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第43話 帰郷


 あの後、衛兵に連れていかれたヴェットーリ司教たちは、罪人を運ぶ為の厳重な作りの馬車に乗せられ、王都に連行されて行った。




 ヴィルはニコライ様にからかわれてご機嫌斜めの顔をしながら私の隣に座り、ソフィアはヴィルとは逆の私の隣に座っている。目の前にはパウロたちが座り、子供たちはとても元気で楽しそうだわ。行きは緊張していたものね……



 「ようやく帰れるわね……ニコライ卿にはいつの間に連絡していたの?」


 「……公爵に連絡した時にね…………港を使っているとなると、ニコライの力が必要になると思ったから連絡をしておいたんだ。それにウィットヴェンスキー家としても港で好きにやられているというのは許しがたい事実だからね……ウィットヴェンスキー卿も教会に対して強く出てくるだろうな」



 今回の事で色々な事が動きだすのかもしれない。人身売買が明るみになった事で、共謀していたヤコブ司祭はいずれ連行されていくだろう。



 聖ジェノヴァ教会の者が領地からいなくなれば、オルビスやテレサたちも安心して暮らせるようになっていくわ。



 ロバートは今回のヤコブ司祭の件は、ぜひ自分にさせてほしいと懇願してきたので、やってもらう事にしたのよね。きっとマナーハウスの方で頑張ってくれていると信じて託す事にしたのだ。



 「そこまで考えて動いていたのね。凄いわ……」


 「…………惚れ直したか?」



 そう言ってドヤ顔をして見せるところは相変わらずね…………私は引いている顔を出来るだけ悟られないように笑顔を作る。



 「さあ……どうでしょうか」


 「…………………………っ」



 ヴィルが衝撃を受けている。同意を得られなくてショックという顔が面白い……ニコライ様の気持ちがちょっと分かった気がする。この人は意外といじりがいのある人かもしれない。



 「凄いなって、尊敬はしているわ」



 そう笑顔で言うと、苦笑いをしながら「今はそれでいい」と頭をポンとしてきたのだった。




 ∞∞∞∞





 そして荷馬車は無事に領地に入り、貧民街の入口に近づくとオルビスとテレサが走ってくる。心配して待っていてくれたのね……貧民街の住人も沢山いるわ。


 二人が走ってくる姿を見て、パウロたちは荷馬車から飛び下りて全力で走って行った。オルビスとテレサは子供たちと抱き合い、住人も駆け寄って無事を確かめ合っている……



 「お嬢様も殿下もご無事で!子供たちも無事に送り届けてくださって、感謝します!」



 オルビスは心底ホッとしたような顔をしているわ……テレサも嬉しそう。



 「無事に送り届けるって約束してたんだから、そんなペコペコすんなよオルビス!…………でもよかった……」



 テレサも相変わらずね、皆嬉しそう。ヤコブ司祭の事を聞いておきたかったので、私とヴィルとソフィアも荷馬車から下りる事にした。



 「ヤコブ司祭の方はどうなったか教えてくれる?」


 「はい、ヤコブ司祭の方はロバート様が頑張ってくださいまして……領民も勝手に税を巻き上げられている事を知り、ロバート様と一緒にいた司祭に怒りをぶつけていました。この件に関しては公爵様からの委任状を持つオリビア様の一存で、王都の教会に戻ってもらうようロバート様は突き付けたのですが…………話の最中にどうやら王都の教会から戻ってくるようにという書状が届いたようで……」



 王都から?ヴェットーリ司教は先ほど逮捕されたばかりだから時間的にも合わないし、きっとお父様のおかげね――



 「私が公爵に連絡した事が活きたな。教会がすぐに動いたとは」



 …………自分の手柄とばかりに得意げなヴィル…………でもお礼は言っておかなければ。



 「ありがとう、ございます……」



 私が引きつりながらもお礼を言うと耳元で「やはり惚れ直したな」と得意げに言ってくる。



 「…………もう!そんなわけっ」



 耳は本当に止めてもらいたい。ははっと笑いながらご機嫌なヴィルの横で、ソフィアがパウロたちと別れを惜しんでした。



 「またな、ソフィア!」


 「……またね、パウロ。皆遊びにきてね」



 子供たちのやり取りが可愛い…………



 「そうね、マナーハウスに遊びに来たらいいわ!テレサもオルビスも来てちょうだい。ロバートも喜ぶわよ!」



 二人はびっくりしている様子だったけど、私が引かないものだから二日後に来てくれる事になった。領地にはもう聖ジェノヴァ教会の者はいなくなったけど、やらなきゃいけない事がまだあるものね。



 二人に話したい事もあるし……



 そんなやり取りをして、私とヴィルとソフィアはまた荷馬車に乗り込み、マナーハウスに戻って行った。





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