元のオリビアは王妃殿下が苦手だった。小説を読んでいても伝わってくる……理由はオリビアにとっての世界の中心である王太子殿下の悪口を言うから。
もちろん小説の中のオリビアはそんな話に同調しないわけだけど、王妃殿下は同調するまでしつこくヴィルを貶める事ばかり言ってくる。
私はこの毒親っぷりが本当に嫌いで……どうやったら自分の子供の悪口が出てくるんだろう。
確かにヴィルにも悪いところがあったとしても親は味方でいないとダメでしょ…………そんな私の考えとは正反対の事をする王妃殿下の事は、理解出来る気がしない。
実物の王妃殿下は、とても優雅で尊大な雰囲気が凄い……エレガントな刺繡が施された付け襟を大きく立てていて、首には豪華な宝飾品、髪は高く結い上げている。
王妃殿下というより女王といった感じがするわね。
「オリビア、我が愚息がそなたの領地で世話になったな。あやつめ張り切っていたようではないか……人身売買の現場を押さえて、議会では意気揚々と発言をしている。いつからあのように出しゃばるようになったのか……公爵領でも迷惑をかけていたのであろう?まったく、仕方のないヤツよ…………」
始まったわ……さっそくヴィルをこき下ろし始めた。どうやったらこんな風に自分の息子を貶せるのかしら……領地でのヴィルを見てもいないのに。
「……王妃殿下、ヴィルヘルム王太子殿下は全く迷惑などかけてはおりませんわ。むしろ我が領地の為に尽力してくださって……私、大変感動致しましたの。王太子殿下の考える作戦が実に見事で……」
「殿下はとても頭がキレるお方ですもの、当然ですわ!きっと本の中の王子様のように華麗に犯人を捕まえたのでしょうね……」
ブランカ嬢はウットリとしたお顔で、ヴィルの事を語っている。あまり同調するのも寒気がするけど、今回は王妃殿下を牽制する意味でも大いに同調しておくべきね。
「そうなのです!犯人の前にヒラリと登場し、たちまち捕まえてしまいましたわ。そのお姿たるや……ブランカ様にもお見せしたかったですわ……」
私は持っていた扇を開き、しっとりと笑って見せた。ブランカ嬢は嬉しそうに私の話に乗ってきて、女子会のような雰囲気になりそうだった……その時、王妃殿下が自身の扇をピシッと閉じる――
あまりに大きな音だったので、私とブランカ嬢は目を見開いて王妃殿下を見た。
「…………随分楽しそうだこと……そう、ブランカ。あなたは私の見解は的外れだと言いたいのだな…………」
「い、いえ!そういう事ではございませんっ……ただヴィルヘルム王太子殿下は王族に相応しいお方だと言いたいだけで…………」
「…………ふん……まあ、よい。そろそろお茶を飲もうではないか。レジーナ、入れてくれ」
「かしこまりました」
え?レジーナ嬢が入れるの?てっきり使用人が入れるのかと思った…………レジーナ嬢を侍女代わりに使っている……
「あ、私も手伝いますわ」
私が咄嗟に声をかけると、レジーナ嬢は頑として譲らなかった。
「オリビアよ、この王都でも愚息とそなたの活躍は知らぬ者はいないほど、有名となっている。もはや国中に広がるのも時間の問題だ。王太子妃候補として見事な活躍だったな。」
「あ、ありがたいお言葉にございます……」
やけに持ち上げてくるわね……私は一抹の気持ち悪さを感じていた。
「しかし、クラレンス公爵は大層心配したであろう。親にそのような心配をかけるのは…………褒められたものではないな」
「オリビア様はお転婆ですもんね」
「は……?」
私は何を言われたのか理解出来ず、素っ頓狂な声を出してしまう。お転婆?褒められたものではない?ブランカ嬢は王妃殿下と一緒にクスクス笑っている……レジーナ嬢はニコニコ話を聞いていて、その隣りに座っている令嬢は無表情だった。
とても嫌な雰囲気――――そうか、このお茶会は私を貶める為に開かれているのね。
私をバカにし、お前の味方はいないのだから、身の程を弁えなさいと言いたいのだわ……悔しい。何とかして言い返したい。
「……オリビア様、私は伯爵家のイザベル・アングレアと申します。私は女性でそのような活躍が出来る事、素晴らしいと思いましたわ。ぜひその時のお話をお聞かせください」
ずっと無表情だったイザベル嬢が突然口を開いたかと思うと、私に話を聞かせてほしいと言い始める。このお方は何となく王妃殿下やブランカ嬢、レジーナ嬢とは雰囲気が違う気がする――
私は困惑しつつも助け船を出してくれたと思い、その時の事を語り始めた。