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第62話 街での暴動




 「あの………………これは一体どうしてこのような事に……」




 イザベルと私は二人で、王都にある今流行の”カフェ”というものに座っている。



 転生してから王都の街を見に来た事がなかったから、一度は来てみたかったのよね~~こちらの世界でもカフェはカフェなのね。カフェの外にはゼフが立っていて、私の護衛に来てくれていた。



 昨夜、イザベルに剣術指南してもらおうかなって思いつきで言ったのだけど、本格的に指南してほしくなって、すぐにその事で手紙を書いた。


 にも関わらず待ち合わせ場所がカフェで、イザベルは混乱していたのだった。




 手紙には剣術指南と待ち合わせ場所しか書いてなかったから、混乱しているのね。



 「ごめんなさい、混乱させてしまって。せっかくだからこういう女子会っぽい事をイザベルとしてみたくて……ダメだった?」


 「いえ、オリビア様からのお誘いはどんな事でも嬉しいので、カフェであろうとも喜んで参ります」


 「ふふふっありがとう。昨夜お父様とアングレア家の話になって、イザベルの顔が見たくなったのよ。一度会っただけで剣術の為にお屋敷に行くっていうのも失礼でしょう?私、学園に通っていないからお友達もいないし、こういう女性とのお出かけに憧れていて……」


 「オリビア様の相手に選んでいただけて、光栄です」



 頬を赤くしてそんな事を言ってくれるイザベル……はぁぁ尊い。イザベルが私の婚約者なら即結婚していたわね。



 「建国祭まで1か月を切ったでしょう?お父様が司教や司祭の刑が決まりそうだって、昨夜話していて……教会の者を裁くとなると民意も荒れるものだから、私も護身術ぐらいは身につけておいた方がいいんじゃないかなって思ったのよ。その時にイザベルの顔が浮かんで、指南してもらえたらなって……」


 「オリビア様に指南するお役目を頂けるのですか!それは喜び以外の何物でもありません。さっそく今からでも我が屋敷に来ていただければ、ご指南いたしますよ!」



 イザベルは興奮気味に誘ってくれる。正直ありがたい事よね、建国祭まで時間はないし、少しでも身につけていたら皆の心配も減るというもの。



 「じゃあ、さっそく伺ってしまおうかしら」



 私がイザベルにそう返事をした時、突然外から喧騒が聞こえてきた。私とイザベルは同時に立ち上がってカフェの外を見ると、数十人もの民がこのカフェに向かってやって来るのが見える。ゼフがカフェの扉を開いて飛び込んできた。



 「オリビア様、この店の裏口からお逃げください!民衆がやってきて、オリビア様を出せと言っています!」


 「え?!」


 「おそらく教会の信者かと思いますが……公爵令嬢を出せと言っているので」



 なぜ私がここにいるって知っているの…………司教と司祭の件で教会の信者が怒っているのね。でも逃げ回ってばかりいられないわ――



 「分かったわ、ゼフ。私に話をさせてちょうだい」


 「な、危険です!」



 「オリビア様、それはいけません……」



 ゼフもイザベルも心配してくれるのね。でもきっとこれからもこういう事は起きるのでしょうし、彼らにも言い分があるでしょうから聞かなくては。



 「……これは私が巻き起こした事でもあるから、話だけでも聞いておきたいの」


 「………………分かりました。私とゼフとでオリビア様をお守りします」



 「ありがとう」



 イザベルがそう言ってくれたので、イザベルとゼフに続いて私は民衆の前に出て行った。


 そこには沢山の民が集まっていて、皆一様に怒りの表情を浮かべている。中には悲しそうな顔をしている者も――――



 「私がオリビアです。私をお探しのようですが、どのようなご用件でしょうか」



 「……あんたか…………司教様や司祭様を犯人にして島流しにしようとしているのは。あんたのせいで、あんなに優しかった人が罪人にされてしまったんだぞ!」



 おかしいわ…………私ですら昨日お父様に聞いたばかりの二人の刑を……まだ決まってもいないのになぜこの人たちが知っているの?情報は機密事項だから洩らしてはいけないはず。

 そしてこの男性の言葉に反応するように民衆は大きな叫び声をあげながら、私を責め立てるような言葉を次々に言ってきた。



 「あんな下賤な奴らの子供なんかの為に司教様や司祭様がどうしてこんな目に……」



 下賤な奴らの子供?その言葉にいよいよ我慢が出来なくなった私は、言い返す事を決意する。



 「下賤な奴らの子供、ねぇ。あなた方はそう言うけど、陛下は民は皆平等だと考えておられるわ。教会の教えだってそうなのではなくて?」


 「司教様や司祭様が我々と同じだなんて、そんな畏れ多い事があるわけがないだろう!」


 「ふ――ん…………ならば、あなた方と私も違いますわよね?あなた方が下賤な者とか言うのなら、私にとってもあなた方は下賤な者になるでしょうし…………こんな事までされたのだもの、あなた方を売りに出してもいい、という事になるわね?」


 「っ………………な、なんっ…………」



 私はまさに悪役令嬢のように扇を広げ、威圧感たっぷりに言ってみると、大声を張り上げていた男は私の言葉に何も言い返せなくなっていた。身分を笠に着て、何をしてもいいわけではないわ。だからこそ法というものがあるのに、民の中で、命に対しての意識が低いからこんな事になるのかもしれない。



 私は持っていた扇をパチンッと閉じて、さらに続けた。



 「…………でも私はあなた方を売りには出さないし、下賤な者とも思ってはいない。権力や立場というのは、その為にあるのではないの。自分にとって気に入らない事が起きたからと言って、身分がある者が何でも意のままにしていては国は乱れるばかり。その為に法があるのです。それに……」



 男の前まで進み出て、その者の手を両手で握る。男は一瞬固まったけど、お構いなしに一番言いたかった事を伝えた。



 「私にとっても皆等しく、この国の大事な民なのですよ。あなたもこんな事をして、自分の命を粗末に扱ってはいけません。他の貴族にこんな事をしていたらどうなっていたか…………もうしないと約束してくれますか?」


 「……あ、いや…………あの…………」



 強く男の手を握ってお願いすると、男がとても動揺しているようだったので、一人一人の手を取って周りの民衆にも語りかける。



 「皆さんも自分の命を大事にしてください。何かあれば、私がお話を聞きますので……」



 私がそう言った瞬間、一人の女性が「……聞いてくださいよ~~」と泣きついてきた。


 手を握って腕をさすりながら落ち着かせるように悩みを聞いてあげていたら、その女性を皮切りに次から次へと悩み相談をされてしまって…………カフェの前では物凄い人だかりになってしまったのだった。


 私に怒鳴っていた男性も後に申し訳なさそうに謝ってくれた。




 私が笑顔で握手すると、あんなに怒っていたのにいい笑顔を見せてくれて……ゼフとイザベルは最後まで驚き戸惑っている様子で、私のそばを警戒しながら離れないでいてくれた――



 皆色々な悩みを抱えて生きているのね。


 その為に教会のような場所が心の支えになっている人もいるんだ…………それなのにあんな人の道に反する事を陰でしているなんて、こういう人達をも裏切っている事が分からないのかしら。


 教会の悪行は絶対に許せないし、必ず罪は償うべきだと思う。



 それとは別に今日は民の生活に直接触れる事が出来て、街に来て良かったと思えた。


 結局伯爵邸にはその日は行けなかったけど、今日のような事がまたあるのかもしれないと思うと、やっぱり私にも護身術が必要かもしれない……と改めて感じたのだった。

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