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アンケート
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菊池まりな
ミステリーサスペンス
2025年07月12日
公開日
2万字
連載中
フリーターの三枝美佳は、謝礼に惹かれて軽い気持ちでオンラインアンケートに回答する。しかし最後の設問で「消えてほしい人の名前」を書いた直後、その人物が謎の死を遂げる。 やがて「次の質問」が届き、美佳は逃れられない“選択”を迫られていく。やがて判明するのは、自分だけではなく他にも同じように“選ばされた”者たちが存在するという事実。 答えれば誰かが消え、拒めば自分が狙われる── 繰り返される悪意の連鎖と操作された運命の果てに、美佳がたどり着くのは…。

第1話  アンケート依頼

午後の光が差し込む、六畳一間のアパート。外では子どもたちの笑い声がかすかに響いているが、室内は薄暗く、カーテンは半分だけ閉ざされている。


三枝美佳さえぐさみかは、ノートパソコンの画面をぼんやりと眺めていた。指にはスナック菓子の粉がつき、ペットボトルの烏龍茶はぬるくなっている。


「今日も、面接落ちか……」


メールを確認すると、午前中に受けたコンビニの面接の不採用通知が届いていた。「また明日探せばいいや」と美佳は呟き、ため息まじりに椅子を回転させる。


スマホが震えた。


──【新着メール:アンケート協力のお願い(謝礼あり)】


差出人は聞いたことのない「LAPIS DATA」なる会社。タイトルに「謝礼あり」とあるのが目に留まり、反射的にタップする。


> 平素よりお世話になっております。

簡単なアンケートにご協力いただくだけで、謝礼として現金5,000円をお送りします。

ご興味のある方は、下記のリンクからご参加ください。




(怪しい……けど、まぁ、見るだけなら)


美佳はアンケートのURLをクリックした。開かれた画面は意外なほど洗練されていて、いかにも“それっぽい”アンケートフォームが表示される。


質問は最初こそ軽いものだった。


「あなたの性別を教えてください」


「今のご職業は?」


「普段感じるストレスの大きさはどれくらいですか?」



(ありがちな質問ばっかじゃん……)


そう思いながらも、美佳はぽちぽちと選択肢を選んでいった。進むにつれ、質問はやや深くなる。


「これまでに人を強く憎んだことはありますか?」


「あなたがいなくなれば楽になると思ったことはありますか?」


「誰かに“消えてほしい”と思ったことはありますか?」



(……ちょっと気持ち悪いな)


引き返そうかと一瞬思ったが、すでに途中まで進めてしまっている。しかも、最下部には「この設問までに進んだ方には謝礼を確約いたします」の文字。


──そうして、美佳は気づけば最後の設問まで到達していた。


> Q.25(最終質問):

「あなたがこの世から消えてほしいと本気で願う人物がいれば、その名前をフルネームでご記入ください。

※該当者がいない場合は空欄でも構いません。」




画面の下部には「※回答は匿名であり、プライバシーは完全に保護されます」と書かれていた。


美佳はしばらく無言で画面を見つめた。


記憶の底から、ある男の顔が浮かんできた。三年前、派遣先で彼女を見下し、人格を踏みにじり、理不尽な言葉で辞職へ追い込んだ男──田代誠たしろまこと


(……書いたって、どうせ何も起きない)


美佳は小さく笑って、名前を入力した。


田代誠


「……これが最後の質問か…。よし、送信っと……」


画面が切り替わり、確認の文章が表示された。


> ご協力ありがとうございました。

あなたの回答は正常に送信されました。

なお、送信後のキャンセルは如何なる場合でも出来ません。

謝礼は必ずお受け取りください。




美佳は首を傾げた。


「え、キャンセルできないって、そんな……。まぁ、いいか」


彼女はPCを閉じ、スマホを手にベッドに転がる。


──そのとき、彼女の手元でまた通知が震えた。


【発送完了のお知らせ:ご協力への謝礼について】


(行動早っ……)


どこか薄ら寒さを感じながらも、美佳はそのまま目を閉じた。


まだ、この一通のアンケートが、彼女の人生を狂わせる“最初の引き金”になるとは、想像もしていなかった。


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