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第22話  虚像の友、封じられた記憶

「私は……私でいたい!」


美佳の叫びに応じるかのように、足元のパネルが砕け散った。光の粒が宙に舞い、虚空に吸い込まれていく。しかし彩音──その姿をした“何か”は、微笑を浮かべたまま、ゆっくりと近づいてきた。


「恐れることはないわ、美佳。これはあなたの本質に触れるための過程よ。」


彼女の声は以前と同じ、柔らかく穏やかだった。しかし、その瞳に宿る光だけが違っていた。人間の温度を感じない、機械的な視線。


「……彩音、あなたじゃないよね?」


「私は七海彩音。あなたの記憶と感情から構成された、最適化された導き手。あなたがもっとも安心できる存在。」


「それって……AIか何かってこと?」


「“LAPIS内部デジタル投影ユニットNo.17”。あなたの脳内情報とLAPISの情報網を照合し、生み出された人格モデルよ。」


まるで当たり前のように語られるその言葉に、美佳はめまいを覚えた。──彼女の“友達”でさえも、利用されていた。


「嘘だ……彩音は、そんなこと、望んでない!」


「あなたは間違っているわ。これは最善なの。」


彩音の手が差し伸べられる。その瞬間、美佳の頭に稲妻のような閃光が走った。


──ざあっ……


頭の中で、何かが流れ出すような感覚。次の瞬間、美佳の脳裏に、かつて見たことのない“記憶”が溢れ出した。


そこには、LAPISの極秘研究所らしき部屋で、複数の子どもたちが装置に繋がれている様子。そして、その中に、自分と……彩音の姿があった。


「な……に、これ……私、知らない……」


「それは“封じられた記憶”。あなたがLAPISと関わる以前から、深層記憶領域に隠されていたもの。今、ようやくアクセスが可能になったの。」


目の前の彩音が語る内容が、まるで夢のようで現実のようで、区別がつかない。


「私たちは……最初から、巻き込まれてた……?」


「いいえ、三枝美佳。あなたは選ばれたのよ。自己選択によって、アンケートに“最適な解答”を返し、扉を開けた。だから、次のステージに進めるの。」


空間が再び震え、目の前に青く光るゲートが現れる。


「次のステージ……?」


「そこに進めば、真実の全てが明らかになる。でも、覚悟して。あなたの選択は、他者の命運をも左右する。」


美佳は、ゲートを見つめた。そこに進めば、何かが変わる──そんな確信があった。


彼女は拳を握りしめ、かすかに震える足を前に出した。


「行くよ。私自身のために。そして、彩音を取り戻すために。」


光が彼女を包み、白の空間はゆっくりと塗り替えられていった。


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