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第17話 交渉成立


 私が領地経営を学びたいと言った事が寝耳に水だったのか、ロバートは目を丸くして驚いていた。そりゃそうよね……王太子妃候補とは言え、箱入り娘の公爵令嬢が領地経営を学びたいと言い出すんですもの。


 何が起こったのかと思うかしら。



 「…………領地経営、ですか?失礼ですが、お嬢様は王太子殿下とご婚約していらっしゃいますよね?なぜ領地経営を学ぶ必要が…………いや、そう思われた理由をお聞きしても……?」



 ロバートは私の真意をはかり兼ねているのか、慎重に聞いてきた。


 どうやって返そうかしら…………前世の知識でも領地については知っているけど、領地経営については全く分からないから教えてもらおうと思ったんだけど……オリビアが領地経営を勉強していたのかは小説に書かれていなかったし、今の私の頭にもないという事は学んでいなかった可能性が高い……嘘は心苦しいけど、王太子妃教育って言えばロバートも協力せざるを得ないわよね。一か八か言ってみるしかないわ。



 「領地経営はね……そう、王太子妃教育の一貫なのよ!未来の国王陛下をお支えするんですもの。国の仕組み、領地の仕組みを知らなければ、共に国を発展させていくなんて無理でしょう?私はお飾りの王太子妃になりたいわけではなくて、共に歩んでいける人間として隣にいたいのよ……」



 自分で言っていて流石に話を飛躍させ過ぎたかなと思いつつ、ちょっぴり落ち込む自分がいた。


 一緒に歩んでいくパートナー…………そんな人間として隣にいられるという事は幸せな事だって、私は知っている。前世でそうなりたかった夫とは、全くダメだったから…………どちらが悪いなんてもう分からなくなっていたし、生活していく事に必死でどうでもよくなってしまっていた。

 でも私だって最初はそうありたいと願って、努力していたはずなんだけど、どこからすれ違ってしまったのか…………気付いたら手遅れになるほどに夫との距離は離れるばかり。


 今回小説の世界に転生したけれど、こちらの世界でも婚約者の本当のパートナーは自分ではないという…………皮肉なものね。でも未来が分かっているからこそ、私に出来る事がある。


 王太子とは離れたし、ソフィアとも出会って、ゼフがいたり、小説の内容からはかけ離れてきてはいる。でも聖女がパートナーになる未来は変わらないはず。だから全力で王太子から離れ、一人で生きていく未来をつかみ取らなければ。


 何より公爵家の皆をあんな目に合わせたくない!一人で悶々と考えながらフンスと鼻息荒くしていると、不思議に思ったロバートが声をかけてくる。



 「……お嬢様?」


 「あ、とにかくそういう事だから!ロバート、よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げた。いけない、前世の事を考えてしんみりしてしまったわ…………とにかく今に集中しないと。



 「承知いたしました。お嬢様の心意気、とても感動いたしましたぞ。そこまで広い世界を見ていらっしゃったとは…………ロバートも鼻が高うございます。領地の収支に関する帳簿などもございますので、ここにおられる間に説明させていただきます」


 帳簿!それが見たかったのよ~~これで公爵領の収支がどうなっているのか、どのくらい自由に使えるのかが分かれば出来る事が増えるわね。



 「ありがとう、ロバート!恩に着るわ!そうと決まれば領地を見て回って来るわ~~」



 私はルンルンで執務室を出て行った。そしてそんな私の姿にポツンと残されたロバートが、呆気に取られていたのだった――――





 ∞∞∞∞





 自室に戻るとソフィアが走ってきて、私のスカートに飛び込んでくる。ボフッとスカートに顔を埋め、ぎゅうぎゅうに抱き着いて寂しさを表現する姿が本当に愛おしい。左腕が痛々しいけど、ソフィアは抱き着くのに夢中で気になっていないみたい。



 「待たせてごめんね。ロバートと話し込んでしまって…………」


 「父が何か失礼な事は言っていませんでしたか?」


 マリーが心配そうに聞いてきたので、執務室で話した内容をかいつまんで二人に話した。



 「というわけで、これから領地を回ってきましょう!マリーもソフィアも来てくれるわよね?」



 そう言ってウィンクすると、二人とも笑顔で頷いてくれた。 



 「もちろんです!ではお昼は領地で何か食べましょう!」


 それを聞いてソフィアが顔を輝かせたので、つられて私も笑顔になる……子供はやっぱり美味しい食べ物が好きよね。とっても楽しみになってきたわ!




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