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第76話 ドレスのお礼と挨拶回り


 馬車の中では、隣同士で座る事がすっかり定着している私たちだった。



 「わざわざ迎えに来てもらっちゃって、申し訳ないわね。朝からセレモニーに出席して、疲れたんじゃない?」


 「セレモニーに出席するのは務めだから問題ないよ。迎えに来るのも私が来たかったからいいんだ。むしろ楽しみで仕方なかった。私の贈ったドレス姿のオリビアを早く見たくて……よく似合っている」


 「あ、ありがとう。そうだ、これを渡そうと思って……」



 熱のこもった視線を送られて、急に気恥ずかしくなってしまい、焦って話題を変えてみる。腰にボルサという巾着を着けていたのだけど、そこに市場で購入した小さなユニコーンのガラス細工の置物を忍ばせていたので、ヴィルに渡した。



 「ドレスのお礼。こんなに素敵なドレスを用意してくれるなんて、お礼をしなければと思ったの。イザベルと市場を歩いていたらこれを見つけてすっかり気に入ってしまって、あなたにも購入したのよ」


 「私にも?」


 「あんまり可愛いから自分用にも買ってしまったの。おそろいになるんだけど……嫌だった?」


 「…………いや、嬉し過ぎるくらいだし、すごく感激して言葉にならなかっただけだよ。執務室の机に飾って、毎日眺めて今日を思い出そう」



 こういうのって女子に贈る物って感じがするのだけど、受け取った本人はユニコーンをうっとりした表情で眺めている。どうやら喜んでもらえたようね、良かった。



 「大げさなんだから。ユニコーンは伝説の聖獣なんですって。力強くて、足も速くて……イザベルの修練場でのあなたを思い出したわ」


 「ユニコーンは無垢な乙女の誘惑に弱いと書物で読んだ事がある。まさに君に想いを寄せる私というわけだな」


 「…………その情報は知らなかったかな」



 ははっと笑うヴィルの横で、恥ずかしさで顔を赤くする私……そんな意味で買ったわけじゃないんだけどな。自分の事を無垢な乙女っていうのも気恥ずかしいし、誘惑したわけでもない。



 ヴィルは、馬車の中で私から贈られたユニコーンの小さなガラス細工を手に乗せ、王宮に着くまでずっと眺めていた。



 こんなに喜んでもらえるなんて贈ったかいがあるわね。


 そんなやり取りをしている内にいつの間にか馬車は、王宮の前まで来ていたのだった。




 ~・~・~・~




 馬車が王宮に着いたのでヴィルにエスコートされながらおりると、すぐにお父様が駆け寄ってきてくれた。



 「オリビア!無事に着いて何よりだよ、ドレス姿もとっても素敵だね」


 「ありがとうございます。ドレスが素晴らしいのと、マリーたちが頑張ってくれたおかげですわ」


 「殿下もドレスとエスコート、ありがとうございます。セレモニーに出席して、各国の王族と交流してからすぐに向かったので、大変だったのでは?」



 え、そうなの?各国の王族と交流してたなんて、知らなかった。それって全然休憩出来てないのでは……。



 「大変なんて事はないから大丈夫だ。むしろ迎えに行きたくて、各国との交流を早めに切り上げたのだから」


 「……そんな事出来るのね」



 私たちが王宮の入口付近で話していると、遠くからアングレア伯爵家の方々が挨拶に来てくれた。



 「オリビア様、ドレス姿素敵です!」


 「ふふっ、ありがとうイザベル。イザベルも素敵よ!いつものイザベルもカッコ良くて好きだけど、ドレス姿も可愛いわ。髪を下ろしているのね」



 イザベルはいつもブラッドオレンジの髪を結い上げてシャキッとしているけど、今日は下ろしていて全然印象が違う。なんだか凄く淑女な感じがして、私の方がドキドキしてしまうわね。



 「はい、さすがに今日は貴族女性の服装をしなければならないと母上に注意されまして……でも腰には見えないように着けているんです、ほら」



 そう言ってさり気なく腰に着けているナイフのような物を見せてくれた。やっぱりイザベルはイザベルなのね。



 「これでオリビア様を不埒な輩からお守り出来ます!」


 「ふふっありがとう」



 「さぁ、皆でホールに参りましょう」



 伯爵夫人が声をかけてくださったので、皆で祝賀パーティーの行われるホールに移動した。



 ホールに移動するまでの廊下でも沢山の貴族がお話しながら交流している。サロンも人でいっぱいだわ。


 お父様も挨拶しているわね……それにしてもお父様って人気があるのね!さっきからひっきりなしに声をかけられているわ。男性だけではなくて女性からも声をかけられていて、やっぱり独り身だし素敵だし、女性が放っておかないんだわ。



 私が娘に転生していなかったら、ぜひ立候補したいくらいだもの。



 普段はエスコートする女性がいないからパーティーには全く行かないものね……こういう時を狙ってお近づきになろうとする女性が後を絶たない。


 サラッとかわしているわ……地位も見た目も完璧なのに今もお母様を一途に想い続けて再婚の話が全くないのだから、お父様って本当に凄い。




 ようやくパーティーホールにたどり着くと、突然ホールにいる人達の視線が私たちの方に一斉に集まる。


 クラレンス公爵家とアングレア伯爵家が一緒に入ってきたから?物凄い見られているわ……そしてそこへホールの二階席に陛下と王妃殿下が入ってきた。



 あの方が国王陛下…………漆黒の髪はヴィルよりながくてサラサラね。垂れ目で朗らかそうな、本当に虫も殺せなさそうな方だわ。虫が近寄ってきたら泣いてしまいそうなくらい――――


 それにしてもヴィルは、髪の毛とか瞳の色は陛下だけど、どちらかと言えば王妃殿下の方に似ている感じがする。本人に言ったら嫌がりそうだから、言わないでおこう。



 「皆の者、よく集まってくれた。国が独立した記念すべき日だ、堅苦しい挨拶は抜きにして今宵は存分に楽しんでほしい」



 陛下が皆に声をかけて右手をあげると、すぐに音楽が流れだす。陛下の声に耳を傾ける為に止まっていた人々が動きだし、ホール内はまた音楽と人々の話し声で溢れ始めたのだった。

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