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第68話 水面下での動き



 「私が摂取した毒の成分が分かったのは嬉しいですが、王妃殿下が入れたのではないのですか?」


 「うん、私もてっきり王妃殿下が入れているものだと思っていたんだ。あまりにも我が公爵家が邪魔みたいだから……でもデラフィネについて、彼女は全く知らない様子で、陛下もおかしいと感じたらしくて……それに王妃殿下の口から聖女という言葉が出てきたり、かなり衝撃的だったよ」


 「……母上でなければ、誰が…………」



 そう、そこなのよね。私だけが王妃殿下のお茶会に行ったら具合が悪くなり、体にもその成分が入っていた。私だけに飲ませる、というのはとても難しい事だと思う。それに――――



 「少し話は脱線してしまうのだけど、昨日民に詰め寄られた時になぜか民衆が、決まってもいない司教と司祭の刑について知っていたのです。私ですら前日にお父様から聞いたばかりの情報でしたのに……議会での内容は守秘義務がありますわよね?誰かが意図的に流しているような感じがします。議会での話を知っているとなると…………」


 「情報を流しているのは議会に出席していた貴族の中の誰か、という事になるな。守秘義務を破り、オリビアに矛先が向くようにしている貴族がいるという事だ。もしそうならその貴族が一番に怪しくなってくる」



 私はヴィルの顔を見て頷く。


 多分教会と深いところで繋がっている貴族がいるはず。



 前はそれが王妃殿下かと思っていたのだけど、彼女は違ったのね。むしろ王家が排除されないように考えていたなんて……その為にヴィルと聖女との婚約が必要だと考えていたのなら、私の存在はさぞかし邪魔だったでしょう。


 噂を広げたりは許せないけど、彼女にも彼女なりの正義があったのかもしれない。



 「お父様、王妃殿下は聖女の召喚について研究を行っているところを見た事があるのですよね?完成される時は近いのですか?」


 「それについては私の前では話してくださらなかった。もしかしたら陛下には伝えているのかもしれないけど……それに聖女がどのような形で現れるのか、もしかしたら本当に小さい少女かもしれないし、聖女については情報が無さすぎる」


 「今の時点で出来る事はあまりないですわね…………何とか教会と深く繋がっている貴族を見つけ出したいところだけど」


 「まぁそれも大事だけど、ひとまず王妃殿下には今後のお茶会は自粛してもらうように伝えておいたよ」



 ウィンクしながら茶目っ気たっぷりのお父様の言葉に私は吹き出してしまった。暗くなった雰囲気を一気に変えてくれる。



 「ふふっそうですわね。それは大事な事ですわ」



 私としてもあのお茶会に行かなくていいというのは、とても心が軽くなった。王妃殿下にも正義があるとは言え、目の敵にされているのは変わらないし、本当に疲れてしまうから。



 「今のところデラフィネは大量に出回る事はない希少な植物だから、そこまでの混乱はないと思うよ。出来れば聖女の召喚を阻止したいところだけど…………教会内部に潜入する必要があるし、それは難しいだろうね」


 「分かりましたわ。じゃあ私、イザベルのところに行って鍛えてもらって来ます!」


 「な、何を言っているんだ、オリビア…………鍛えてって……」


 「私も自分の身は自分で守れるようになりたいのよ。イザベルが私に剣術を指南してくれるって言ってくれてるから……まぁ剣術が出来るかは分からないけど、鍛えてもらえたらなって。自分の出来る事をやりたいと思うの」


 「強いオリビア様、カッコいい」



 ソフィアが羨望の眼差しをしてくれるので、やる気が漲ってきたわ。カッコいい女性って素敵よね、イザベルも本当に素敵だし。



 「今我々に出来る事は限られているし、いいんじゃないかな~~イザベル嬢の兄であるリチャード君もいるだろうから、教えてもらうといいよ」


 「…………リチャード?そうか、アングレア家はリチャードの家か…………それならば私も一緒に行こう」


 「え?!ヴィルはお仕事が溜まっているだろうし、無理しなくてもいいのよ!」



 気軽に通おうと思っていたのにヴィルがいたら、皆緊張しちゃうじゃない。



 「いや、君にリチャードが手取り足取り指南というのは避けたい。私が教えてもいいし…………」



 その先はブツブツ言っていてよく聞き取れなかった。とにかく私とイザベルのお兄さんが関わるのが嫌、という事だけは伝わってくる。子供みたいね、本人は無自覚のようだけど。



 「…………分かったわ、じゃあ2人で向かいましょう。イザベルには事前に連絡しておくから」



 私がそう言うと、ヴィルの顔がぱぁぁと輝きだす。最近彼が犬のように見えてしまう時が度々ある。嬉しそうにそわそわしている姿に尻尾が見えるわね……



 ちょっぴり可愛くて、まぁいっか、と前向きに考える事にしたのだった。







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