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第20話 門を追い出す?そんなこと、絶対にさせない!

九条直樹は静かな表情で、九条莉子が毅然と反論する姿を見つめていた。口元にわずかな笑みが浮かぶ。

彼女が損をしなければ、それでいい。

早坂家や、あの騒がしい連中など、自分が手を下すまでもない。


九条莉子はシャワーを浴びたばかりで、スマートフォンの画面には見覚えのない着信がずらりと並んでいる。

かけ直すと、すぐに早坂国雄の怒鳴り声が響いた。

「このろくでなしめ!清佳に何かあったら、絶対に許さないからな!」

隣では早坂雅子が、いかにも優しげな声で諭すように言った。

「莉子、家に帰ってきなさい。お姉ちゃんもお父さんも、全部あなたのためなのよ。どうしてわかってくれないのかしら……」とため息をつき、「今週末は戻ってきて。一家で食事しましょう。あなたのお祖父様が残してくれたものも、そろそろ渡す時だから。」


穏やかな口調の裏に、あからさまな脅しが隠されているのを莉子は敏感に察知した。

「そんなに清佳が心配なら、すぐに病院に連れて行けば?本当に私のせいで体調を崩したのか、それとも演技なのか、調べてもらったら?私にそんな力があるなら私も知らなかったわ。」冷ややかな声に皮肉が混じる。


莉子の容赦ない返答に、雅子はしばらく言葉が出なかった。

――この莉子、どうしてこんなに手強くなったのかしら?


「何を言ってるんだ!家に帰ってこなくていい!二度と早坂家の敷居をまたぐな!うちにはもうお前のような娘はいない!」国雄は怒りにまかせて叫んだ。

すぐに雅子が、今度は泣き落としの口調に変わる。

「莉子、お願いだから帰ってきて。お父さんもこんなに心配してるのよ……」

その言葉が終わる前に、莉子は電話を切った。


もちろん、彼女は行くつもりだった。行かなければ、過去の苦しみをどうやって清算できるだろうか。


――早坂家。


国雄は胸を上下させて激怒し、高価な茶道具をいくつも叩き壊した。

雅子は隣で、手入れの行き届いた和服姿で、心配そうに眉をひそめる。

「国雄さん、あまり怒らないで。きっと、あの子は四年前のことをまだ恨んでいるのよ……あの時は仕方がなかったじゃない。」

巧みに場を取り持ちながら、慈母の顔で続ける。

「家族なんだから、優しく接すればきっと元に戻るわ。」


声を低めて囁く。

「でもね、祖父が残した株はまだ彼女の名義なの。このまま関係がこじれたら、二度と取り戻せなくなるかもしれないわ。」


国雄はようやく怒りを抑え、こめかみを押さえた。

――あの老人め、昔からあの養女だけ特別扱いして、亡くなる時まで株を莉子に残して……。それさえなければ、こんな小娘、とっくに家から追い出していたのに。


だが、最近手に入れた南横浜リゾートのプロジェクトを思い出すと、少し気が晴れた。プロジェクトが軌道に乗れば、早坂家はさらに力を持つ。焦らなくても、いずれあの娘の株も取り戻せるはずだ。


――Tasakiジュエリー。


九条莉子が担当するプロジェクトは順調に進み、佐々木部長から新たに重要な仕事も任された。田中美雨の処分はなかなか発表されず、彼女は相変わらず傲慢な態度を崩さない。莉子は何か違和感を覚えていた。


数日後、佐々木部長の秘書に呼ばれ、オフィスを訪れた。

入口で、田中美雨が得意げな表情で莉子を見下ろしながら出てきた。

莉子は嫌な予感がしつつ部屋に入ると、佐々木部長はお茶を手に、どこか気まずそうな顔をしていた。


「莉子さん、最近仕事は順調かな?」無理に笑顔を作る部長。

「おかげさまで、どれも順調です。部長からいただいたスタッフも、とても頼りになります。」莉子は普段通りに返すが、雑談だけで呼ばれたはずがない。


やはり、佐々木部長はお茶を置き、困った顔で切り出した。

「莉子さん、今いくつかプロジェクトを抱えてるよね。実はね、CommedesGarçonsの案件、今後は田中に引き継いでもらいたいんだ。」

「もちろん、無理にとは言わないよ。」と、申し訳なさそうに付け加える。莉子が社内で大切にされているのは知っているが、田中美雨の後ろ盾である田中副社長から強く要請があったのだ。


さっき田中美雨が見せたあの自信、これだったのかと莉子はすぐに察した。

どうやら、上層部に取り入ったらしい。

佐々木部長も板挟みで苦労しているのだろう。莉子はこれ以上、彼に負担をかける気はなかった。


田中美雨がこの案件をうまく処理できるかどうかは、見ものだ。


「分かりました。部長のご判断に従います。」莉子はあっさりと返事をしたので、佐々木部長も驚いた。

「入社してから、部長にはいつも助けていただいてます。私のことで周りの方が困るのは、本意じゃありません。今後も何かあれば、遠慮なく言ってください。」莉子はにこやかに、誠実な口調でそう告げた。


佐々木部長は深く感動した。もし莉子が強硬に反発すれば、どうすることもできなかった。ここまで気を遣ってくれるとは思っていなかった。

「必ず、次はいい案件を優先して任せるよ!」と力強く約束した。


この話はすぐに社内で広まり、藤井あかりが慌てて莉子のもとにやって来た。

「莉子先輩!せっかく頑張ったプロジェクトを、あんな人に取られていいんですか?」

目に涙を浮かべて怒る藤井。莉子がどれだけ努力していたか、誰より分かっている。こんなに理不尽な扱いを受けるなんて。


「大丈夫よ。後処理を任せるだけ、大したことじゃない。」莉子は優しく答える。「それに、CommedesGarçonsが本当に彼女に任せるかどうかも分からないし。」


藤井あかりのような素直な人は、職場では珍しい存在だ。


莉子がこの案件を担当したのは、実績を作るためだった。名も十分に売れ、佐々木部長にも借りを作った。長い目で見れば、損はない。業界で生き抜くには、先を見据えることが大切だ。


一方、田中美雨はさらに傲慢な態度を見せるようになった。事情を知る人たちは、莉子を見るたびに同情の色を浮かべるが、莉子は終始淡々としていた。この冷静さが、かえって田中美雨を苛立たせる。


退社時、田中美雨が莉子の前に立ちふさがる。

莉子は冷ややかな視線を投げ、避けようとしたが、田中美雨はわざと足を出してつまずかせようとした。

すると、莉子は怪我をした足でしっかり立ちながら、もう一方の足で田中美雨の足をしっかりと踏みつけた。


「きゃっ!」田中美雨は悲鳴を上げる。「なにするのよ、この女!」

莉子は何事もなかったかのように顔を上げ、あくまで無邪気に言った。

「あら、田中さん、こんなところにいたの?ごめんなさい、全然気づかなかったわ。痛かった?本当に失礼。」

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