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第21話  再構築プログラム起動

視界が滲む。意識の底でかすかに鳴る電子音。美佳はゆっくりと目を開けた。そこには、現実とは思えないほど無機質な空間が広がっていた。白一色の床、無限に続くような壁、そして足元には、青白く輝くパネルが浮かび上がっている。


「ここは……どこ?」


思わず呟いた声が、空間に反響して消える。その声に応えるように、宙にいくつものウィンドウが現れた。そこには、美佳のこれまでのアンケート回答履歴が並んでいた。質問の一つ一つが、ただの世間話や価値観を問うものに見えたはずだった。だが今見ると、それはあまりにも綿密で、美佳の心理や行動原理を詳細に分析するためのものだったことが一目でわかる。


「ようこそ、三枝美佳さん。再構築プログラムを開始します。」


感情のない女性の声が空間に響く。同時に、美佳の足元に新たなパネルが出現し、彼女の選択によって分岐した未来のビジョンが映し出された。そこには、自分がまるで他人のように、冷徹な判断で人を排除していく姿が映っている。信じられない。その冷たい目が、自分の目であるということが。


「これは……私じゃない……」


「いいえ。これは“あなたになりうる可能性”です。そして、この空間は“可能性”を最適化するために存在しています。」


声と同時に、美佳の胸元に光が吸い込まれていく。彼女の記憶、経験、思想がデータとして変換され、空間の中心に吸収されていった。美佳は思わず膝をつき、額に手を当てる。頭の奥で何かが書き換わっていくような、ざわざわとした不快感が広がっていく。


「やめて……!」


叫んだ瞬間、空間が歪んだ。目の前に、制服姿の少女が現れる。見覚えのある顔——七海彩音だった。だが、彼女の目はどこか虚ろで、まるで操られているようだった。


「彩音……?どうして、ここに……」


「三枝さん、あなたの再構築を妨げないで。」


冷たい声。それはかつての親友の声ではなかった。背筋が凍る。この空間は、美佳の精神を“書き換える”ために存在する。LAPISの実験フィールド——それが、いま美佳の足元に広がっている。


「再構築プログラム、進行中。適合率、87%」


目の前で、かつての友が仮想人格として美佳に近づいてくる。美佳は立ち上がった。恐怖に足は震えていたが、それでも逃げるわけにはいかなかった。


「私は……私でいたい!」


彼女の叫びが、白い空間に響き渡る。


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