「そう言えば、先日の王妃殿下のお茶会では、公爵領でのオリビア様のご活躍のお話が聞けて、とても有意義な時間となりました……」
「え?私?」
「はい。女性でありながら領地の為に自ら解決に乗り出す……そのようなご令嬢はなかなかおりません」
私はてっきりヴィルの話が聞けて喜んでいるとばかり思っていたのだけど、違ったのね……ブランカ嬢もヴィルの話を聞いて喜んで飛びついていたし、皆そうなのかと同じように思ってしまったわ。
「……それは良かったですわ。私はただお転婆なだけです。お父様も呆れるくらいに……この年になっても落ち着かないから心配ばかりかけてしまって」
「公爵閣下はそんなオリビア様だから、可愛いのかもしれません。公爵閣下がオリビア様の事をお話しなさる時のお顔と言ったら…………申し訳ございません、私たちアングレア家にとって、クラレンス公爵家は永遠の憧れの象徴なのです」
「え………………」
永遠の憧れの象徴?…………そんな方たちがいらっしゃったなんて初めて聞いたわ………………
「これは私たちだけではありません。クラレンス公爵家に畏敬の念を抱いている貴族は多々いるかと思われます。私の父など…………」
ここからイザベル嬢の怒涛の褒め殺しが約1時間ほど続く――――――
「…………ですから、今日公爵家に来る事が出来て、こうしてオリビア様とお話しする事が出来て、私は…………天にも昇るほどの喜びを感じております」
散々褒め殺して最後を締めくくったイザベル嬢だけど、その間ずっと表情が変わらないままだった。
イザベル嬢って、面白いわね。もしかしてご家族は皆表情が変わらないまま熱い語りをなさるのかしら――
「…………それは私としても嬉しいわ。そうだ、私の事はオリビアと呼んでくれていいのよ。年齢も近いのだから親しくなれたらと思っているの……ダメ、かしら?」
「…………………………ダメなわけありません!」
「敬語もなしで」
「わ、わかり…………わかった、わ。オリビア…………で良いのですか?」
「うふふっ最後に戻ってしまっているわ、イザベル。でも徐々にで大丈夫だから」
ずっと表情が変わらないと思っていたのだけど、嬉しい時は頬を赤くして、目も輝いているし、とっても可愛い…………きっと嘘をつけない性格なのね。
アングレア伯爵家は騎士の血筋で、昔に戦争で功績を築き、今の地位までになった家柄。根が真面目で真っすぐな家なのかもしれない。伯爵がお父様の古い友人っていうだけで、信頼出来るお方だという事が分かるものね。
その娘であるイザベルも――
そしてふと、イザベルが庭園の隅にいるゼフに鋭い目を向ける。
「…………あのお方はどちらの方ですか?護衛?」
「あのお方ってゼフの事?ゼフはわけあって公爵家の護衛をしてくれているの。以前は王太子殿下の陰の護衛だったんですって」
「殿下の………………失礼」
何が失礼なのか分からずに私がキョトンとしていると、イザベルが立ち上がり、ゼフの方へ向かう……一体何をする気なんだろう。
そして右手を胸元にやったと思ったら、突然ゼフに切りかかった――――
――――ガキーンッ――――――
物凄い金属音が響き渡ったかと思うと、ゼフとイザベルが剣を交えている…………イザベルは小型のナイフのような形で、ゼフも小さな15cmほどのナイフで応戦していた。二人ともどこに隠し持っていたの――
二人の剣圧で辺りに風が巻き起こるくらいの衝撃――――
私は何が起きているのか分からず、呆気に取られてしまう。
「ちょっ、ちょっと…………」
二人は剣を交えたまま動かない…………しばらく睨み合ったままだったけど、すぐにお互いにナイフを仕舞った。
「…………さすがです。殿下の陰の護衛と聞いて、ぜひ手合わせしたいと思ってしまって…………突然すみません」
「…………いえ、大丈夫です」
ゼフは何事もなかったかのようにまたひっそりと護衛業務に戻った。
「オリビア様も失礼致しました。私の家は騎士の血筋を大事にしていて、女性と言えども剣術を習うのがしきたりで…………強い相手を見つけると、つい体がうずいてしまうというか……」
「へ、へぇ…………そうなの……」
イザベルは少し顔を赤らめて照れているわ…………照れる場面だったかしら?!
私は驚きで少し顔が引きつってしまっていた。強い相手を見つけると体がうずく……私には一生分からない感情かもしれない。ゼフが強いと一目で分かったって事よね?
イザベルも相当強いんだわ。カッコいい…………
私はこの正直な女性が、何だかとても可愛らしくてカッコよくて、とても好きになってしまった。
「……ふふふっイザベルって、本当に面白いわね」
「オ、オリビア様…………そんな風に言っていただけて恐縮ですっ」
両手を祈るようなポーズにして、目が輝いている…………相変わらず顔の表情は動いていないのだけど、若干口の端が上がっていて、嬉しそうなのは伝わってくるわ。
「敬語は禁止よ」
「ううっ…………それは無理かもしれません……公爵家の方を呼び捨てるなんて」
異世界に転生して、初めての貴族のお友達が出来て、この日のお茶会はとても幸せな時間になったのだった。