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第10話 魔女とスパイの初げんか③

 そして、魔導士街コンの日が来た。

 キルケニー中心部はお祭り騒ぎだった。街のあちこちにローブを着た魔導士たちが歩き回っている。

 国中から魔導士が集まり、交流しているのだ。出店を出し、自作の魔導書を紹介する者。酒を飲みながら練り歩き、魔法を語らう者。広場で魔法を見せ合い、決闘をする者。それを見守る者、囃し立てる者。楽しみ方は十人十色だった。

「アリス、どこにいるんだろう……」

 アンナは箒に乗って空から探し回った。

 喧嘩した三日前から、アリスは部屋にこもりきりだった。アンナは何回も扉を叩き、謝ったが、彼女は沈黙を守った。

 アンナのミスで、このざまだ。絶賛喧嘩中の今、アグネスを友達にしたときのような手は使えない。アリスに気づかれないように、友達作りを支援しなければ。

 空から必死に見渡していると、使い魔のカラスが戻ってきた。

「カーカー」

 アンナは頷くと、使い魔の導く方に行った。

 見下ろすと、建物の影に、清楚系令嬢のアリシアに変装したアリスが隠れている。とりあえずイベントに来てはいるようだ。数人の女子魔導士の集まりを陰から見て、様子を伺っている。なかなか出て行く気配がない。

「もう、何やってるんですか。とりあえず、話しかけないと、何も始まらないでしょう。良さもわかってもらえませんよ……」

 そう言いたかったが、今は絶賛喧嘩中の身だ。口論になって、アリスの正体がばれでもしたら、全てが台無しになる。

 アリスは今日、友達を九十五人作らないといけないのだ。こんなところで止まっていては困る。

「行ってください」

 アンナは使い魔に命じた。カラスは、地上に降りていって、アリスにつっかかった。

「カーカー」

「な、何よ」

 追い立てられ、アリスはその場から出ていかざるを得なかった。魔導士の令嬢たちの前に出ていく。令嬢たちが、アリスを怪訝な目で見た。

「ご、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 アリスは緊張しているらしく、早口で言う。

「あなたたち、弱くて儚くて可愛いわね? 私の友達にならない?」

「弱い、儚い?」

 苦し紛れな挨拶に、令嬢たちは眉をひそめている。

 このままでは、アリスがまた誤解されてしまう。アンナは、使い魔を放った。ネズミたちだ。それは、令嬢たちの間に落ちて駆け回る。

「きゃー」

 彼女たちは良家の出で、このような動物には慣れていない。慌てて対応できないようだ。ネズミたちは、すぐにアリスの元に向かった。おとなしくなる。

 その様子を見て、令嬢たちの目が変わった。

「あなた、もしかして、この動物たちを使役したの?」 

 アリスに聞いてきた。アリスはひもにくくりつけてある紙を解いて中を見た。そこにはこう書いてある。アンナからの指示だ。

「『ええ。弱くて儚くて可愛いねずみさんよ。私が動かしたの』」

 読み上げるアリスに、令嬢たちは感心したように目を輝かせた。

「さっきの挨拶は、ねずみにしたものだったのね。すごいわ! 動物を使役するなんて、高等魔術じゃない! どうやったか教えてくださらない?」

 彼女たちも魔導士街コンにきている身。魔法には興味津々なのだ。そこで、アリスはもう一枚別の紙を取った。浮かび上がってきた文字を読む。

「『今度私の家で誕生日会を開くの。そこに招待するから、そこでお話ししましょう』」

 そしてアリスは、懐から招待状を出し、三人の令嬢に渡す。

「あら、行ってもいいの?」

 アリスが頷くと、彼女たちは受け取った。

「楽しそうね、いっぱい魔法の話しましょうよ!」

 令嬢は友達と楽しそうに話す。残りの二人も頷き、ご機嫌そうに去っていった。

 アンナは、それを上空から見てガッツポーズをした。

 一気に三枚も招待状を捌けた。魔導士街コンという特殊なイベントの空気が、令嬢たちの警戒を解いている。アリスの変な行動はあまり気にせず、魔導士としての面を見てくれている。

