こんにちは。埼玉県立稲川女子高等学校吹奏楽部2年、
先の夏コンクールで先輩たちが引退してからというもの、私たち吹奏楽部は2年生5人と1年生3人の計8人だけの部となってしまいました。
楽器のパート数も足りず合奏もままならない現状ですが、文化祭でのアンサンブルやソロ演奏の披露、式典など学内イベントでの演奏などを担うなどをして、何とか活動を続けています。
そして、今日は3月12日。3年生たちの卒業の日です。卒業式当日は基本的に下級生たちは休みなのですが、私たち吹奏楽部は入退場曲や校歌の演奏のため、式へと出席しています。
お世話になった先輩たちの旅立ちの時。いろんな思い出の数々が、まるで昨日のことかのように思い出せます。
式はつつがなく終わりを迎え、いよいよ先輩たちが退場していきます。既に涙で楽譜がよく見えませんが、先輩たちの晴れ舞台を台無しにするわけにはいきません。私は、既にびしょびしょに湿りきったハンカチで溢れる涙を拭い、先輩たちへ送る最後の曲を奏でるため、気合いを入れ直してクラリネットを構えました。
すっかり卒業式の定番曲となった有名なスローバラードを繰り返し演奏し続けながら、涙で滲んでいく視界の中に一人の姿を見つけます。
・・・・・・
ときに優しく、ときに厳しい先輩からは、本当に沢山のことを学ばせていただきました。感謝してもしきれません。
退場行進の最中、ふと先輩がこちらの方を向き、その目が私と合いました。
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「ううぅ・・・・・・せんぱぁい・・・・・・」
「もう・・・・・・。そんなに泣かないの」
卒業式も終わり、部室の音楽室に待機していた私たちの元へと、先輩たちが顔を出しに来てくれました。
止めどなく溢れる涙を抑えることができず、ただ嗚咽のような声を漏らすことしか出せなくなってしまった私。そんな私の頭を、赤井先輩は優しく撫でながら微笑みかけてくれました。
「吹奏楽部のこと・・・・・・頼んだわよ。月奈」
「・・・・・・はい! 任せてください!」
***
先輩たちと共に過ごすことのできる最後の時間が終わり、一気に静かになった音楽室。人目を憚らず大粒の涙を流す者、堪えて気丈に振る舞う者とみんなの様子は様々ですが、楽器を片付けるその姿からはやはり寂しさが隠しきれません。
「ううぅ・・・・・・ぜんばぁい・・・・・・」
・・・・・・かく言う私も、ボロ泣きしているうちの一人です。
「もう。泣きすぎだって、月奈」
一足先にアルトサックスを片付け終えた2年生の
「なづぎぃ~・・・・・・だっでぇ~・・・・・・」
「もう・・・・・・。赤井先輩から部のことを託されたばかりでしょ。部長のあなたがそんな調子でどうするのよ・・・・・・」
「・・・・・・そういう夏希だって泣いてるくせに」
「う、うるさいわね・・・・・・。仕方ないでしょ」
気丈に振る舞ってみせる夏希の目にも、大粒の涙が浮かんでいます。私がそのことを指摘すると、夏希はそれを隠すようにそっぽを向いてしまいました。
私と夏希がそんなやり取りをしていると、不意に音楽室の扉が開き、倉庫で打楽器の片付けを終えた2年生の
「ルナちゃ~ん。
「え?
このタイミングで・・・・・・? いったい何の話だろう?
「愛理、ありがとう。ちょっと行ってくるね」
葛西先生の話がいったい何なのかはよく分からないけれど、いつまでも泣いてばかりじゃいられないよね! 4月には私たちだって3年生になるんだし、新入生たちも入ってくるんだもん。先輩たちから託されたこの部の将来のためにも、部長の私がしっかりしないと・・・・・・!
私は溢れる涙をハンカチで拭い、葛西先生の待つ数学準備室へと向かうことにしました。
***
「失礼します、葛西先生。私に話って、いったい何ですか?」
「ああ、宍戸か。吹部、来年で廃部だから」
「・・・・・・へ?」
・・・・・・気合いを入れ直した私のことを待っていたのは、あまりにも理不尽な廃部の宣告でした。