「廃部・・・・・・ですか・・・・・・?」
「ああ。人数不足と実績不十分で廃部」
突然のことでポカンとしてしまっている私をよそに、葛西先生は顔色一つ変えず、そう言い放ちました。
「人数不足と実績不十分・・・・・・」
確かに、現状の8人だけでは合奏もままならないせいで、コンクールや校外での演奏会などには出られていません。それは紛うこと無き事実です。でも・・・・・・。
「学校の規定では、部員が5名以上いてかつ活動内容が伴っていれば、部活として認められるはずですよね・・・・・・? 部員はちゃんと8人いますし、今日の卒業式だってそうですが、学内行事での演奏だって・・・・・・!」
「あくまでも学則上はな。だが、職員会議で『コンクールにも出られない吹奏学部を、部費や部室を支給してまで存続させる意味はあるんですか?』という意見が出てな・・・・・・」
「そんな・・・・・・! たしかに、今の編成でコンクールに出るのは現実的ではないかもしれませんけど・・・・・・」
クラリネットが1人、アルトサックスが1人、パーカッションが1人、ホルンが1人、ファゴットが1人、オーボエが1人、ユーフォニアムが1人、コントラバスが1人。・・・・・・これが今の稲女吹奏楽部の編成。
フルートもトランペットも、トロンボーンにチューバだっていないし、パーカッションも1人だけだから手数が足りない。そのくせ、レアパート三銃士のオーボエ・ファゴット・コントラバスの3つは何故か揃っている。
人数が少ない上に、編成が歪。それは、私たちが今まで目を背け続けてきた問題点ではありますけど・・・・・・。
「でも、だからって・・・・・・! 私たちはちゃんと学生活動としてしっかりやることはやってきました! そんな一方的に潰される謂れはありません!」
今日参加した卒業式だってそうだし、文化祭だってソロコン・アンサンブルコンだってそうです。少人数なりにやれることを一生懸命やってきたのに、職員同士の話し合いだけで潰されてしまうのは納得がいきません。
自分でも不思議なくらい興奮しているのが分かり、思わず声を荒げてしまいましたが、引き下がるわけにはいきません。
そんな私の様子を見てか、葛西先生は少し困ったように頭を掻いて言いました。
「まあ、お前たちにやる気があるなら、廃部じゃなくて降格という手はあるけどな」
「降格・・・・・・」
部活から同好会への降格。それなら、吹部としての活動自体は続けることができます。
いや、その場合「吹奏楽同好会」って名前になるから「吹部」って略しちゃダメか。・・・・・・って、今はそんなことはどうでもいいです。
「ただその場合でも、部室と部費はどのみち無しになるから。あと、ついでに顧問も」
「・・・・・・」
そう。一見丸い選択肢のようですが、問題はここです。楽器経験ゼロの名ばかり顧問である葛西先生はともかく、部室と部費の没収は正直痛いです。
活動場所としてその日空いている教室を逐一申請するにしても、周辺教室への迷惑にならないようにしないといけないですし・・・・・・。とはいえ、学外の防音施設と言っても、高校生の財力では限界があります。せいぜい、たまにカラオケにいけるかどうかくらいでしょう。
それに、部費が無ければ楽器を修理に出すこともできません。ただでさえみんなボロッボロで、いつ壊れても驚かないようなヴィンテージ品を無理矢理酷使しているみたいな状態なのに・・・・・・。
私としては正直、同好会に降格してでも吹奏楽部としての活動を続けたいです。でも、その先に待っている苦労のことを考えると・・・・・・。それに、「そこまでして続けたくないよ」って部員だっているかもだし・・・・・・。
ああ、もう! どうするのが正解なんだろう・・・・・・!?
この短時間でいろいろなことを考えなくてはいけなくなったからか、思考回路はもうグルグルの混線状態で訳が分からなくなってきました。
「まあ、すぐに結論を出せとは言わない。持ち帰って、他の部員とどうするか決めてくれ」
葛西先生もそんな私の状態が分かっているのか、今日のところは結論は保留ということになりました。
***
「あ、月奈おかえり」
「あ、夏希・・・・・・。ただいま・・・・・・」
20分近く数学準備室にいたせいか、私が音楽室に戻るころには、みんなの片付けもだいたい終わってしまっていました。随分と長く空けていたことが気にかかっていたのか、戻るやいなや夏希が声をかけてきます。
「葛西先生の話、随分長かったんだね」
「まあね・・・・・・」
「・・・・・・何話してたの?」
まだ何も話していないのに、夏希の顔はいつになく真剣です。・・・・・・きっと私の顔に「良くないニュースがある」って書いてあるんだろうな。
正直、みんなに話すのはすごく気が重いです・・・・・・。しかし、だからといって言わないってわけにもいかないのですが・・・・・・。
「えっと・・・・・・みんな。聞いてほしいことがあるんだけど・・・・・・」
こう見えても9月からずっと部長をしている私です。部員たちの前で話すことなんて今更慣れっこのはずなのに、今はソロパートの演奏よりもよっぽど緊張します・・・・・・。
・・・・・・それでも私は重い口を開き、みんなに事の顛末を話すことにしました。