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第53話 招待状


 そしてその日はやってきた。



 お父様と議会での話をした二日後に王妃殿下からのお茶会の招待状が来たのだ――



 公爵邸の執事、エリオットから私に招待状が渡される。



 「お嬢様、帰ってきて早々ですが王妃殿下からの招待状が来ております。旦那様には行かせないように言いつかっておりますが……どういたしますか?」


 「招待状…………返事を書かなくてはダメよね……」



 まだ領地から帰って7日も経っていないのにすぐに送ってくるとはね…………よほど焦っているという事かしら。お父様は行くなとおっしゃるけど、私としては転生して初めての王妃殿下とのお茶会なので、正直出席してみたいと思っている。



 小説ではまったくのモブ扱いだった王妃殿下……国王に次ぐ権力の持ち主なわけだけど、実際に会っていないからどういった方か分からない。


 ただ避けているだけで安心安全とは思えないし、今のところ王妃殿下のいいように扱われている感じがして気味が悪いわ。



 お父様やヴィルには反対されそうだけど、今回だけでも出席してみましょうか――



 「エリオット、お父様には内緒にしてね。きっと物凄く心配するだろうから……」


 「……それでは…………」


 「ええ、出席でお返事を書くわ」


 「……………………くれぐれもお気を付けください」

 「止めないの?」


 「…………お嬢様は頑固なお方なので、一度決めたら考えを変える事はしないでしょうから」



 エリオットはさすがね、よく分かっているわ。きっとお父様も行ってほしくないけど、私を止めても無駄だとは思っているでしょうね――



 王妃殿下への返事はエリオットに任せて、私は当日着ていくドレスを考えていた。



 「うーーん…………やっぱり新調した方がいいかしら?王妃殿下にお会いするのだから失礼のない装いじゃないとダメよね……」


 「こちらにあるドレスも素敵なものばかりですけどね!王都にはオシャレな洋装屋が沢山ありますし、こちらに来てもらって新しいドレスを新調しましょう。お茶会まで時間もありませんしね!」



 そうなのだ、招待状に書いてあったお茶会は3日後…………あまりゆっくりもしていられないわ。



 「今回はスケジュールがタイトだから既製品でいいわ。最新のドレスにしましょう」


 「はい!」



 ~・~・~・~



 そうして新しいドレスを新調した私は、デザインも最新と言われているドレスを来て、王宮に向かった。



 ドレスは既製品ながら、とてもエレガントだった。ハートカットラインの胸元にはビージングが施されていて光の当たり具合で色が変化している。腕のベルスリーブもオシャレだし、スカート部分も様々な生地を重ねているティアードのデザインで、アシンメトリーな感じが素敵ね……袖口やスカートの裾には全てにビジューが施されている。


 少しマーメイド型なデザインだけど体にフィットし過ぎずにふんわりしているから、とても動きやすいわ。



 髪の毛はマリーがシニョンに結ってくれて、全体的にふんわりした感じに仕上げてくれていた。




 さあ、いざ出陣ね!




 「お嬢様~~お美しいです~!」


 「オリビア様綺麗!」



 マリーとソフィアや侍女たちがとっても褒めてくれる。まだソフィアはお姉様とは呼べないみたいで、いつかそう呼んでくれる事を心待ちにしているんだけど……急いては事を仕損じるってやつね。気長に待ちましょう。



 「皆、ありがとう!行ってくるわね」



 『行ってらっしゃいませ!』




 皆に見送られながら公爵家の馬車に乗り込んだ…………ここから先は戦場とも言うべき場所ね。私の他にも数人呼ばれていると思うけど……皆でお茶会をしましょうって招待状だったから。


 転生してからこちらの世界の貴族女性に会うのは初めてだし、そういう意味でも緊張してしまう……会った事がある人物なら元のオリビアの記憶として残っているはず。全くの初めましての人は今日覚えなければね。



 そんな事を考えていると馬車は王宮に到着し、私は王妃殿下の侍女っぽい女性に案内されて王宮内を歩いていた。




 王宮内に入るとまず目に入るのは中央の大きな庭園だ……吹き抜けになっていて美しく整えられているわ。ここで夜会があったら、夜の庭園なんて雰囲気があって素敵ね。私はそこを通り過ぎ、どんどん奥まで進んでいく……関係者以外入れなさそうな通路だわ。



 そしてひと際煌びやかな扉の前に止まった。



 「この扉の奥は王妃殿下専用の温室庭園となっております。そちらで皆さま、お待ちです」



 「ありがとう。ご苦労様でした」




 侍女が扉を開いてくれたので入ってみると、おびただしい植物たちの中央に吹き抜けのガゼボがあり、そこで皆がもう待っている状態だった。



 私は丁寧なカテーシーをして挨拶をした。



 「……遅れて申し訳ございません。王妃殿下におかれましては……」


 「堅苦しい挨拶は苦手といつも申しておるだろう、オリビア。早うお座りなさい」



 私の挨拶を遮るように席に座るように促される……挨拶は万国共通なのよ、きちんと挨拶もさせてもらえないなんて。周りの令嬢からクスクス笑う声が聞こえる。挨拶の為に下げていた頭を上げて皆を見渡すと、今日はどうやら私と王妃殿下の他に3人の令嬢がご招待されていたようだった。



 3人とも顔は知っているけど名前が分からない人もいるわ……王妃殿下の左側に座っているのは生徒会書記のブランカ・メクレーベル伯爵令嬢。右側に座っているのはレジーナ・ボゾン子爵令嬢。



 レジーナ嬢の隣に座っているのは…………おそらく学園で見た事がある程度で名前は分からないわね。



 私は足早に自身の席に着いたのだった。




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