「領地を回る前に動きやすい服装にお着替えいたしましょう!」
マリーが張り切ってそう言うので、私とソフィアは着替える事となった。ソフィアはショートドレスから汚れても大丈夫なエプロンドレスに着替えてサンハットをかぶせ、顎のところで紐をリボン結びにする。可愛い~~すっかりお嬢様って感じね!
私はというと…………シゴ袖の上着を羽織り中には少し丈が短いAラインのスカートと、足首を見せない為のブーツ、頭にはストローハットをかぶる…………どこかの女商人みたいね。かっこいい!
シゴ袖は動きやすいから正直助かる。貴族女性の衣装って、本当にヒラヒラしているものが多くて動きにくいのよね…………元のオリビアは淑女教育をしっかり受けていたからか、貴族女性としての身のこなしや作法は自然と身に付いていたし、知識もそのままだったから良かったものの。
全く何もない状態で転生していたら、それこそ中身はオリビアじゃないってバレてしまっていたわね。
着替えが終わったところで部屋から出ると、当然のようにゼフが支度を済ませて立っていた。私も行きますって事ね…………それにしてもゼフったら、ちょっと小金持ちの農民風の服装って感じ。
フロックを羽織り、ズボンには皮のゲートルを身に付けている。すごく似合っているのでまじまじと見てしまうわ……ソフィアも目を丸くしてゼフを見つめている。
「ゼフ、似合っているわよね?」
ソフィアに同意を求めると、首を縦にブンブン振って同意してくれた。当の本人はペコリと頭を下げて、スッと歩いて行ってしまう。照れているのかしら………………まさか、ね。
「さぁ、出発しましょう!」
∞∞∞∞
丘の上から歩いて街におりて行くとすぐのところに教会が建っている。しかし、教会の扉は固く閉ざされていて、あまり人が出入りしている様子は見られなかった。
商店街は賑わっていて人が溢れている様子なのに、なぜここだけ寂しい様子なのかしら…………教会のすぐ後ろには修道院があり、そこは人の出入りが頻繁になされていた。
教会は人々の信仰の為、集会なども行われたりする重要な場所のはず。また教会や修道院は保護区としての役割があるから、本来ならここが貧しい人々にとって救いの場所でもあるはずなんだけど…………後々チェックが必要のようね。
教会や修道院をチラリと見ながら、ひとまず人が賑わう広場や市場に行ってみる事にした。
広場には沢山の人々が楽しそうに過ごしていて、子供も元気に走り回っていた。
「ここでお昼を食べるのもいいわね」
そんな事を呟くと皆が頷いて同意してくれたので、決まりね。ソフィアは待ちきれないといった様子だわ。
広場から出ると、ズラリと商店が並んでいる――――ここが市場なのね!各お店を見ていると、本当に様々なものが売られていて、目移りしてしまう…………炭焼き職人がいるので領地でガラスを製造したり出来るのね。綺麗なガラス細工なども並んでいて、目がキラキラしてくる。
ソフィアはガラス細工を初めて見るらしく、そのお店の前で食い入るように見ていた。そんなところも可愛い。
「何か気に入ったものはあった?」
それとなくソフィアに聞いてみるとビックリした様子でもじもじし始めたが、やがてゆっくりと指を刺したのは、羽がブルーの小さな鳥のガラス細工だった。幸せの青い鳥ね!
「これがいいのね。あなたはセンスがいいわ!じゃあこれを買いましょう」
私がそう言うとソフィアが私の腕を掴んで頭をブンブン振って止めようとする。遠慮しているのかしら…………
「これは私がソフィアに飾ってほしいの。これを買ったらお部屋に飾ってくれる?」
そう言うと少し沈黙した後、また頭を縦にブンブン振ってくれたので思わず笑顔になってしまったわ…………なんでも買ってあげたくなっちゃう。過保護には気をつけないと。
そうして私はゼフにガラス細工を渡して、お会計を済ませてきてもらった。お会計から戻ってきたゼフが私を見て頷くと、ソフィアの前にしゃがみ込んで目線を合わせ、彼女に渡してくれた。
ゼフって紳士ね………………ソフィアの顔は真っ赤だわ。今までお嬢様のように渡された事はなかっただろうから、無理もないんだけど。
ゼフは相変わらずの無表情で立ち上がり、スタスタ歩き始める。
二人のやり取りを見て、何やら私の方が気恥ずかしい気持ちになってしまうのだった――――――