと、ゼフの口に持っていく……これはあーんってヤツよね。さすがにゼフは恥ずかしくてやらないんじゃないかと思っていた……でも少し無言でパンを見つめた後、ちゃんとあーんってパクりと食べてくれたのを見た時は私もマリーもびっくりした。


 ゼフでもあーんってするのね!その後も何回かそんなやり取りしていたし(ゼフは終始無表情)ソフィアのお願いは無碍にしないゼフだった。


 思えばソフィアを助ける為の行動が早かったし、馬車に乗る時もそうだし、すぐにフォローしてくれたわ。ソフィアもゼフに心を開いている感じがする。



 子供に弱いのかソフィアに弱いのか、よく分からないんだけど。


 そんな二人のやり取りを見たり景色を楽しんだりしていると、3日かかる旅程があっという間に過ぎ、私たちは無事にクラレンス公爵家の領地に入る事が出来た。



 クラレンス公爵領は海と川に囲まれている。私たちがお世話になるマナーハウスは丘の上に立っていて、後ろは崖のように岩肌が見え、下に広がる海からは波が打ち寄せている。前方には領地が広がり、領地を囲むように流れる川の向こうには広大な森が鬱蒼と生い茂り、マナーハウスからはその全てが見渡せる。


 川からは新鮮な魚介類が取れるし、川から水を引く事によって農業も盛んに行われている。川の向こうには森が広がっているので、森の資源を扱う炭焼き職人や製鉄職人なども領地には暮らしているようだ。

 これだけ栄えているなんて……お父様の手腕は素晴らしいわね!そのお父様の手腕をもってしても貧困はなくならないのかしら……こんなに活気があって豊かに見える領地でも裏では苦しんでいる人々がいるというのは胸が痛むわ…………



 馬車で進みながら活気のある領地を見渡し、自分に出来る事は、と考える。



 「お嬢様、あそこの丘の上に見えるのが我が公爵領主の屋敷でございますよ!」



 丘の上には周りを塀で囲まれた立派な屋敷がそびえ立っていた。これがマナーハウス…………王都の屋敷も素晴らしいものだったけど、領地の方も凄いわね。こんな素晴らしい屋敷が領主不在だなんて、勿体ない!

 ずっとここに住んでいてもいいかしら…………でもそうなったらお父様が泣くわね。お父様なら隠居してきそうな感じもするけれど。


 そんな事を考えながらクスリと笑ってしまった。



 「見て、ソフィア。あれが私たちの住むお家よ。これからここで生活する事になるわ、楽しみね!」



 そう言って笑いかけると、ソフィアははにかんだ後、ちょっと動揺しているようにも見えた。そうよね、こんなお屋敷に住むなんて言われたらビックリ仰天よね…………私だって前世は普通の主婦だったんだもの、正直現実味がないわ。でもワクワクもしている自分がいる。


 これから自分がやりたい事を見つけ、やりがいを感じられたらそれはもう幸せな事だと思うから。



 「一緒に楽しい事をしていきましょうね」



 そう言うと、ソフィアは頭を縦にブンブン振って頬を赤くしながら微笑んだ。




 ∞∞∞∞




 馬車は丘の上に辿り着き、ゆっくりと停止する。領主館には知らせが入っていたのか、すでに沢山の人々がずらりと並んで待っていた。


 私たちが馬車から下りてくると、領主館を預かっていた執事兼家令を務めているやや白髪交じりの口髭を蓄えた中年の男性が近づいて、恭しく挨拶をしてきた。



 「お待ち致しておりました、オリビアお嬢様でございますね。ここの家令を務めさせていただいております、ロバートでございます。覚えておられますかな?お小さい頃にここでマリーベルと共にお過ごしになられておりましたが……」



 ニコニコしながら穏やかに話す様子は小説にも描かれていたわね。この人が私の乳母の旦那様……という事はマリーのお父様じゃないの?!私とした事がすっかり忘れていたわ…………マリーと一緒にここで遊んでいた時の事も読んでいたのにマリーのお父様という認識が全くなかった。マリー達親子には本当にお世話になりっぱなしね。



 「ええ、しっかり覚えていますわ。あの頃も沢山お世話になったけど、今回もお世話になります」



 と挨拶をすると、マリーが「お父様、お久しぶりです」とロバートと抱擁をかわした。



 「お前も元気そうだな。しっかりとお嬢様にお仕えしているな?」


 「もちろんです!お嬢様の事なら誰にも負けません!」


 何の勝負かは分からないけど、いつものように鼻息を荒くして、自信満々に言うマリーに屋敷の皆もロバートや私もつい笑ってしまうのだった。




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