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第60話

 夕方、岩盤堀りを終え西門から町に入ると、何やら騒がしいことに気が付いた。空を見上げると、夕日に照らされた鱗が空色に輝く美しくも恐ろしい竜の姿があった。



「スカイドラゴンが出たぞ!! 非戦闘員は家の中に入れ!!」


 怒号と悲鳴が町中に響き渡っている。スカイドラゴンはCランクモンスター。空を飛ぶ分だけオークキングよりも段違いに厄介で、限りなくBランクに近いモンスターだ。きっとアーノルドさん、イワンさん、ミランダさんらは今あいつと戦ってるはず。


 ……俺にも何かできることがあるかもしれない。俺は町の中央へと全速力で走った。



 グルアアアアアアア!!!


 スカイドラゴンが咆哮し兵士の一人を掴むと空高く舞い上がり、地面へと落とした。


 どちゃ。


 高度300メートルほどの上空から地面に叩きつけられた兵士はあっけなく即死した。


「マルコ!!」


 ミランダさんが同僚の死に悲痛な叫びを挙げる。


 スカイドラゴンは上空から地表を邪悪な表情で睥睨している。あいつはこうやって人をいたぶるのが好きな性格をしているようだ。


 スカイドラゴンは火は吐かないタイプの飛竜だが、体は強靭で鱗も固く生半可攻撃は通じない。


 俺もあの爪で掴まれた同じように空に投げ出されたら人生はそこで終わってしまうだろう。



「やつに捕まれるな! 弩弓と網の用意を!! 倒せなくとも追っ払うことはできるはずだ!」


 アーノルドさんが指示を飛ばす。



 グルアアアアアア!!!



 そこへまたヤツが咆哮し、急降下。今度は逃げ遅れた乳母車を押した母親を狙って爪を振りかざしてきた。



「させるかあああああああ!!」



 アーノルドさんが俺がプレゼントしたミスリルの盾でスキルレベルマックスのシールドガードを発動。ミスリルの剣でもスキルマックスのパリィを発動。防御力至上主義のアーノルドさんらしい誰かを守る戦い方が爆発した。


 スキルを防御に振り切っていたおかげでアーノルドさんは何とかスカイドラゴンの一撃を耐えきった。


 スカイドラゴンも一旦後退しつつ地上に降り立ち、アーノルドさんを翼を開いて威嚇。どうやらスカイドラゴンもアーノルドさんを強敵とみなしたようだ。


「イワン、ミランダ!! こっちだ!」

「「はい!!」」


 アーノルドさんの命令でイワンさんが加勢し、ミランダさんが乳母車と母親を担いで避難する。



 スカイドラゴンとアーノルドさん、イワンさんが睨み合い火花を散らす。


 それにしてもデカい。スカイドラゴンは羽を伸ばした状態でおよそ13メートルはあろうかという巨躯だ。



 ――完全気配遮断、発動。



 スカイドラゴンがアーノルドさんたちに今まさに襲いかかろうとしたそのとき。


「マメ!」

「ワオーン!」


 ポメラニアン・ウォーターウルフのマメが水球をスカイドラゴンの目に向けて発射。マメにも完全気配遮断が効いているので、ヤツからすれば急に眼の前に水球が現れたように映っているはず。


 水球を目に食らったスカイドラゴンの注意が一瞬それた。


 そこにアーノルドさんとイワンさんの剣による刺突攻撃がズブリと決まる。


 グルアアアアアアア!!!


 痛みと怒りの咆哮を上げるスカイドラゴン。俺はその間もひたすら駆け抜け、スカイドラゴンの体を尻尾側からよじ登る。



 これぞ鍛冶師の真骨頂。完全気配遮断との合わせ技、名付けて【パーフェクト・ボーン・インフェルノ】。とくと味わえ!


 ――メルトダウン発動。Cランクインゴット精錬。


「パーフェクト・ボーン・インフェルノ!!」


 その瞬間スカイドラゴンの頭部が灼熱の炎に包まれ、俺は最近できたばかりの自信作【ミスリルのハンマー(上級)】を必殺技の名前を叫びながら振り下ろした。


 ちなみにボーンは生まれるじゃなくて骨の方。必殺技なんて中二病くさくて恥ずかしいが、これは男のロマン。どうせ完全気配遮断で周りには聞こえてないからな。


 カンカンカン、ジュワー。とこの場に似つかわしくない間の抜けたエフェクト音が鳴り響く。



 グルアアアアアア……



 ひとしきり苦しそうに暴れまわったスカイドラゴンだが、終わってみれば頭に頭蓋骨のインゴットを生やした状態で死んでいた。



 俺はこの世界で初めて竜退治に成功した。

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