「「「は、廃部!?」」」
部員のみんなも一様に、鳩が豆鉄砲を喰らったような反応を示しました。そりゃそうです。
「う、うん・・・・・・。人数不足と実績不足だってさ・・・・・・」
とりあえず、葛西先生が言っていた理由をそのまま伝えてはみましたが、それでみんなが納得するとは思っていません。・・・・・・いや、納得されたくないという方が正確でしょうか。
「でも、うちらちゃんと8人おるやんか」
ファゴットパート2年の
「でも、『コンクールにも出れない部活に部費や部室は出せない』って・・・・・・。降格を受け入れるなら、活動自体は認めてくれるみたいだけど・・・・・・」
「コンクールのことを言われると、耳が痛いねぇ~」
愛理はそう言って苦笑いを浮かべ、わざとらしく耳をふさぐフリをしました。
「でも、どうしてこのタイミングなんでしょうか・・・・・・? 3年生が引退した時点ですぐか、4月に新入生が入って来なかったら・・・・・・とかの方が自然だと思うんですけど・・・・・・」
ユーフォニアムパート1年の
「うーん。直近の職員会議で急に決まったことらしいからね・・・・・・。わたしもよく分からないんだよ」
萌葱ちゃんの言う通りで、なぜこのタイミングだったのかはよく分かりません。もっと納得のいく形やタイミングがあったと思うのですが、どうしてこんな急に・・・・・・? しかも一方的に・・・・・・?
「もしかしたら・・・・・・目的はこの部屋かも・・・・・・」
考えこんでしまった私のことを見てか、オーボエパート1年の
「え? どういうこと?」
千聖ちゃんの言葉に首を傾げる萌葱ちゃん。
「合唱部・・・・・・。前から音楽室・・・・・・狙ってたでしょ・・・・・・?」
「あ、2月のコンクールで金賞取ったからってコト!?」
千聖ちゃんの話を聞いて、弦バスパート1年の
「あくまでもボクの勘だけどね・・・・・・。金賞の実績を笠に・・・・・・音楽室を空けさせるよう働きかけた・・・・・・とか?」
「うわっ! 絶対そうじゃん!? ちっさー天才!?」
千聖ちゃんの言い出した「合唱部黒幕説」に反応して、盛り上がる1年生たち3人。
「こら、そこ。憶測で他の部を悪く言わないの」
「「「す、すみません・・・・・・」」」
そんな彼女たちを、夏希がたしなめていました。
「でも、ありそうな話やん? なんたって顧問があのハゲ崎やからなぁ」
「亜希まで何言ってるのよ・・・・・・。それに
「ええやん、別にハゲ崎で。夏希は真面目ちゃんやなぁ」
亜希ちゃんまで便乗し、「合唱部黒幕説」が誠しやかに盛り上がりを見せ始めています。
「で、月奈? 降格。受け入れるの?」
そんな中、今まで沈黙を貫いていた、ホルンパート2年の
「うん・・・・・・。私としては、現状それしかないのかな・・・・・・って」
「ふーん」
未央ちゃんの反応はどこかそっけないものでした。普段から表情の乏しい子だから、何考えてるのか分かりにくいなぁ・・・・・・。
「でも、部室はまだ申請すればなんとかなるかもしれないけどさ、部費が無いのは厳しいんじゃないかしら? 何か壊れても、修理代すら出ないってことでしょ?」
「あ、そうなったら困るね~。うちの子たちはみんな満身創痍だし~」
部費の心配をする夏希と愛理。
「それに、降格なって学校の援助なくなるんやったら、『学校の楽器も
「私も。悪いけど、今更自分でホルン買ってまで部活続けたくない」
「アタシもエレキベースなら持ってるけど、流石にコントラバスは無理っす!」
「ごめんなさい・・・・・・! 私もユーフォはちょっと・・・・・・」
次いで、学校の楽器が使えなくなるんじゃないかと心配する未央や亜希たち。彼女たちのように高額だったりサイズの大きかったりする楽器を担当する子たちにとっては、ここも死活問題だ。
「それに・・・・・・空き教室だって使わせてもらえないかも・・・・・・。他の生徒から『吹部がうるさい』って苦情が出るかもだし・・・・・・」
「クラスルームはその組の生徒優先だし、講義室は自習に使う生徒が優先。・・・・・・確かに、使える場所が無いなんてこともあり得るかもしれないわね」
「体育館は運動部でいっぱいだし、屋外は楽器が痛むからね~」
千聖ちゃんや夏希ちゃんや愛理ちゃんが言うように、申請した場所だってちゃんと使えるかは分からないよね・・・・・・。
考えれば考えるほど、不安が不安を呼んでいく悪循環に陥ってしまいました。なんだか重苦しい空気が漂い始める音楽室。
こういう時こそ頼れる部長として、みんなを安心させてあげられるようなことを言ってあげたいんだけど・・・・・・いかんせん私自身が何も分からないし、誰よりも不安がっているのだからどうしようもありません。
うう、どうしよう・・・・・・?
「でも、先生たちも横暴なんじゃないかしら!? まがりなりにも部活の要件満たしているのに、一方的に廃部か降格にしろだなんて!」
「夏希センパイの言う通りっす! ハゲ崎の野郎に直談判しましょうよ!」
「いや、綾ちゃん・・・・・・。別に浜崎先生の差し金って決まったわけではないからね・・・・・・?」
「言うなら先に、咲代ちゃんの方だね~」
「でも、何を材料に交渉する気? もう決定事項なんだから、よほどのことがないと言うだけ無駄」
・・・・・・未央ちゃんの言う通りです。ただみんなで感情的に「廃部も降格も嫌です」なんて葛西先生に言ったところで、決定が覆るわけはありません。
何か交渉材料足り得るものを・・・・・・。そもそも、コンクールに出られないというのが向こうの言い分で・・・・・・。
「そっか・・・・・・! コンクール・・・・・・!」
そうだよ! ここは吹奏楽部らしく……!
「ん? 急にどないしたん? ルナっち?」
私が急に大きな声を出したからか、亜希ちゃんをはじめ、みんながこちらを振り向きました。私はみんなの顔を見据え、今度はさっきまでとは違い、意気揚々と口を開きます。
「コンクール曲を演奏してみせればいいんじゃないかな!?」