 チャンスだ。ここで、残り九十二人を集められるかもしれない。

 それからも、アンナはアリスを陰ながら支援した。見つからないように助言を渡し、確実に招待状をさばいていった。やはり、参加者の高揚している中では招待状も渡しやすい。

 とはいえ、このままでは百人には届かない。今日を逃せばアリスが誕生日までに友達を作る機会はないだろう。目的を果たすには、アリスの魅力をより多くの人に伝える必要がある。

 アンナには、切り札があった。この日のために、準備をしてきたのだ。

 作戦のリスクは大きい。だが、今やらなければ後はじり貧だ。いちかばちか、成功させなければならない。

 アンナは箒に乗って、急いで町の中心にある広場に向かった。

 空から見ると、続々と魔導士たちが集まってきているのがわかる。広場には壇があり、そこは空席になっているが、魔導士たちは楽しそうに歓談している。

「会長のスピーチかあ。久しぶりに顔を見られるの、嬉しいなあ」

 これから、魔道具協会会長がやってきて、魔導士街コン開催にあたっての挨拶をするのだ。彼は高齢だが穏やかな人柄と実力から人望がある。スピーチなどつまらないものだが、彼の場合は楽しみにする人も多いのだ。

 だが、多くの人を動かす人物なだけに敵も多い。

 アンナは、広場の近くにある時計台を見た。そこに数人の黒ずくめの人影がいて、広場を見張っていた。時計台には、アンナが事前に発信機がわりの水晶玉を設置してある。男の声が水晶を通して聞こえてきた。

「ふん。こんな人前の目立つ場所に出てくるとは愚かな会長よ」

「今日こそ奴を倒し、魔道具の普及を止める。我ら『ケルベロス』の手で、魔力が全てだということを世に知らしめるのだ」

 サラから聞いていた通りだ。

 狙い通りの敵が、狙い通りの場所に来た。魔道具協会を狙っているテロ組織、ケルベロスだ。

 アンナが事前につかんでいる情報では、彼らは魔道具協会に筋の通らないクレームを入れて会長に諭されたことを、逆恨みして復讐を狙っているらしい。今回の街コンの情報も手に入れて狙っているようだった。だがアンナは彼らをすぐには捕らえず、泳がせていた。

 その目的は一つ。

 アリスの手柄とするためだ。奴らの暴行を逆に利用して、アリスの手柄とし、一気に人気者に押し上げる。それがアンナの計画だ。

 そのためには、テロリストとアリスの両方の動向を把握して、うまく引き合わせる必要がある。広場を見渡すと、アリスはちゃんと来ていた。彼女は泣いている女の子を発見したようで、かがんで声をかけていた。

「大丈夫かな……」

 アンナは心配だった。アリスが女の子に変なことを言ったり、強すぎる魔法をかけたりして、恐れられてしまわないだろうか。計画が失敗するのももちろん不安だった。だが、何より、アリスが誤解されるのが嫌だったのだ。

