「う~~~ん……だるいわ……昨日頑張り過ぎちゃったせいね……」
「オリビア様、大丈夫?」
「ソフィア……ありがとう。ソフィアのおかげで元気になったわ!今日は私と図書室にでも行かない?」
「行く!」
あ――――癒される……昨日は本当に目まぐるしかったわね。あんな事態になるとは思わなかったし、沢山の人と交流するのは本当に楽しいのだけど、如何せん体力がない。
今朝は疲れが抜けなくてなかなか起き上がれなかった……テーブルに突っ伏している私に優しい言葉をかけてくれたソフィアと、図書室にでも行ってゆっくり過ごそう。
こういう日は無理しない方がいいわね。
それにちょっと調べたい事もあるし。公爵邸の図書室に調べたいものについての資料があるかは分からないけど……とにかく行ってみよう。
~・~・~・~
屋敷の1階エントランスホールの左側通路を歩いて行くと、突き当りに両開きの扉があり、その中が図書室となっていた。
お父様もお母様も読書家だから、かなりの大きさの図書室で様々な本が置いてある。食事をするホールよりも大きいわね。
ソフィアは度々そこで勉強したり読書したりしていて、私よりも図書室に置いてある本については詳しかったりする。子供は何でも吸収するのが早いわね。
今日もすぐに読みたい本を見つけて、椅子に座って読み始めていた。
王宮図書館はここの2倍以上の大きさがあるので、いつかソフィアも連れて行ってあげたい――――
そろそろ私も探さないと……建国祭が始まる前に少し聖女について調べておきたい。
正直小説の中では聖女が教会に降臨した、という描写だったけど、それってどうやって降臨するのか疑問だったのよね。この世界では聖女の降臨は度々あったみたいだけど、何人も降臨するわけじゃないし。
でもどこかに文献が残っていてもおかしくはない。
公爵家は王族の血を引いている者が多いから、我が家にも何かないかしら?
歴史、研究、魔術?ここには魔法はないから……そんな事を考えながら本を手に取っていると、突然扉がバンッと開いた。
「「オリビア!」」
私もソフィアも何事かと思って扉の方を見ると、お父様とヴィルが二人揃って図書館に飛び込んで来ていたのだった。
「お父様にヴィルまで!ど、どうしたの?何か事件でも?!」
私は飛び込んできた二人の元へ駆けつけた。何かよほどの事があったに違いない。
「あ、いや、昨日街で民に詰め寄られたってマリーから聞いて……」
「私はゼフからの報告で知った……何もされていないか?!」
ヴィルは私の体をペタペタ触りながら、無事を確かめているようだった。お父様はそんなヴィルを引き剥がし、抱きしめてくれる。
「何もなかったなら良かったよ~~民も教会の件で殺気立っているから気をつけないと……」
「ごめんなさい、こんな騒ぎになると思わなくて…………でもイザベルとゼフが守ってくれて心強かったわ」
「イザベル嬢が?それはアングレア伯爵にお礼を言わなければね」
私の話を聞いて、ようやくお父様から解放される。お父様とアングレア伯爵とは古い友人なんですものね。
「アングレア家の剣の腕は優秀だからな。ところで今日は図書室で勉強の日なのかい?君が望むなら王宮図書館に連れて行ったのに」
「ありがとう、ヴィル。ちょっと調べものをしたくて……急に思いついたから、今日は我が家の図書室で調べようかと」
「調べもの?」
う――ん……突然聖女について調べているって言ったら二人ともビックリしちゃうわよね。どうしようかしら。
「あ、そうそう、王太子妃教育でも習ったんだけど、この国の歴史を調べたくて!調べていると聖女の事とか色々興味深い事があったから止まらなくなっちゃって~」
変な言い方になってしまったかしら……私の話にヴィルはポカンとしている。きっと何の事か分からないわよね。でもお父様は明らかに動揺している感じで「聖女?……何か分かったかい?」と聞き返してきた。
「聖女はこの世界のどこに降臨するかは分からないみたいで、教会のような神聖な場所に現れる場合が多いみたいだけど……今までに現れたは三国、いずれも聖女は一人で同じ時代に2人現れた事はないみたい。ハミルトン王国にはまだ現れた事はないって書いてあるわ。聖女は皆、国を豊かにする力を有する」
「確か国が窮地に陥ると現れると言われているから、豊かな国には現れないのではないか?実際に我が国には今のところ必要はないし……」
「……………………」
お父様が聖女の話をしてから、ずっと考え込んでいらっしゃる。
どうしたのかしら……あまりに険しい表情をしていたので心配になって聞いてみた。
「お父様?どうかなさいまして?」
「……うん…………その聖女なんだけど、教会が召喚しようとしている、と言ったら君たちは驚くかい?」
「え?」
「いや、もはやあの集団が何をしていても驚きはない。人身売買までやっているくらいだからな。聖女を召喚して、我々にとって代わろうとしているのか?」
私はお父様の言葉よりもヴィルの言葉に驚いてしまった。聖女を人の力で召喚出来る事にも驚いたけど、その聖女の力を使って、王族に代わり教会が国を治めようと?そんな事可能なの?
「昨日、たまたま私と陛下の話を王妃殿下に聞かれて、その流れで王妃殿下とも話をする事になったんだけど……君達にも共有した方がいいと思うから、私の独断で伝える事にするよ」
「母上と?」
「王太子殿下にとっても重要な話になるかと」
「…………分かった」
ヴィルは少し思案した表情を見せたけど、すぐに覚悟を決めて頷く。王妃殿下と陛下とお父様がお話しするって、どんな状況だったのかしら。
私はひとまず図書室で話すような話でもなさそうだから、応接間に移動しようと提案した。
ソフィアも一緒に行くと言うので4人で移動し、応接間でお父様の話を聞いたのだった。