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第75話 祝賀パーティーへ


 イザベルとの街でブラブラした日から10日ほど経って、いよいよ建国祭当日になった。


 それまでの間はイザベルの家と我が家の往復で、主にトレーニングと体の手入れの日々だった。そのかいあって頭の先から足の爪先までしっかりと磨かれて、これが自分なのか……と感動してしまうかのような仕上がりにマリーの鼻息は荒くなる。



 「お嬢様~~いよいよ今日から建国祭ですね!今夜の祝賀パーティーまで、まだお時間もある事ですし、朝のマッサージを致しましょう!」


 「え、今日もするの?!」


 「もちろんですよ~~常に最善を尽くす事が大事ですので!」


 「……それはそう、だけど」



 なんだか丸め込まれたような気がしなくもない……。



 「ソフィアもオリビア様のマッサージ見てるね!」


 「じゃあソフィアの好きな本を読んで聞かせてくれる?」


 「うん!」



 こうしてソフィアの音読を聞きながらマッサージしてもらって、夜の祝賀パーティーの準備は進んでいく。


 お父様は正装をして建国祭の開幕セレモニーに出席するので、朝からバタバタと用意して出かけて行った。私は娘なので出席する必要はなく、夜の祝賀パーティーに出ればいいのよね。


 もちろんハミルトン王国の王侯貴族たちは皆夫婦で出席していて、その令息、令嬢は夜の祝賀パーティーのみ、といった形だ。



 ヴィルは王太子殿下なのでセレモニーに出席した後、私を迎えて来てくれる。


 なんだか申し訳ないわね……お父様達はそのままパーティーに出席できるのに、私をエスコートする為にわざわざ我が家に来させてしまうなんて。



 迎えに来てくれた時に先日購入したユニコーンの置物をあげよう。小さいから邪魔にはならない、はず。



 セレモニーにはハミルトン王国が招待した各国の王族が出席して、そのまま祝賀パーティーにも出席する王族もいると聞いたわ。


 ヴィルと挨拶回りをするから、その人達にも挨拶しなきゃいけないわね。



 緊張する……そんな事を考えている間にマリーが髪をセットしてくれて、髪にも装飾をしてくれていた。



 「お嬢様の美しいピンクラベンダーの髪の素晴らしさを際立たせる為に、全部はアップしないでおきますね!せっかくつやつやに手入れしましたので!残した髪は巻いて……アップした髪には、この薔薇のティアラのような宝飾品を着けましょう。美しいです~~」


 「オリビア様、綺麗!」


 「ふふっありがとう。マリーもありがとう」


 「まだ髪の毛だけですよ!これからお化粧とドレスです!」



 先は長いわね……私が化粧まで終わったところで日本時間だと16時くらいを回っていたと思う。そのくらいの時間にヴィルが迎えに来てくれたと知らせが入る。


 応接間で待っていてもらって、一時間くらい経ってようやく準備が整った。



 ドレスは本当に私にフィットしていて、どこで採寸を測ったのかしらって思うくらい……素晴らしい着心地だった。


 裾が長いので少し歩きにくくはあるけど、首に着けているジュエリーも全て用意してくれて、これは感謝を述べなくてはいけないわね。



 『お嬢様、行ってらっしゃいませ』



 私室で侍女たちに見送られながら階段まで歩いていくと、下のエントランスホールにはヴィルが待っていてくれた。


 いつものヴィルも王子様らしい服装なのだけど、今日は正装をしている事もあって、一段と王族って感じがする。髪の毛もしっかりとまとめられていて、いつもは無造作に下ろしている前髪も全部アップにされていた。



 襟付きのフロックコートに首に巻いたクラヴァットには綺麗なレースが施されている。袖のカフには金糸や銀糸などで織り柄が施されていて、袖の部分だけ薄いピンクラベンダー色だった……これは私の髪色を入れた、という事なのかしら。何だか気恥ずかしいような……。




 「ごめんなさい、随分待たせてしまって」



 私の姿が見えると目を見開いた後、階段の中段まで駆け寄ってくれて、下から手を取ってくれる。王子様の所作は完璧なのね。



 「待ち時間も楽しんでいたから、気にする事はないよ。とても綺麗だ……女神が降臨したかと思ったよ」


 「あなたの正装姿もとても素敵ね」


 「嬉しいよ。君をエスコートするのに相応しい装いでなければと思ってね。こんな素敵な女性を私がエスコートしても?」



 そう言って私の手の甲に口づけながらおどける。上目遣いにウィンクする姿にふき出してしまう。



 「ふふっ、何を今さら……あなたがエスコートしてくれなかったら出席出来ないわ。よろしくお願いいたします」


 「光栄だ。さぁ、行こう」



 我が家を出ると彼が乗ってきたであろう馬車が停まっていた。


 先日イザベルの家に行く時に乗ってきた馬車に似てはいたけど、今日の馬車の方がより一層煌びやかでグレードアップしている。昼間だったら乗るのはご遠慮していたかもしれない……。



 「今日はこの馬車に乗ってくれるかい?」



 「……そうね、今日は乗って行きましょう」



 私の言葉にふき出したヴィルにエスコートされて、馬車に乗り込む。


 私たち2人を乗せた王族専用の美しい馬車は、祝賀パーティーの会場に向けてゆっくりと動き始めた……すっかり日が落ちて王都の街のネオンが煌めき、その奥に見える王宮の美しさに息を飲む。



 この世界に来て、初めての夜会だわ。



 今日はお父様もいるし、イザベル達もいる……緊張と不安と期待が綯い交ぜになり、馬車の中でも私の気持ちは妙に高ぶっていた。




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