 だから、アンナに油断が生じていた。アリスに気をとられすぎて、注意力が下がっていた。背後から忍び寄る陰に、気づかなかったのだ。

「お嬢ちゃん……俺たちを水晶で見張るとは、いい度胸だな」

 振り向いたときにはもう遅かった。男の杖から出た光がアンナを襲った。


 アンナは目覚めた。体が椅子に縛り付けられている。男が見下ろしてきた。

「嬢ちゃん、魔道具協会の雇った間者ってとこか?」

「違います。水晶玉で遊んでいたら、たまたま声が聞こえただけです」

「嘘をつけ! まあ誰でもいい。そこで見てろ、イベントがめちゃくちゃにされるのを」

 男が指さした先に広場が見下ろせた。多くの魔導士が集まっており、会長がスピーチをする壇も見える。

「爆発魔法で、イベントごと会長を攻撃する。ここにいる百人のうち、何人生き残れるかな? もちろんそれを見届けた後は、てめえもしっかり爆発させてやるよ」

 もう片方の男が広場を見下ろしながら、杖に魔力をこめている。話しかけてきた男がげらげら笑っていた。

「世の中魔力が全てだ! 魔道具なんかいらん! 魔法が使えないやつなんか、地べたではいつくばっていればいいんだよ!」

 まずい、とアンナは思った。そしてこの状況は誰も責められない。身から出たサビだ。

 危険なテロリストを放置して、アリスの友達作りに利用しようとしていた。魔女でもない人間なんて大したことない、手の平で踊らせられると過信していたのだ。

 アリスの言う通りだ。人を見下して、気持ちなんか考えていない。油断した結果がこれだ。魔女を倒すどころか、人間のテロリストに殺される。当然の報いだ。

「さあ、終わりだ」

 壇上に、会長が上がると拍手が起こる。男の杖先に魔力が集まった。攻撃をするつもりだろう。

 このままでは、罪なき人間たちが犠牲になる。テロリストの存在を知りながら放置した、自分が殺すのも同じだ。今までで、一番強い恐怖を感じた。

 そう思って目をつぶった時、どういうわけか、頭の中でアリスの声が響いた。

 ――もう怖がらなくていいわ。

 最初に出会った時。魔女狩りに追われる演技をするアンナを、箒で救い出したときの言葉だ。

 ――私のそばは、世界で一番安全なんだから。

「アリス様!」

 気づけば叫んでいた。そうすれば、助けてくれるような気がしたのだ。

 倒すべき敵なのに。だまそうとしているターゲットなのに。偽物の師匠と弟子なのに――。

「は、うるせえぞ、てめえ!」

 男が蹴りを腹に入れる。痛みが走ったが、それでもアンナは祈るように叫んだ。

「アリス様、助けて!」

 そのとき、アンナの体の周りに、ひらりと綿毛が舞った。

「構うな、やれ! 会長を殺せ!」

 男の杖先が光る。いよいよ攻撃が放たれようとしたときだった。

「六六六魔法の一〇……」

 声がした。鈴の鳴るような、優しく包み込むような声だ。

「『純愛の園(レッドローズ)』!」

 時計台の中の一室に、赤色のバラが咲き誇った。部屋を埋め尽くしてしまうほどだ。花が光を放ち、その魔力を身に受けた男は杖を取り落す。

 アンナは、アリスがこの魔法を教えてくれるときに言った言葉を思い出した。

 ――この魔法は、大事な人を守るときに使うのよ。

 アンナの横には、アリスが立っていた。縄がほどけ、アリスに抱き留められる。

「アリス様! どうやって!?」

「あなたのことが心配で、見守りの魔法をかけていたの」

 アンナの体の周りに白いたんぽぽの綿毛が舞う。六六六魔法の六、『真心の園(ダンデライオン)』。アリスの部屋でけんかしたときにアンナを吹き飛ばしたこの魔法は、アンナを守る効果もあったのだ。

「今日は陰から私のこと、助けてくれていたわね。私、ひどいこと言ったのに」

「気づいていたんですね」

「黙っていてごめんなさい、アンナ。私、言えなくて」

 アンナが陰から助けていることは、アリスにはわかっていたのだろう。けんか中で言いづらいから、黙ってアンナの支援に従っていたに違いない。

 だが、今はそんなことよりも、大切なことがあった。アンナが呼んで、アリスは来てくれた。

「ありがとうございます、アリス様」

「無事でよかったわ。あなたに何かあったら私、どうしようかと思った」

「なんで、助けてくれたのですか……私なんかのために」

「そんなの、あなたが私の弟子だからに決まっているでしょう?」

 アリスは泣きそうだった。

「ごめんなさいね。あなたのこと、人の気持ちがわからないとか、人を見下しているとか、ひどいことを言って」

「本当のことですから……」

「そんなことないわ。あなたは優しい子よ。ばかなことしてばかりの私を見捨てないで、友達を作るために一生懸命考えてくれて、がんばってくれる。こんな素敵な子はいないわ」

「アリス様」

 アンナの胸の中に、ぽっと灯りがともるような感覚があった。

「私、寂しかったの。あなたは私のことを知ろうとしているのに、自分のことは全然教えてくれないから。そばにいるのに教えてくれないのが辛くて、あなたを見るのが悲しくなったの。それで、どう話せばいいかわからなくて、意地悪を言ってしまったのよ。本当にごめんなさい」

 アリスは、アンナの目を見つめて、肩に優しく触れながら、ゆっくりと話した。

「私、本当はアンナが大好きなの。千年たって、初めて弟子ができて、嬉しいの。あなたと少しでも、わかりあいたいのよ……ペトロニーラと、仲良くなったみたいに」

「アリス様……私こそすみませんでした」

 アンナは、裾をぎゅっとつかんだ。そして、アリスの体に顔を寄せた。暖かい。

「自分のことを棚に上げて、アリス様のことばかり言って。勝手に過去を覗き見て、口出しして。怒られても仕方ないことをしていました」

 アンナはぺこりと頭を下げた。

「私、アリス様のこと、知りたかったんです。何をしてきたのか、どうして今みたいになったのか。少しでも知りたくて……それで、日記を見てしまったんです。アリス様の気持ちに、少しでも近づきたいと思ったから」

