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第13話 追加

 それから数日かけて論文をまとめる雨宮。丸1日かけて本番用の論文を下書きから書き写していく。

 その様子を見ていたヌルベーイだが、どうやら下書きから論文を勝手に読んでいたらしく、本番用の論文を1本仕上げたところで指摘を入れる。


「ホイター君。このグラフなんだけど、山なりになっていると表記しているよね?」

「えぇ、そうです」

「なら、どうして平均値のような出し方をしているんだい?」


 先述したグラフの説明では、グラフの形はシグモイド関数の形を取っていると記したが、実はこれは平均値で算出した時の場合である。実際のグラフは、円陣の数が奇数の場合はシグモイド関数にピッタリ当てはまっているが、偶数の場合はそれよりも高くなっているのだ。


「物は言いようってやつですね。キレイなグラフを出した時が、印象は良くなるでしょう?」

「でもこれは明らかにシグモイド関数? の範囲を超えていると思うんだ」

「……やっぱりそうですかね?」

「うん、そう思う」


 そう言われた雨宮は頭を抱えた。


「うわぁ、今から論文書き直しかよぉ……」

「いや、論文全体の書き直しはしなくて問題ないと思う。ただし、一か所だけ訂正すればの話だけどね」

「一か所だけですか?」

「そう」


 そういってヌルベーイは下書きのある場所を指さす。


「ここ、今後の展望だね。ここに偶数の時の変化について何かかき込めば大丈夫だよ」

「そんなもんでいいんですかねぇ」

「今はそれで問題ないね。ただ、今後はそのことについてちゃんと研究する必要があるけど」


 そこまで言われた時、雨宮の脳内にある単語が出現する。


『円陣倍数定理、ホイターの和公式』


 その時、パズルがかみ合ったような感覚がした。


「そうか……。これが和公式、そしてこっちが円陣倍数定理か……!」

「その様子だと、何か未来知識でも思い出した?」

「えぇ。円陣倍数定理とホイターの和公式という定理が存在することを思い出しました」

「それはどういう物だい?」

「簡単に言えば、円陣倍数定理は文字通り円陣が偶数の時に出力が高くなる法則で、和公式は円陣や文字が増えれば増えるほど性能が良くなるというものです。今回の実験方法では、両方の性質が出現したと考えられます」


 雨宮はそのように確信する。


「しかし、どちらも今の時代には概念すらない。提唱するためには更なる実験も必要になってくる。しかもそれを数値化するための数式も必要だ。今の君にできるかい?」

「出来なくても、やらなければ未来が大変なことになるだけです。最悪、論文の体裁をしていなくても、どこかしらで発表するつもりです」

「うん、その心意気は褒めよう。でも論文はちゃんと書いてね」

「あっはい」


 こうして仮称ホイターの和公式に関する論文は、今後の展望を書き換える形で本番書きを行うことにした。それを2冊分用意する。

 しかしこの和公式の論文は完成ではない。日付部分をまだ記入していないのだ。

 その理由は、和公式の論文と円陣倍数定理の論文を同時に提出するためである。大部分は和公式の論文から引っ張って来れば問題ないが、円陣倍数定理を制定するためにはもっと多くの実験が必要だ。

 そのため雨宮は早急に実験の準備をする。


「まず実験をどう設定しようか……」


 すでに円陣が30個までのデータは揃っている。あとは円が書けるだけ書いた物を用意する必要がある。

 しかし使用している円の大きさが変わると、魔法陣の出力も変化する可能性がある。そうなると実験を最初からやり直す必要がある。

 そのために、雨宮はある予備実験をする。


「これでどうだ……!」


 用意したのは、和公式の実験で使用した円陣を20個配置した魔法陣と、基礎となる外周の円を意図的に小さくして中の円陣が重なるように20個配置した魔法陣だ。前者を通常魔法陣、後者を重複魔法陣と呼称する。


「もし二つの魔法陣に違いが存在しないのなら、温度に大きな差は存在しないはず。もし違いが発生したなら、それは円陣の大きさか、重複していることに起因するはずだ」


 こうして実験を開始する。実験内容は、和公式の論文を書くときに行った方法と一緒だ。念のため通常魔法陣も最初から実験をしておく。

 通常魔法陣の結果が出たら、重複魔法陣で同じように行う。体感では変わりないはずだ。

 5分後、結果が出る。通常魔法陣と遜色はない。


「つまり、円陣はある程度重なっていても問題ないんだな」


 ここで、どれだけ重なれば効果が増減するかという疑問も登場してくるわけだが、今はそれをやっている場合ではない。


「とにかく、円陣倍数定理の実験をまとめなきゃ」


 そういって重複魔法陣を31個から順番に準備する。基礎円が等しい重複魔法陣を合計20個準備し、円陣の数は50個となった。


「ここからさらに実験するのかぁ。なんかやってることが数学者ではない気がする……」


 そんなことを思いながらも、雨宮は実験を続けるのだった。

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