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第70話 伯爵家での有意義な一日


 「遅れて申し訳ございません!」



 突然応接間の扉が開かれたと思ったらイザベルが勢いよく入ってきた。服装が乗馬服を着ていたので、どこかに行っていたのかしら?



 「遅い!すでに殿下もオリビア嬢もいらしているんだぞ。リチャードはまだか?」


 「すみません、兄上はもう来ると思います」



 「気にしないで、イザベル。私たちが早く着いてしまったのだから」


 「オリビア様……」



 ……可愛い。表情は変わらないのに頬を赤くして目がキュルキュルしているのよね。嬉しそうなのがすぐに漏れている表情が、可愛すぎるわ。


 そこへバタバタと足音が聞こえたかと思うと、またしても慌てて入ってきたのはヴィルよりも1回り大きい人物だった。オレンジがかったベージュの短い髪を中央で立てて、胸板は熱く、イザベルと同じく乗馬用の服装をしていた。



 「遅くなって申し訳ありません!はっ、殿下もいらしていたのですね!」


 「リチャード、私が来たら何か不都合でも?」


 「そんな事はありえません、お会い出来て嬉しいです!」



 ヴィルに対してニコニコしながら嬉しそうに話しているのは、イザベルのお兄さんね。なんだか主を熱烈に歓迎しているかのような雰囲気だわ。私に対するイザベルに似ている。


 ヴィルも「いつも暑苦しいな」とか言いながら嬉しそうじゃない。



 「申し訳ございません、このような一家で。我がアングレア家は騎士の血が濃いものですから、忠誠を誓う主に対して熱量が上がってしまうのです」


 「はぁ……そうなんですね」



 夫人が説明してくれて、少し納得する。確かにイザベルもそういうところが……ってイザベルの忠誠を誓う主って、私の事なのかしら?


 チラッとイザベルの方に目線を移すと、照れたように少し微笑んだ気がした。



 ……まぁ可愛いからいいという事にしておきましょう。



 「皆揃ったようなので、そろそろ本題に入ろう。今日は殿下もいらっしゃる事だし、修練場では軽く汗を流すだけにしておいて、オリビア嬢には乗馬の練習でもと思うのですが……いかがですかな?」



 「乗馬……素敵ですわね!」



 乗馬ってやってみたかったのよ~淑女の嗜みみたいなイメージがあるわ。この小説の世界では女性の乗馬があまりメジャーではない感じがして、半分諦めていた。



 「オリビアが乗りこなせるようになったら、遠乗りも楽しそうだな」


 「遠乗り、してみたいわ!」


 「頑張るしかないな」


 「そうね」



 乗馬と聞いて俄然やる気が出てきた。馬を操って華麗に乗馬する自分の姿を思い浮かべる……私のやる気満々な姿を見て、さっそく修練場に行く事になった。




 そこでは様々な鍛錬がなされていて、剣術だけではなく、弓術、乗馬、槍術、柔術など、色々だった。



 その中でも手始めに柔術と乗馬を今日はやる事になる。柔術はまずは受け身から。これが出来ないと先には進めないらしくて、受け身だけで1時間くらいみっちり叩き込まれた。


 その間、ヴィルとリチャード様は剣術の手合わせをしていて、まるで剣舞を見ているかのようで美しかった。やっぱりヴィルも凄腕なのね。



 リチャード様もお父様が褒めるだけあって、とてもお強い……体が大きいのでヴィルが剣で受け止めても力で押されている。それでいて速さも持ち合わせているなんて、最強なんじゃないかしら。



 二人とも汗もあまり出ていないし、どうやって鍛錬したらこんな凄腕になるんだろう。そんな事をぼんやり考えているとイザベルから声がかかり、乗馬のレッスンに移行した。




 そして私は乗馬というものを甘く見ていたらしい。全然上手く乗りこなせない!



 「うわっ…………わわ……」



 どうしても一人だと上半身を起こす事が出来なくて、馬にしがみつくような体勢になってしまう……ごめんなさい、馬さん。


 これは、かなり情けない状況なのでは……イザベルは手綱を持ってくれているので、自力でなんとか頑張ろうと思うのだけど、恐怖心が先だって起き上がれない。



 そこへヴィルがやってきて、私の後ろに乗ってくれた。



 「腰を立てるように使うんだ。そして馬の動きに体を委ねて…………逆らわないように……力を抜いて。力が入っていると、馬にも伝わってしまうから」


 「……分かった」



 何とか体を起こし、馬の動きに合わせてゆらゆら……腰、へその辺りの体幹を使うのかしら。



 「……出来てる?」



 「ああ、その調子だ」


 「オリビア様、手綱を持ってみてください」



 ヴィルも後ろにいるし大丈夫だと判断したイザベルは、私に手綱を渡してきたのでそれを受け取り、自分で指示を出してみる。人に慣れているのか、私の姿勢だけで動いてくれるのね……少し前傾をすると動いてくれて、修練場を一周したところで手綱を引くとすぐに止まってくれた。



 「…………やったわ……私、乗れたのよね?」


 「ああ、頑張ったな」



 嬉しくて勢いよく振り向いた私にヴィルは、頭をポンッとして褒めてくれた。その時の笑顔が眩しいったら……さすが王子様ね。私は何故か直視出来ずに目線を逸らしてしまう。



 「オリビア様、さすがです!すぐに乗れるようになられて素晴らしいです!」


 「あ、ありがとう、イザベル」



 イザベルが物凄く褒めてくれるから、ますます顔に熱が集まってしまった。


 伯爵邸に来る前に少し走っていたのも良かった気がするわ……やっぱりコツコツ自分の出来る事をしていくのは大事ね。


 そこへリチャード様がやってきて、今日はもうこの辺で終わりにして、私とヴィルを夕食に誘ってくれたのだった。




 その日の伯爵家での夕食には閣下と夫人もいて、久しぶりにわいわいと賑やかな夕食になる。私の乗馬の時の姿勢をヴィルに弄られたりもしたけど、とても楽しい夕食になった。




 そして夕食後、皆でお茶を飲みながら寛いでいると、伯爵から教会の処分についての話を聞く事になるのだった。




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