 アンナはぼそぼそ言った。確かに、正体を偽り、嗅ぎ回っていた。でもこの気持ちは、けして嘘ではなかった。

「なんか、照れるわね」

「今、自分のことは言えません。言えないわけがあるんです。でも、本当なんです。アリス様に友達を作ってほしいと言う気持ちは、嘘じゃないんです」

 アリスを上目遣いで見上げる。

「言えるようになるまで、待っていてくれますか?」

 これは、嘘ではなかった。

「待つわ。十年でも、百年でもね」

「もう、それは長すぎですよ」

 アンナは、アリスと微笑みを交わし合った。しばらく見つめ合っていた。この安心感は、しばらく得たことのないものだった。母を失い、魔法が使えなくなる前に感じていた、あの気持ちと同じだったのだ。

「おい、貴様ら!」

 男の声がした。

「俺たちをさしおいて、くだらん喧嘩しているんじゃねえぞ! ふざけやがって!」

 彼らは、魔法の杖を二人に向け、必死に攻撃しようとしているみたいだった。しかし、あちこちに生えたバラの花に魔力を阻まれ、ほとんど機能していない。逃走も試みたようだったが、やはり花の魔力の影響を受け、動けないようだ。

「そういえば、坊やたち……いたわね?」

 アリスが、微笑みながら、二人の男に目を向けた。

「さっき、アンナに、ずいぶんなことをしてくれたみたいね?」

 すると、彼らの体のあちこちに生えた花が光って、魔力に当てられた男たちは苦しんだ。

「縛り付けたりとか……蹴ったりとか……いろいろしたのかしら?」

「熱い! 熱い!」

 男たちは花を取り除くことはできない。当然だ。アリスの魔力の前に、抵抗できる人間なんているわけがないのだ。

「いけない子には、たっぷりおしおきが必要ね?」

「ぐあああ!」

 赤い花が一斉に光って、部屋の天井や壁が吹っ飛んだ。

 部屋に生えた花や、テロリストたちの様子、アンナとアリスは、広場から丸見えになった。

「時計台が吹っ飛んだ! 何が起こってるんだ」

 視線が集中した。

「おい、あの黒装束……有名な過激派テロリストの『ケルベロス』じゃないのか!?」

「テロリストにこのイベントが狙われていたのか!?」

 ちょうど会長のスピーチも終わったところだったらしく、会場は騒然となる。百人の魔導士が、アンナたちを見上げていた。

「ぐああー! くそ、会長どもめ! あいつら全員、めちゃくちゃにしてやりたかったのに!」

 テロリストたちは、倒れてのたうち回りながら、うめいている。

「でも、奴ら、やられてるぞ。あの魔導士が、事前に倒してくれたのか!?」

「でもあの魔法……始祖の魔女、アリスが使ったと言われる、古代魔術じゃないか!?」

 皆、アリスを見て、口々に噂し始める。

「もしここに始祖の魔女がいたとしたら、テロリストどころの騒ぎじゃないぞ! 一瞬で皆殺しだ!」

「私、あの人に誕生会の招待状もらったわ! もしかして本性は魔女で、私たちをだまそうとしている……!?」

 パニックになる。その様子を見て、アリスはうつむく。

「そうよね……魔女は、皆の嫌われ者。誕生日パーティに来てくれる人なんて、いるわけないわ……」

 今までたくさん招待状を配ってきた。でも、ここで正体がばれたら全て台無しになってしまう。アリスは、周りの人に、蔑まれ、嫌われてしまう。

 千年前、大切な人のことを思って魔法を作ったときと同じように。

 魔女狩りに虐げられている、今のアンナと同じように。

 アンナは、日記の中で、小さな花を守っていたアリスの言ったことを思い出した。

 ――なんだか、私みたいなんだもの。誰にも守ってもらえないなんて。

 気づけば、アンナは叫んでいた。

「アリシアさん、ありがとうございます!」

 わざとらしいが、出せる限りの大声だ。

「アンナ……?」

 しっ、とアンナはアリスにだけ見えるように人差し指を立てると、アリスの両手を握り、わざとみんなに見えるようなところに出てきて言う。

「テロリストから助けてくれてありがとうございます! 会場の爆破まで止めてくれて……私たちの命の恩人ですね!」

 このくらいハッキリ言わないと伝わらない。アンナは、大声で続けた。

「この花の魔法、アリシアさんが始祖の魔女アリスの魔法を部分的に再現したんですか!? すごいです! しかもそれを、人を守るために役立てたんですね! ……やはり魔法とは、使う人の心によって、良いものにも悪いものにもなるんですね!」

