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第73話 贈られてきたドレス


 アングレア伯爵家から帰った翌日、王都の民には教会への納税義務撤廃と市場税減税が大々的に公布される。


 それによって民は喜び、教会や貴族は沈黙した。



 プライドもあるのでしょうし、納税出来ないとは言えないものね。


 内心はとても腹立たしい貴族が多々いるでしょうけど。


 お父様はというと――――



 「いやぁ、こんなに思い切った政策をされて、凄く清々しいね」



 朝食後に隣に座ってお茶を飲みながら話しているお父様の声色が、ご機嫌なのが伝わってくる。私の膝に座っているソフィアもお父様のご機嫌に驚いている様子だった。



 「とてもご機嫌ですわね、お父様……」


 「教会の肩を持ってばかりいる貴族派にとって、皮肉とも取れるような処分だからね。でもこのまま大人しくしているとは思えないけど」



 お父様の瞳がほんの少しほの暗くなる。


 そうよね、今回のは教会の処分であって、貴族派からしたらとばっちりなところもあるし……教会と懇意にしていた貴族にとっても痛いのだから。



 我々は領地経営も順調だから、少し納税額が上がってもどうと言う事はないのだけど。



 「今回はオリビアと殿下の件があったからこそ、処分って事にして少し強引に政策を決める事が出来たんだ。とても助かったよ」


 「そんな事……」


 「うん、だからこそ気を付けてほしい。殿下や私もいるし、イザベル嬢と一緒にいるとか、とにかくしばらくは単独行動はしないように、ね」



 お父様が私の両手を握ってお願いをしてくる。私も領地にいる時とは勝手が違うのだから、気を付けて行動しなきゃ。



 「はい、重々承知していますわ」


 「オリビア様……」



 ソフィアが不安そうにこちらを振り向くので、心配ないと笑顔で伝える。



 「大丈夫よ!私には皆がいるし、自分の事は自分で守れるように、今鍛えているところだから。ソフィアも一緒に走る?」


 「うん!」



 こういう時は違う話題にした方がいいわね。すっかり笑顔になってくれた。お父様もうんうんと頷いてくれたので、今日も少し走ったりしてトレーニングをしておきますか。



 ~・~・~・~




 それから数日経って、街は一層建国祭への準備で盛り上がっているようで、公爵邸の侍女たちが色めき立っている。


 商店街では税の引き下げに伴ってセールのような事も行われていて、綺麗な飾り付けもされていたり、まだ建国祭じゃないのにお祭り騒ぎのようだと話しているのが聞こえてきた。



 陛下の政策が効いているのか、民は大いに喜んで賑わっているようね。



 家族連れも多いなんて、子供たちにとっても良い街になってきているようで嬉しいわ。


 私の胸も徐々にワクワクしていた……警戒しないといけないのは分かっているのだけど、初めてのお祭りだし、ワクワクの方が勝ってしまっている。



 そんなところに夕方になると、ヴィルから建国祭の祝賀パーティー用のドレスが届いた。



 領地で私の為にドレスを贈らせてほしいとお願いされていたのをすっかり忘れていたという……どんなドレスなのかしら。



 運ばれてきたドレスはすぐに私の部屋の隣に運ばれ、侍女たちの手によって飾られていた。ひっきりなしに人が出入りしていく度に歓声が聞こえてくるので、気になってしまうじゃない。



 「お嬢様はまだ立ち入り禁止です!」


 「えぇ、どうして?」


 「届いたのですけど、色々と整えている最中なのです!丈の長さやウェスト部分など、色々と確認していますので、もう少しお待ちください」



 という事でマリーに少しお預けを食らってしまったのだった。


 待つ事1時間弱…………ようやく呼ばれてソフィアと一緒に隣の部屋に足を踏み入れると、妖精のようなドレスが飾ってあった。



 「お嬢様~~サイズも全て完璧です!色々確認しましたが、寸分の狂いもありません!」


 「へぇー…………素晴らしいわね……」


 「王女様みたい!」



 あまりの美しさにマリーに言われた事など頭からすっ飛んでいった。ソフィアも感動してドレスの周りをくるくる回っている。


 これを私が着るの?


 着こなせるのかも不安になるほどのドレス――――スカート部分はアイスブルーからラベンダーピンクのグラデーション……アイスブルーはヴィルの瞳の色でラベンダーピンクは私の髪色だわ。


 大小沢山の薔薇の花のモチーフが散りばめられていて、裾にも金糸と銀糸を使ったおびただしい刺繍とビジューが施されている。形はマーメイド型に近いけど、腰の部分から裾に向かって広がっているのでゴージャス……



 肩口はオフショルダーに腕はロングスリーブとは……レースのロングスリーブだから少し大人っぽいデザインなのね。オフショルダーからふんわりとシースルーのマントのようなオーバードレスがついている。


 なんだか王女様っていうより女王様みたい。


 マントの縁にも銀糸で薔薇の刺繍が施されていて、本当に美しい。



 これってヴィルがデザインしたのかしら。デザイナーはいるわよね……素晴らしいセンスを感じる。


 このデザイナーに今度ドレスを作ってもらいたいくらい。



 「お嬢様!一緒に着けるジュエリーなども全て届いております~~ダイヤの中央にブラックダイヤが輝いていて美しいです!感動です!」



 ブラックダイヤモンドは確か……強さとか不屈とか、不滅の愛とかそんな意味があったような……多分自身の髪色に合わせて入れたのよね。



 「これだけの物を用意してくれたのだから、お礼を伝えなくてはいけないわね」


 「当日は私がしっかりと着付け致しますので!髪の毛のセットもお任せください!」


 「ふふっマリーったら、張り切っているわね」



 自分よりも俄然張り切っているマリーを見ると、このドレスを着る緊張感が和らいだ。



 「それよりもお嬢様は建国祭の祝賀パーティーに向けて、お体に磨きをかけてくださいね。イザベル様のところで鍛えてもらってる場合ではないのです!爪先までお手入れしなくては!」


 「え……やっぱりそういうものなの?」


 「そうです!」



 ひえ~~女子って大変!



 そうは言われても私がじっとしているわけはなく……さっそく翌日にはイザベルのところにせっせと通っていた。


 帰ってきた時にソフィアから、マリーがいじけていたと聞いて、私はひたすら平謝りしたのだった。




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