俺はマメをオリビアさんの足から引きはがして抱っこし、ほとぼりが冷めるのをしばらく待つことにした。
オリビアさんとリリアさんはギルドの業務に戻り、男どもも散って行ったので完全気配遮断を解いた。
「オリビアお姉ちゃんともっと遊びたかったよな、ごめんな?」
マメは遊んでほしそうにくるくると回りながらワン! と鳴いた。
……さて作業を続けよう。二日後、討伐隊への参加が控えている。
今頃兵士団が街道を封鎖し警戒に当たっているはずで、あの場所での岩盤掘削はできない。再開するためにも成功させねば。
その後も黙々と作業を続け、 【ミスリルのツルハシ(粗悪品)】を作ったところでCランク鍛冶熟練度レベルが2になった。その他の余ったD~Eランクの鉱石で武器防具を作って経験値とお金を稼ぎ、この日は終了した。D~Eランクの熟練度はいい感じになっており属性付与もできるので、ある程度の金稼ぎになる。
残念ながらベースレベルとジョブレベルは上がらなかったけど、まだ明日がある。焦らず頑張っていこう。
……へとへとに疲れ切った俺は、無性に甘い物が食べたくなった。
武器防具の売却時、オリビアさんにそれを話すとカフェの甘味に付き合ってくれることに。俺一人でカフェみたいなキラキラしたところにいけるはずがないので、とてもありがたい。
スタバの新作は飲みたいが、あの陽キャでオシャレな場所で珈琲を優雅に一人で嗜むには、少々俺たち陰キャにはハードルが高すぎる。
ということで、いつものようにギルドの男連中にはバレないように外で待っていると、オリビアさんがすまなそうな顔でリリアさんと一緒にやって来た。
……うん、帰ろう!
「じゃあオリビアさん、リリアさん、また明日!」
「ちょっと待った待った~! ハイドっち、逃がさんぜよ~~!」
リリアさんに引きずられるような恰好でカフェに連行された俺は、美女二人とフルーツパフェという光景に眩しすぎて目が潰れそうになるというデジャヴを味わうハメになった。
リリアさんのお兄さんであるレイモンドさんという人がパティシエをやっていて、わざわざ俺に自己紹介してくれた。
レイモンドさんは、ペットでも食べられるお砂糖抜きのレモンケーキを出してくれた。流石はリリアさんの兄君なだけあって、とんでもないオシャレイケメンだった。
3人並んだときのオーラがお貴族様も真っ青なほど凄くて、周りの客はあまりの美しさに感嘆のため息を漏らしながらウットリ見入っているようだった。
もちろん俺も目の保養として、しっかりくっきり目に焼き付けておいた。
ん……? リリアさんがさっきからレイモンドさんとは別のイケメンパティシエをぽーっとした表情で見ているぞ……? まだ付き合っているとかそういう感じじゃないっぽいけど、意中の人がいるっぽい。
なるほどね。
どうやら好きな人がいる女の人には俺のこの顔面スキルは発動しないらしい。これだけ接触していても、リリアさんはどこ吹く風でからかってくるだけだもんな。
そうこうしていると、ルベン議長邸でおなじみの女兵士ミランダさんが「ようリリアにオリビア!」と声をかけてきた。
ミランダさんもこのカフェの常連だそうで、リリアさんやオリビアさんとは親友らしい。ミランダさんも俺たちと席を一緒にすることになった。
それからオリビアさんとリリアさん、ミランダさんはマメの頭を撫でたり、抱っこしたり、ケーキを手であげたりととても可愛がってくれた。
まわりのお客さんも、そんな彼女たちを微笑ましそうに見ていた。
ミランダさんも男勝りに見えて、意外に甘い物が好きだったり、マメのような小動物が好きだったりと女性らしい一面があるとわかった。
……
次の日も俺は男臭い宿屋の物置に秘蔵していたミスリル鉱石の残りを使い、鍛冶作業に没頭した。
Cランク武器防具精製作の熟練度Lv2まで到達し、ジョブレベルが上がったところで防具製作Lv4を取得。ミスリルの防具一式(劣化品)とミスリルのツルハシ(劣化品)、ミスリルの鍛冶道具(劣化品)ができた。
「今日はここまでだな……」
見上げると空が茜色に染まっていた。
今日はミスリル鉱石しか使わなかった。
ここに至るまで結構な量のミスリル製品を作ってきたが、売ることができない。
そう困り果てていると、オリビアさんが「何とか私がさばいてみせます! 代金は待ってください!」と言って、俺には使い道のないミスリル製品を引き取ってくれた。
流石は頼れる友達だ。こういうのは素人の出る幕じゃない。プロである彼女に任せよう。
それと明日は朝から討伐に出かけなくてはならないので、今日はオリビアさんとのデートはなし。帰って早めに休もう。
俺はギルドの売店でポーションや鍵付きロープ、カンテラ油、テントなど使いそうなものを買い込み家路についた。