 アリスは、彼女の魔法は、けっして悪いものではない。人を傷つけるものではなく、人を守るものだ。

 四年前の地震も二百年前の噴火も、アリスのせいではなかった。彼女はむしろ千年間、悪い魔女から国を守ってきたのだ。

「アリシアさんはその魔法で、私はもちろん、ここにいる人たちみんなを守ってくれたのですね!」

 広場全体に伝わるように叫ぶ。

「確かに……!」

 それに呼応して、周りの人々の反応も変わり始めた。

「確かにこんな場所にいきなり魔女がいるわけないわね」

「あの魔導士、やはり魔女とは関係ないんだな!」

 安堵した声が聞こえる。

 今が、チャンスだ。さらにアンナは続けた。

「アリシアさん、一週間後に誕生日会を控えているんですね! 私も行きたいです! そんな誕生日会について、アリシアさんから一言どうぞ!」

 アリスを前に出す。アリスは、広場を見渡してびくびくしていた。緊張しているのだろう。大勢を見渡す。

 アンナは、後ろから手をぎゅっと握った。そして、耳元でささやく。

「……大丈夫です。アリス様、いいところいっぱいあるんですから」

「アンナ」

「私、アリス様のこと……好きですから」

 アリスは、嬉しそうにうなずいた。そして、広場に向かって叫んだ。

「みんな、お願い……誕生日会に、来てほしいの!」

 そして、招待状を取り出し、一気にばらまく。それは、広場に降り注いだ。

 魔導士たちは、その招待状を力強くキャッチする。

「行きたい! ぜひともヒーローインタビューさせてくれ!」

「命の恩人の誕生会なんて出席しないほうがおかしいだろ!」

 みんなその中身を見て、盛り上がっている。

 アンナは、力強くガッツポーズした。全ての招待状を、一気にさばくことができたのだ。

「アンナ……ありがとう、アンナ! あなたのおかげで、百人の招待客を招けるわ!」

 アリスは、アンナに抱き着く。それを、アンナは力強く抱き留める。

「これは、アリス様自身の力ですよ。アリス様が勇気を出したおかげです」

 見つめて言う。

「いいえ。アンナの協力がなかったら、絶対にできなかったわ。ありがとう。これで、ペロトニーラとの約束、守れるわ!」

 アリスもガッツポーズをとる。

「ええ。百人の招待客と一緒に、誕生日会しましょう。そこでいっぱい魔法の話をして。盛り上がりますよ」

 アンナは答えるが、アリスは微笑む。

「ふふふ。アンナ、あなた、忘れてるの?」

「はい?」

「これでやっと、弟子の卒業なのよ。私の友達作りが、魔女のキスをする条件だったでしょう?」

 アンナは、開いた口が塞がらなかった。

「あなたを、魔女として認めるわ。誕生日会が無事に終わったら、そのあと、キスをしましょう。私の弟子を卒業して、魔女になるのよ!」

 アリスは嬉しそうに言う。

「そうしたらあなたも不死になるし、ずっと一緒にいられるわね! 楽しみだわ!」

「え、ええ……」

 アンナはアリスから目を逸らした。アリスは不思議そうにしたが、また嬉しそうな顔に戻った。

「照れてるのね。かーわいい、アンナ」

 忘れたわけがなかった。最初からそのためにやってきたのだから。

 ただ、考えたくなかったのだ。

 十日後、無事にアリスの誕生日会が終われば、魔女のキスを受けることができる。

 そこでアンナは、アリスを裏切り、殺すのだ。

 そのためにアンナは今まで戦ってきた。全ての魔女を倒し、サラとともに解放されるために。

 いつか、本当のことを言える日が来るかもしれない、です――。

 それは、アンナが、アリスを殺す時なのだ。


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