皆が笑顔で再会を喜んでいたところ、ロバートがふとソフィアの存在に気付いた。
「おや、こちらのお嬢様はどちら様ですかな?」
ロバートが優しく聞いてきたけど、ソフィアはまだ喋る事が苦手で言葉が上手に出てこない。私のスカートにしがみつき、顔を埋める勢いだ。何とか喋ろうとしているのか、スカートを握る手は更に力が入って震えているのが布越しでも分かる。
「ロバート、この子はソフィアっていうの。後で詳しい事情は説明するわね、ひとまず我が公爵家で面倒を見たいと思って連れてきたの」
私がそう言って助け船を出すと、ホッとした表情をするソフィア。無理に今話す必要はないわね。ロバートは私の表情を見て複雑な事情を察してくれたらしくて、その場でこれ以上追及してくる事はなかった。
「ふむ。ではこの小さなお嬢様の為のお部屋も必要ですな。すぐにご用意いたします。」
ロバートが笑顔でそう言ってくれたのだけど、ソフィアは私にしがみついている状態なので一緒にじゃないと寝られないわね。
「部屋は私と一緒で大丈夫よ。これまでも一緒に寝てきたし、私が一緒じゃないと寝ないと思うから」
ロバートは承知いたしました、と頭を下げて皆を屋敷の中へ招いてくれた。
∞∞∞∞
屋敷に着いたのは日が沈み始める頃だったので、その日はゆっくりと過ごし、たっぷり食べて広いお湯にも浸かった。
この公爵領はお湯が湧き出る事でも有名で、そのお湯に浸かると体がとっても軽くなるのだ。これは前世では温泉と言われていたものだと思うわ。自然に湧き出てくるものだから、お父様が整備して領民が皆で浸かれる公衆浴場を作ったのよね。
これがまた領民の間ではとても好評で、誰でも浸かれるから皆の憩いの場にもなっているという。私もここにいる間に一度は行ってみたい。前世では度々温泉に行ったし、本当に気持ちがいいのよね。
ソフィアも連れて行ったら、きっと喜ぶに違いないわ。マナーハウスのお風呂もとっても気持ち良さそうに入っていたもの。左腕にも効きそう!
旅の疲れも出たのか、その日はベッドに入ると二人であっという間に深い眠りに落ちていった――――――
翌日、これからここでお世話になるのだからと、ロバートにソフィアの事を説明した。ソフィアはマリーに預けてきたので、執務室にはロバートと私の二人だけの状況だ。
私の話をひとしきり聞き終えたロバートは、穏やかに話し始める。
「お嬢様はご立派になられましたな。もうマリーベルと一緒に走り回っていたお嬢様ではないようですね。…………今回の件は承知いたしました。しかしながら、これからは孤児を連れてくるというのは慎重になされますよう」
やっぱり親子ね、マリーと同じ事を言うところが。それだけ考えがしっかりとしているという事だろう。
「そうね、気を付けるわ」
「お嬢様はお優しいお方です。そのお気持ちを利用しようとする輩がいる事もお忘れなきよう。孤児と言っても仕事としての物乞いなどもおります。わざと貧しいフリをして支援をねだる者もいるのです。それらを見分けるのは至難の業でしょう……」
仕事としての物乞い…………そこまでは考えていなかったわ。ビジネスにしているという事?前世で言う詐欺のような集団の事かしら…………そんな人たちが屋敷に住むようになったら……想像するとゾッとしたわ………………
「そうね、私の考えが甘かったようだわ。以後気を付けます」
「いえ、ソフィア様に関しては心配ないかと思っております。虐げられてきた様子が手に取るように分かりますので…………」
ロバートから見ても分かるのね……ソフィアの心の傷は思っているよりもずっと深かった。体に触れようとするとまだビクッとするし、お風呂でみたソフィアの体には無数の傷跡があった………………食事もまだ満足に食べきれていないし、背も小さい。
声を発する事に抵抗があるのもきっと、何か事情があるのよね……
「皆には遠い親戚の子とでも説明しておきましょう」
ロバートの心遣いがとても有難いわ。やっぱり親子ね、マリーとロバートの方がよほど優しいと思うのだけど。
「あと1つだけ、ロバートにお願いがあるの。今日から領地を見て回りたいと思っていて…………領地経営を学びたいと思っているの。その為にはロバートの協力が必要かなって…………お仕事が忙しい中でお願いするのは心苦しいんだけど、協力してくれる?」