「ダンジョンを進みながらレベルアップをすればダンジョン踏破は無理じゃない……か。途中でアイテムも手に入るだろうし、うん。確かに無理じゃないだろうな」
問題は一度でもキャラクターが死ぬとゲームから強制ログアウトすることになり、そうなった場合は主催者に殺害されてしまう。
それに最初の一組のダンジョン踏破パーティーが出た時点で、残りの参加者は脱落になってしまう。
一度もゲームオーバーにならないように慎重に、なおかつ素早くダンジョン踏破をする必要がある。
『それでは始めますよお~。頑張って一番にダンジョンを踏破してくださいねえ~。一番にクリア出来たパーティーのみなさんは、無事にお家に帰れますからねえ~。では、ゲームスタート☆』
アナウンスが終わった途端に、参加者たちが一斉にダンジョンの奥へと走り出した。
早めにモンスターを倒してレベルアップがしたいのと、他の参加者にとられる前に良いアイテムを入手したいからだろう。
「このダンジョンは確か50階まであったはずだ。レベル10スタートならそう簡単に踏破は出来ないはず」
俺は回れ右をすると、ダンジョンの入り口へと歩き出した。
すると、ふいに肩を叩かれた。
「ねえ、君。どこへ行くんですか?」
肩を叩いてきたのは見知らぬ男……全員が知らない人間なのだが、その知らないうちの一人だった。
「ダンジョンから出るつもりだ。長期戦を覚悟するなら、食糧などの物資を整える必要がある。ゲームがスタートしてからならダンジョンを出ても良いとアナウンスが言ってたから問題はないだろう」
『シャインワールド』ではキャラクターに空腹度の概念がある。
ダンジョンの中には食糧が置かれているが、あれだけの人数が一斉にダンジョン攻略を行なったら、食糧の取り合いになる可能性がある。
それを避けるためには、あらかじめ食糧を調達してからダンジョンに挑むのが最適解だ。
「ですが急がないと他のパーティーにダンジョンを踏破されちゃうかもしれませんよ?」
「このダンジョンを踏破するのは簡単じゃない。特に初期装備のレベル10じゃキツイ。だが急がないといけないのはその通りだ。だから俺はもう行く」
「僕と組みましょう」
男が手を伸ばしてきた。
パーティー契約をしようという意味だろう。
「……さすがに今すぐ決断は出来ない。初対面だしな」
「ですがルールを聞いた感じ、パーティーを組まないと損ですよ。一人でダンジョンを踏破しても、パーティーでダンジョンを踏破しても、勝利には変わりないみたいですし」
確かにあのアナウンスの説明を信じるなら、その通りだ。
しかし初対面の相手と軽率にパーティーを組むのも考えものではある。
パーティーを組んだ結果、逃げるべきか戦うべきかで意見がまとまらず動けなくなるくらいなら、ソロで動いた方が良い場合もある。
「どうして俺とパーティーを組みたいんだ?」
時間が惜しいとばかりに歩きながら男に尋ねる。
男も歩きながら俺の質問に答える。
「僕も物資の調達をしてからダンジョンに挑もうと思っていたんです。どうせ組むなら同じ考えの人と組みたくて」
「……理由は分かった。町まではモンスターを退治しながら資金稼ぎをするつもりだ。その中でお互いに信頼出来たらパーティーを組もう」
「分かりました。そうしましょう。僕の名前はタカユキです。君は?」
一瞬『シャインワールド』でいつも使っているキャラクター名を名乗ろうかと思ったものの、相手が本名っぽい名前を名乗ったためやめておいた。
それにこれは楽しいゲームではない。命を懸けたデスゲームで「アレキサンダー」と呼ばれるのはなんか嫌だ。
そのため俺も本名を伝えることにした。
「翔太だ」
* * *
タカユキとともにダンジョンの外へ出てモンスターを退治する中で判明したが、タカユキの職業は回復職のヒーラーだった。
タカユキが誰かとパーティーを組みたいと考えた一番の理由は、この職業が理由だろう。
ヒーラーはパーティーにとって無くてはならない存在だが、ソロでダンジョンを踏破するには向かない職業だ。
ちなみに町へ到着するまでのモンスターは、ほぼ俺が一人で倒した。
何度か回復もしてもらったから、ありがたかったと言えばありがたかったが、アーチャーとヒーラーのパーティーでは戦力が心許ない。
出来れば俺以外にも戦闘職のメンバーが欲しいところだ。
「さあ。無事に町に着いたことですし、パーティーを組みましょう」
「タカユキは全然戦ってくれなかったがな」
「レベル10のヒーラーではモンスター退治は厳しいですよ。それはショウタ君も知っているでしょう?」
「それは、まあ」
この口振りからするに、タカユキも元々『シャインワールド』のプレイヤーだったのだろう。
「たぶんですが、あそこに集められた全員が『シャインワールド』のプレイヤーだと思います。そうでなければ、ああも慣れた様子でダンジョンの奥に進みはしないでしょう。それに主催者もあの場の全員がパーティー契約の方法を知っているような口振りでしたし」
「集められた全員が……」
それならダンジョン踏破は案外早く達成されるかもしれない。
急に焦燥感が襲ってきた。
「これ、何だと思います? やっぱり今流行りのデスゲームの亜種でしょうか」
「タカユキもそう思うか?」
「デスゲームを開催するなんて狂っていますが、僕たちを拉致している時点でまともな神経ではありませんからね。何をされても不思議ではないです」
俺の身体が主催者のもとにあるなら、俺は今、行方不明という扱いになっているのだろうか。
……どうだろう。一人暮らしだから一日や二日連絡が取れないくらいでは通報はされない気がする。
大学は義務教育と違って学生の欠席にそこまで関与しないから、俺に連絡をしてくる相手は友人かアルバイト先くらいだろう。
どっちも一日連絡が取れなくても放置しそうだ。
「こんなおかしなゲームに一人で挑むのは無謀ですよ、ショウタ君」
「確かにモンスターと戦ってはくれなかったが、タカユキとパーティーを組むメリットは感じた。タカユキがパーティーを組みたい理由も分かったから、不信感は薄れたかもな」
「そうでしょう、そうでしょう。たった一人が残るデスゲームなら全員が敵ですが、このゲームではパーティーを組んだ仲間は一緒にクリア出来るようなので、最後まで仲間なんです。裏切る理由なんてありませんよ」
「裏切るメリットは無い、か」
タカユキの意見に納得した俺は、タカユキに向かって手を伸ばした。
「俺とパーティーを組もう」
「待ってました!」
タカユキはすぐに俺の手を握ると「パーティー契約」と唱えた。
すぐに俺とタカユキの周りに光の粒子が舞った。
これは『シャインワールド』でパーティー契約が成立した証だ。
「あらためてよろしくお願いします、ショウタ君」
「ああ、よろしくな」
「買うのは食糧品と、可能なら装備品も整えたいところですね」
「そこまで高級なものは買えないだろうけどな。だがこれ以上資金集めをするのは少し怖いな。他のやつらがダンジョンの高層階まで行っちゃうかもしれないから」
俺たちは町にあるショップで携帯食と、残った資金で防御力や攻撃力が上がる装備品を購入すると、再びダンジョンを目指して走った。
今度は資金を得る必要は無いため、なるべくモンスターを無視して全力疾走をした。
そのためダンジョンに到着した俺たちは、ダンジョン内に走り込んだ勢いのまま地面に倒れ込んでしまった。