公爵邸に帰ってきてその時の状況を事細かにお父様に説明すると、その日から3日は外出禁止になってしまった。
腕の赤みも消えないし、少し痛みもあったので仕方ないと言えばそうなんだけど…………せっかくのお祭りなのに、とマリーに泣きついていた。
「お嬢様…………大変な目に遭われましたね。旦那様が心配するのも無理もないかと……」
「…………うぅ……被害に遭ったのは私なのに外出まで禁止されてしまうなんて……」
「お嬢様を連れて帰ってきた殿下も大層心配されていましたし、お嬢様が今出歩かれると旦那様も殿下も心配で動けなくなります……ここは皆の為に大人しくなさっていた方が」
「……………………」
それを言われてしまうと、諦めるしかなくなってしまう。
帰りの馬車でもヴィルがすっごく心配して、そばにいられなかった自分の事を責め始めるし、大変だった。
中庭に来るのが遅れた理由は、私が出て行った後、ブランカ嬢やその周りの令嬢が彼に駆け寄って泣いたり騒ぎ出したので、パーティー会場が騒然となってしまっていたのだと言う。
そこに陛下がやってきたりして、かなりの騒ぎになったらしい……修羅場ってやつよね。
静めようとしている時に叫び声が聞こえて慌てて駆けつけた、と説明された。
もとはと言えば私が蒔いた種だから仕方ない。
何だか一連の出来事を思い出すと自業自得な感じがして、三日間は大人しくしていようと考え直したのだった。
~・~・~・~
建国祭四日目にして、ようやく謹慎が明けた……!
腕の赤みはすっかり消え、手首も痛くはない。これでお出かけもばっちりだわ!
今日は謹慎が明けるのを待っていたかのように、イザベルが朝から公爵邸に迎えに来てくれる。一緒に街を回る約束をしていたものね。
楽しみだわ~~ルンルン気分で服を選び、麦わら帽子も用意して出かける準備は万端だった。
そこへイザベルが到着したとの知らせが届く。
嬉しさのあまり勢いよくエントランスから出て行くと、馬車の前にズラリと人が並んでいた。
「あら?随分沢山人がいるわね。ニコライ様やリチャード様にヴィルも、皆一緒に出掛けるの?」
「すみません、オリビア様。兄が今日の事を殿下に話したら皆が来てしまいまして……」
なるほど……きっとヴィルは心配して来てくれたのでしょうね。王太子だとバレないようにブラウンの髪のウィッグをかぶってきている。変装までしっかり決め込んでいるとは……
今日はソフィアも連れて行きたかったんだけど、明日にしようかしら。
「分かったわ、じゃあ皆で回りましょう」
という訳で、皆で馬車に乗って行く事になった。ちょっと人数が多くて馬車の中が窮屈だったけど、皆でわいわいと街を回るのは思いの外楽しくて、あっという間に時間が過ぎていく。
前回にイザベルと街に来た時よりも更に賑わっていて、人がすれ違えないくらいの人混みだった。
ソフィアを連れてきたら、はぐれてしまうかしら……。
とあるアンティークの物が売っているお店に立ち寄ると、ヴィルが私に1つのアンティークの置物を買って持ってきた。
「ユニコーンのお返しだ」
「え?でもあれはドレスのお礼だから……」
「あの時早く行ってあげられなかったから、お詫びも兼ねてもらってほしい」
あの時っていうのはパーティーでの一件の事ね……気に病む事はないのに。
アンティークはよくよく見るとオルゴールのように蓋を開けると音楽が鳴る仕組みになっていた。これは素敵だわ……
「ありがとう、大事にする」
私は前世でもオルゴールが大好きだった。これを見ていると前世での記憶を思い出して懐かしい気持ちにしてくれる。
私がそんな事を考えて蓋を開けたり閉めたりして喜んでいると、誰にも気付かれないようにそっとおでこにキスをしていったのだった。
…………さり気なさすぎません?
「オリビア様、お顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫よ!人口密度が高くて酔ったのかも……」
それは大変です、とイザベルは私を店外へ連れて行ってくれた。本当の理由はさすがに言えないわね。
外に出るとちょうどパレードの時間だったらしくて、物凄い人々が沿道沿いに集まっていた。
綺麗な衣装を着た人々がパフォーマンスをしたり、着飾られた象の上に乗って、ねり歩いたり…………紙吹雪が沢山舞ってとても綺麗だった。
翌日は女子会と称して、ソフィアとマリーとイザベルと私の四人でお出かけし、カフェでお茶をしたり、しっかりお祭りを堪能した。
心配性のお父様とヴィルがゼフの同行が必須という条件付きだったので、女子会にこっそりゼフがついて来るという……護衛なんだけどちょっとしたストーカーに見られそうなシチュエーションよね。
ゼフも気まずく感じたりしないのかしら。まぁ任務だから割り切っているでしょうけど。
6日目は少しお休みして、最終日の夜は花火があるので、また街に行ったメンバーで集まる事に――――とは言っても王宮なのだけど。
街で見るのもいいけど、王宮のバルコニーならよく見えるし安全だからとヴィルが話を通してくれて、そこに集まる事になった。
バルコニーにはテーブルも用意されていて、お茶をしながら楽しめるという。
ソフィアにも見せたくて、一緒に馬車に乗って王宮に連れて行くと、物凄く緊張して固まっていたのにあまりの煌びやかさに、さらに固まってしまったのだった。
すっかり日が落ちてから花火が上がり始める。
「きれーい!」
「ふふっ本当ね。ソフィアは花火は初めて?」
「うん!」
私の膝に乗りながら、顔を輝かせて花火を見ているソフィアが可愛いわ。初めての花火が王宮でだなんて素敵。そこへもう一人の小さな男の子の声が響き渡る。
「兄上――!」
「フェリクス!」
第二王子のフェリクス殿下がヴィルのところに駆け寄ってきたのだった。フェリクス殿下は御年6歳くらいのはず。
「兄上と一緒に花火が見たくて、来てしまいました!僕もご一緒させてください」
「仕方ないやつだな。母上はいいと言ったのか?」
「こーんな顔で”好きにするがよい”って言ってました」
思わずふき出してしまう。すっごく似てるわ!フェリクス殿下は年の近いソフィアを見つけると、ニッコリ笑って微笑みかけた。
これは人たらしな感じがするわね……
花火は止まる事なくどんどん打ち上げられ、終盤になるにつれて勢いを増してくる。
終盤になる頃には子供たちは花火にも飽きてきたのか、フェリクス殿下とソフィアが一緒に遊んだりしていた。子供ってやっぱりそうなるのよね。
長いようで短い建国祭が終わっていく――――
皆で見られた花火が素敵すぎて、その日は帰ってからも胸がいっぱいでなかなか寝付けなかった。
でも隣からソフィアの寝息が聞こえてきて、一定のリズムを刻むそれを聞いていると、いつの間にか私もうとうとし始め――――
その日は久しぶりに前世での子供たちが夢に出てきた。
一緒にお祭りの屋台で買ったたこ焼きや焼きそばを頬張り、綿あめを買ったりくじ引きしたり、お祭りでの幸せな思い出の夢を見る事が出来たのだった。