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第74話 表と裏、光と影


 イザベルの家に行った翌日から、マリーの言う通りに体の手入れを真剣にし始めた。


 朝だけはイザベルの家に行かせてもらって乗馬などで体を動かし、帰ってからはマッサージやらオイルを塗りながら肌の手入れに爪先まで磨かれ、夜はお湯に浸かった後は髪の手入れ、また寝る前にマッサージ……



 エステに通っているかのようなボディメンテナンス具合だわ。



 建国祭は年に一度の大きなお祭りだし、気合が入るのは分かるのだけど……あと二週間くらい、こんな生活が続くのね。


 マリーが張り切っているので、期待を裏切らないようにしなくちゃ。



 そんなこんなで今朝もイザベルの家にお邪魔していたのだけど、今日は気晴らしに王都の街に出て、一緒に街の様子を見てみる事になった。


 簡易な動きやすい服装で来たので、民の中にうまく交ざりながら市場をぶらぶらと歩いてみる。



 「以前来た時とは別の世界のようになっているわね!飾り付けもされているし、まだ始まっていないのにお祭りの最中のような賑わいだわ」


 「凄いですね。街の人々の表情も明るいですし、いつもはここまでではないのですが……」


 「……やっぱり陛下の政策が効いているのかしら。民がこんなに楽しそうにしている姿が見られるなんて、ますます建国祭が楽しみだわ」



 商店街では色々な物が売られていて、異国から流通されてきたものも沢山売られていた。


 侍女たちが話していた通りね。安売りしているお店が沢山あってお客さんも入っているし、買い物客が多いわね…………流通も盛んになっているみたいだし、ここまで顕著に影響が出るものかと驚いてしまう。


 私たち貴族が持つ財を民に還元するような仕組みが出来れば、もっと国は栄えるんじゃないかしら。



 贅を無駄に消費している貴族も沢山いるし……



 「陛下も凄いですが、もとはと言えばオリビア様と殿下が教会の悪事を暴いたから出来た政策です。なので私はオリビア様を尊敬していますし、全力でお守りしたいのです」


 「もう……大げさよ。でもイザベルがそばにいてくれるのは、とても心強いし嬉しいわ。建国祭での祝賀パーティーも一緒に過ごせるのを楽しみにしているの」


 「オリビア様…………私も楽しみです!オリビア様のドレス姿を目に焼き付けます!」


 「あ、ありがとう」



 イザベルは、私の両手を握りながら道のド真ん中で熱弁してくれるのだった。


 普段はクールなのに熱烈な思いをぶつけてくれる時のイザベルは、本当に可愛いのよね。純粋な目に心が温かくなる。


 そんな彼女にはまだ婚約者の存在はいないらしい。イザベルは真っすぐな人だから、政略結婚はする気がないと言っていた。



 伯爵家の後継としてリチャード様もいるから、急ぐ必要はないのかもしれないわね……でも年ごろだし素敵な女性だから、良縁に恵まれてほしいわ。


 イザベルのこういった純粋な部分を可愛いと甘やかしてくれる人、どこかにいないかしら。なんて親戚のおばさんのような気持ちが出てきてしまう。



 そんな事を考えている私の目に1つの置物が目に入る……ガラス細工が売っているお店の店頭に飾られていた、白い一角獣の置物…………これは、ユニコーン?



 古の聖獣だけどこの世界に置物として作られて売られているなんて、前世との共通点が見つかった気がして、嬉しくなって購入してしまった。



 「そうだ、これをドレスのお礼にしようかしら」


 「殿下からドレスを賜ったのですね。お礼の贈り物とは、お喜びになりそうです!オリビア様からでしたら、何でも喜んでくださるでしょうけど」



 私はこの小さなユニコーンを自分用とヴィルに渡す用の2つ購入し、この日はイザベルに送ってもらって帰路に着いた。




 ~・~・~・~





 ――――聖ジェノヴァ教会・地下の一室――――




 「この愚か者め!そなた等がしくじったせいで、大司教様のお手を煩わせる事になったのだぞ……その手で責任を取るのだ!」


 「「申し訳ございません!」」



 ”元”ではあるが、ヤコブ司祭とヴェットーリ司教は聖ジェノヴァ教会の地下の一室で聖職者達に囲まれ、激しく詰問される中、土下座をしていた。


 「民からの税収が見込めなくなり、人身売買についても厳しく監視されてしまっている。我々聖ジェノヴァ教会が生き残れるかの瀬戸際だ…………由々しき事態となった。おのれアレクシオス国王め……」



 一人の司教が憎々しげに口を開いているところに、美しい青年のような聖職者がやってくる。



 「皆の者、落ち着くがよい。神はまだ我らをお見捨てにはなられておられないようだ……」


 「大司教様!」



 その聖職者はフェオドラード大司教その人。皆がひれ伏し、跪いて首を垂れる。



 「喜べ、もう少しで聖女様にお目にかかれる事になるだろう」


 「……それでは………………」



 フェオドラードは天を仰ぎ、まだ見ぬ聖女へと思いを馳せる。



 「……ようやくだ、ようやく完成しようとしている。笑っていられるのも今の内よ、アレクシオス」



 「おぉぉ…………」という歓声が地下の一室に響き渡る……そんな空気を微塵も感じさせず、粛々と建国祭の準備は進み、開幕しようとしていた。




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