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第61話 子離れ親離れ



 「おや?」



 突然応接間の扉が開かれて、お父様が顔を覗かせた。


 私とヴィルは驚きのあまりすぐさま手を離し、私は立ち上がってお父様を迎え入れた。



 「お、お父様!お帰りなさいませ。殿下がいらしていたので、こちらでお話ししていたのですわ」


 「…………うんうん、そうだよね。婚約者の家なのだから、手なんか握ったりしないよね~」


 「ひえっ」



 思わず変な声が出てしまった……しっかり見られていたのね?ヴィルの顔が青ざめて苦笑いしているわ……今日はこのまま帰ってもらった方が良さそうね。


 イザベル嬢の事とかもう少し伝えておきたかったんだけど、仕方ない。



 お父様の背後に何やら黒いオーラが見えた気がするので、今日のところはヴィルには帰ってもらう事にしたのだった。




 ~・~・~・~





 「まったく、殿下もいくら婚約者と言っても未婚の女性の家に夜に来るのは感心しないな~」



 夕食の席でのお父様は、今まで見た事がないくらい不機嫌でいらっしゃるわ…………まさに娘の彼氏に嫉妬する父親って感じね。


 ふふっそんな事を言っているお父様が可愛くて、ずっと見ていられるって言ったら怒られそうだけど。



 「それにしても殿下は、どうしてこんな時間に来たんだい?」


 「今日は王妃殿下のお茶会に行っていた私を心配して来てくれただけですわ。ニコライ卿に今日聞いたんですって……」


 「…………ああ、きっとその話を聞いたらすぐにすっ飛んで行きそうだから、言わないようにしていたんだろうね、ニコライ君は。その通りにすぐに我が屋敷に来たわけだ」


 「そうなりますわね。でも今日は王妃殿下のお話をして、大笑いしてましたわ。私が王妃殿下の顔を真似すると似ていたみたいで…………凄く似てるって」



 こんな顔よって隣で食事するソフィアに見せると、ソフィアがうふふって笑い出した。そんなに面白い顔だったのね……ちょっと複雑。



 その話をすると、お父様がびっくりした顔をして私を見つめた。



 「大笑い?あの殿下がお母上の話で?………………そう。それは良かった」



 お父様は何か思い出しているかのような表情で、少し微笑んでいる。私も王妃殿下のお話でヴィルが笑っているのを見て、ちょっと親離れ出来たのかなって感じていた。


 やっぱり子供にとって母親の影響って、大きいものだから。



 「王妃殿下も子離れしてくれるといいんだけどね~」



 お父様に言われてハッと気付く……子離れ。そっか、あの方は子離れ出来ていないのね。好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だから…………放っておいてくれるのが一番なんだけど。



 今度会った時に言ってみようかしら。



 「そう言えば、ようやく司教と司祭の刑が決まりそうだよ。かなり長引いてしまったけどね……」


 「……どのような感じになりそうですの?」


 「う――ん……二人は教会から追放、司祭は離島に飛ばされるだろう。司教の方も同じにと思っていたんだけど、一旦教会預かりになりそうなんだ……」



 教会から追放なのに教会預かり?それって矛盾しているわ…………



 「教会は神聖な場所として、罪を犯した者を一時的に保護する権限がある。司教は教会での身分は失うけど、罪人として保護するべき期間は教会で預かる、という事にるだろう。その間に建国祭という国をあげての行事があるから、ひとまず教会の信者を抑える為に保留にするって感じかな」


 「教会の権限をこれでもかっていうくらいに使ってきますのね……司祭は見捨てられてしまったという事?」


 「まぁ司祭クラスなら、民もそこまで大きな暴動は起こさないと判断されたんだと思う。司教までになると信者も多くてね……」


 「大罪を犯したのに正しく裁かれないなんて、理不尽ですわ……」



 人を売りさばいておいて、これっぽっちの罪にしかならないなんて、今まで売られていった子供たちの事を考えると理不尽さに怒りがこみ上げてくる。



 「うん……あの司教が建国祭の時に黙っているとも思えないんだけど…………オリビアも十分気を付けるんだよ。建国祭は色々な人々が行き交うし、王宮にも沢山の人が行き来するから」


 「そうですわね、そういう意味でも民の暴動をひとまず抑えておくっていうのは大事な事かもしれませんわ。色々な人々が行き交う建国祭で何かあれば被害が大きくなってしまいますし……私もイザベルに剣術でも習おうかしら」



 私が思いつきで言うと、お父様は顔を輝かせて同意してきた。



 「いいんじゃないかな~~アングレア家は本当に優秀なんだよ。アングレア伯爵もだけど、イザベル嬢も兄のリチャード君も」


 「兄?イザベルにはお兄様がいらっしゃるのですか?」


 「殿下と同い年のお兄さんがいるよ。剣術に関してはぴか一だね、リチャード君は。建国祭で会えるだろうから挨拶したらいいよ。彼の剣技は…………」



 お父様はニコニコしながらイザベルのお兄さんについて語っている。そんなに素晴らしい剣技をお持ちなのね。イザベル自体も小説には出て来なかったし、もちろん兄の存在も私が知るわけもなく……アングレア家は皆イザベルのようにあまり表情が動かないのかしら。


 表情が動かなくても顔色がコロコロ変わるから、とても可愛いのよね。



 私はイザベルを思い出してクスッと笑ってしまった。




 「そうだ、思いついたら即、行動よね。時間がもったいないもの」


 「?」



 ソフィアもお父様も私の言葉の意図が分からず、キョトンとしている。



 「すぐにイザベルにお手紙を書くわ」






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